爺の嫌がらせメイン画像

txt:荒木泰晴 構成:編集部

発端

2019年秋、シグマから小型軽量のフルサイズデジタルカメラ「fp」が発売された。

山木和人社長の製品発表プレゼンテーションでは、「スチルとシネが境界なく撮影できる」と、アピールがあった。

ボディは小型だが重量があり、がっちりとした構造で、センサーの熱を逃がすヒートシンカーが装備され、長時間の動画撮影にも対応できている、と感じた。

写真1:ニコンZ 6とSIGMA fp

写真2:ソニーα6300とSIGMA fp

一方、最近の映像制作現場には女性の進出がめざましい。藝大の撮影照明領域でも、女性が過半数を占める。

藝大ではソニーのF65が2台、F5、F3が各1台。JVCケンウッド2台が主力動画機である。センサーはAPS-C。PLマウントレンズはどのカメラも使えるようになっている。

これらのカメラに、フォローフォーカス、マットボックス、モニターを乗せると、女性の体力では手に余る大きさと重さになる。

ならば、fpを使って「女性と年寄に優しいフルサイズシネ専用機を作ろう」と爺は思い立った。

改造に対する調査

爺は、新製品は最初のロットを見送って購入する。2020年が明けて、製造が安定したことを見計らい、営業担当者から「初期クレームは非常に少ない」「レンズマウント自体には、電子接点や回路に繋がるコードはない」「マウントはプラスチックのボディではなく、ダイキャストの金属部に固定されている」という、情報を得た上で発注、1月11日に入手した。

写真3:箱が届いた

写真4:fpボディ

fpは、ライカ、パナソニック、シグマ3社がアライアンスを組んで、共通のLマウントを採用している。

掟破りの改造に着手

fpにはシグマ製のPL-Lマウントコンバーター「MC-31」が存在する。InterBEEで見たが、非常にがっちりできていて、精度も高い。Lマウントにネジ止めで固定でき、「シムでバックフォーカス調整」もできる。

爺はここが気に入らない。

記事でも繰り返し書いてきたように、マウントアダプターの精度には疑問を持っている。シグマ製のアダプターは良くできているが、「それでもシム調整が必要」と考える。

ならば、「最初からバックフォーカスがきちんと調整された、PLマウントを直付け」してしまえば調整する必要はないし、使用中も狂わない。

fpはメーカー製以外の付属品も自由に取り付けられるように、ボディの外観3Dデータを公表しているが、レンズマウントをPL仕様にしてしまうことまでは、許容範囲ではないのは承知。

「ボディを改造してしまうと、ファームアップも対応しない」という、半ば脅しも承知。

そもそもスチルを撮影するなら、スチル向きのDSLRの方が使い易いので、fpは必要ない。シネしか撮らないことを前提に始めた改造計画である。

ただし、ボディを削ったり、穴を開けたりする改造ではない。ネジ止めされている部品を取り外し、そのネジ穴に違う部品を取り付けるだけで、いつでもオリジナルに戻せる。

三光映機

さて、改造は例によって三光映機の天野社長に依頼。

PLマウント部品は、アリフレックス35IIIをニコンマウントに換装するために取り外した純正品を使う。これなら誰にも文句を言わせない。

写真5:アリオリジナルPLマウント

fpを持ち込んで、「こんなことをしたい」と説明して、置いて帰った。二週間ほどして、「形になったので、PLレンズを持って来い」と電話あり。

天野社長いわく、マウント自体はがっちりできていて、裏面にバネがあり、専用Lレンズは確実に固定できるだろう。PLマウントレンズは重いので、余計な遊びはない方が好ましい。

マウントを固定するネジは6本止めで確実。ただし、ネジの配置が変な角度になっている。

さすがにライカの基準らしく、マウントとボディの位置決め精度が高いし、ボディ側のネジ穴も金属部分に開けられていて、信頼感がある。ネジは星形のドライバーがないと取り外せない。

写真6:取り外したLマウント

写真7:星形のビス

そんなひねくれたネジ位置を決める図面を作成するのに、デジタル画像をパソコンに取り込むシステムを作ってある。1個作ってみたが、ネジ位置が微妙に合わないので、調整しながらいくつか試作品を作った。

写真8:試作品

写真9:ボディへ仮組

と、説明があって、アルマイト加工前のマウントを取り付けてチェックすると、レンズの距離目盛8フィート付近で無限遠になった。

「ここから、少しずつ削りながらバックフォーカスを正確に52mmにする。この部分の数値が決まってしまえば、今後、改造を受注しても作業は楽になる。こっちも職人だから、面倒な方がかえって燃えるね」。

写真10:ドヤ顔の天野社長とアルマイト加工前のマウントを取り付けたfp

付属部品

改造は天野社長に任せて、シネ仕様に必要な付属品を調達した。

最近のシネ機は、前から、マットボックス、PLマウントレンズ、フォローフォーカス、カメラボディ、大容量バッテリーがリグ上に並び、カメラケージ上にモニターと外部収録メディアが乗る構成が多い。

これらを、例えばARRIの製品で揃えると、マットボックスとフォローフォーカスだけで100万円オーバーを覚悟しなければならず、ベースプレートやロッドを含めると、個人で購入できる金額ではない。

幸い、爺の手元に、塩谷茂君から頂戴したフォローフォーカスと、フィルムカメラで使ったLEEの蛇腹フードがある。

写真11:フォローフォーカスの箱

写真12:部品一式

これら手持ちの部品を使って、なるべく安価にシステムを組もうと、目論んだ。

SmallRigの代理店、NEPの政岡社長に電話すると、fp用のリグは完成していて、中国へ発注済み、とタイミングが良い回答。1台予約して、九段のNEP社で更に相談。

フォローフォーカスが15mmΦなので、長さ30cmのロッド、Y字型レンズサポーター、fp用ケージ、Vマウントバッテリーから、カメラ電源7.2Vとモニター用14.4Vが供給できるアダプター、を全て15mmΦで揃えることができた。

写真13:NEPから届いた箱

写真14:15mmΦロッドとY字サポーター

写真15:fp用ケージ

写真16:Vマウントバッテリーアダプター、7.2Vでカメラ、Dタップでモニターを駆動

写真17:付属品をロッド上に組み上げ

シグマシネレンズ

MSMカメラをIMAX社に売却した資金で、14、20、24、28、35、40、50、85、105、135mmのPLマウントシリーズ10本を購入してある。このうち、14、20mmは超広角なので、マットボックスが使えない。その他の8本は95mmのマットボックスが使える。また、14、20、105mm以外はフィルターネジが切ってあるが、85mmだけ86mm径で、残りは82mm径である。

そこで、新宿ヨドバシカメラに行って、LEE蛇腹フードの82mmリング、82mm径のND4とND8フィルター、86~82mmのステップダウンリング、を購入。

写真18:85mmに86~82mmステップダウンリングを装着

ソニーα7でフルサイズ3:2の静止画を撮影して観察すると、フィルター+蛇腹フードを使用して24mmでは左右が少々蹴っている。

写真19:ソニーα7S+PL-Eアダプター+24mm+ND4+LEE蛇腹フード

写真20:24mmでは左右が蹴る

28mmは問題ない。

写真21:28mm

85mmもステップダウンリングの影響はない。

写真22:85mm

これで、28、35、40、50、85、135mm6本にLEE蛇腹フード+82mmのネジ込みフィルターが使え、マットボックスのリテイナーは不要。レンズに掛かる重量は軽くなり、フォローフォーカスギアの負担も軽くなった。24mmは蛇腹フードなしで撮影すればよい。

NDフィルター

fpの最低感度は、ISO100である。この感度で24P撮影すると、通常、シャッタースピードは50分の1秒。ピーカンの戸外ではF22以上になるため、シグマシネレンズの最小絞りF16では足りず、NDフィルターを使わざるを得ない。ND4でISO25相当、ND8でISO12.5相当で、これならレンズの絞りで足りる。

マットボックス+4X5インチフィルターで対応するが、4X5インチフィルターは1枚5万円、厚さ4mmある。こんな高価で厚いフィルターは嫌だ。82mm径なら1枚1万円以下、厚さ2mm。爺の小遣いで買え、厚さも許容範囲。

ところが、最近の傾向は面白い。ND2を売っていない。ND4、8、16、64と濃い方へシフトしている。「絞りを開けたがるカメラマンばかり」なのか。濃いNDだと赤外効果で画面が赤に偏る。それを回避するためにはIRNDが必要だが、更に高価で、爺には買えない。

そもそも、14、20mmにNDフィルターをどうやって使えばいいのか。シリーズの全てのレンズをピーカンの戸外で、NDフィルターなしで使うために、動画にISO6やISO12の低感度を設定してもらいたいが、「できない」という回答。

fpの静止画では低感度設定ができるのだが、シャッタースピードを選べる静止画には不要。動画にこそ必要だ。

PLマウント機の完成

天野社長から、「バックフォーカスを調整して、アルマイト加工をして、組み上げた」と電話。良い仕上がりで、まるでオリジナル。

写真23:アルマイト仕上げをして完成したPLマウントシネ仕様のfpを持つ天野社長

写真24:シネ仕様のfpとZ6、PLマウントレンズは大型で重い

「カメラとレンズの高さが合わないので、スペーサーがいる。スモールリグ全体を支えるベースプレートもいる」と次期作業を確認して、システムを持ち帰り組んでみた。

SmallRigのカメラベースに、リグに装着したfpボディを2本のネジで固定すると、きちんとY字のレンズサポーターのセンターが合っている。

これならベースプレートは省ける。

2月8日、最終的にカメラを18mm上げるスペーサーを注文した。

テスト

帰宅して、木材を18mmの高さに切り、各部品を乗せてみると、余裕を持って全てが取り付いた。

写真25:木材でスペーサーの高さをテスト

スペーサーは2月15日に完成。軽量化のための肉抜きと面取りがしてあり、職人に手抜きはない。

写真26:カメラベースと18mmスペーサー

アルマイト加工前に持ち帰り、全ての部品を合わせてみたが、出色のでき。

写真27:全ての部品を並べてみた

写真28:順を追って組み上げる。fpボディにホットシューアダプターを取り付け

写真29:PLマウントリングを外して、fpボディをケージに取り付け

写真30:ケージの下カメラネジ

写真31:向かって右サイドのカメラネジ。2本で固定するので位置決めが正確

写真32:カメラベースとケージは2本のボルトで固定。ここも位置決めが正確

写真33:ACアダプターにバッテリーコードを直付け

写真34:フォローフォーカスとY字サポーターを取り付け

写真35:50mmレンズを取り付け

写真36:Y字サポーターとレンズの高さを合わせて固定し、テープで更に固定

写真37:NDフィルターを取り付け

写真38:LEE蛇腹フードを取り付け

写真39:ロッド後部にVマウントバッテリーアダプターを取り付け

30cmロッドでは少々バックモニターが遠くなるので、「渡邊トノ」こと渡邊聡氏から20cmロッドを譲ってもらい。交換ロッドも揃った。

20cmロッドに組んで重さを測ってみると、シグマ50mmを含んで3.7kg。フルサイズのシネ専用機としては、最軽量の部類だろう。これにVマウントバッテリーと7インチ程度のモニターを乗せると、6~7kgに収まる見込み。

写真40:シネ用のザハトラー三脚へ乗せるとレベルの調整も容易

写真41:フル装備

何故、こんなことを

発端は山木社長の「fpを使って自由な展開を望む」という発言。ならば、メーカーの想定を超えた使い方をしなければ面白くない。また、シグマPLシネレンズの性能を最高に引き出すためには、中途半端な改造では意味がない。シグマとしても、他社製のカメラボディで自社製レンズを評価されても釈然としないだろう。

 

シグマは大カメラメーカーのような硬直した組織ではなく、小回りの利く会社であって欲しい。ユニークなカメラを作った責任を、ユーザーとメーカーが対等に分担して、発展させるのが、正しい方向である。

「この改造とソフトウエアのファームアップは一切関係がない」。爺はシグマfpをシネ機として評価したからこそ、無茶とも思える改造に着手した。

とまあ、改造に対する理由はいろいろあるが、本音は「爺の暇つぶし」。

WRITER PROFILE

荒木泰晴

荒木泰晴

東京綜合写真専門学校報道写真科卒業後、日本シネセル株式会社撮影部に入社。1983年につくば国際科学技術博覧会のためにプロデューサー就任。以来、大型特殊映像の制作に従事。現在、バンリ映像代表、16mmフィルムトライアルルーム代表。フィルム映画撮影機材を動態保存し、アマチュアに16mmフィルム撮影を無償で教えている。