ここまで「動きを捉える」事をテーマにフレームレートとシャッタースピードの理解を深めてきた。これは今後もずっと関わってくる事なので忘れずにしっかり覚えて、本番や編集段階で慌てる事のないように充分テストをして自分の目で確かめておいてほしい。
カメラワークにこだわれ!
さて今回は動画を撮る上でもう一つの重要な「動き」、カメラワークについて触れよう。被写体の動きとカメラ(視点)の動きという二つの動きが一つの固定画面に映し出されるという事を頭の中でしっかり整理しておいて、場面と目的に最適な表現を選ぶ事が重要で、特にカメラを動かす事には技術とセンスが必要だ。その分個性が発揮できる部分でもある。役者、監督、そしてカメラマンの気持ちが一つの表現に向かって完全にリンクした時、特別なカットが生まれる。固定に比べていろんなリスクは伴うがぜひ積極的に挑戦してほしい。
- 静被写体←静撮影:静止画と同じように思われるが、例えば役者が動かずにしゃべるのを固定カメラで捉える場合も同様。視聴者の安心感と集中力は高まるが、続けると退屈させてしまう。
- 静被写体←動撮影:動かない物に何かを語らせる場合、視点の変化や揺れでそれを表す。カメラマンの腕と感性が最も問われる。画面全体が動く。
- 動被写体←静撮影:動かないバックグランドの中で被写体が動く。これは逆に役者と演出の技量が試されるところだ。状況と動きの両方が伝わる。
- 動被写体←動撮影:最もダイナミックに被写体の動きを表現できる。反面高度な技術とセンスが問われる。言うまでもなく、画面全体が動く。
もちろんそれぞれの動きや組み合わせ等で効果も変わって来る。一概に「この場合はこうだ。」とは言い切れないのだが、まずはこの4つに分けて特徴とリスクを把握しておくといいだろう。この中でも静撮影が基本だという考え方があるが、私はそうは思わない。それは安全で楽な方法だという意味で、表現方法としては4つ全てを平等に選択できるようにしてほしい。
むしろ静撮影に対して動撮影の方がそのバリエーションは無限大で、表現手段としてはこちらを選ぶ事の方が多くなってくるはずだ。このコラムでも幾つか具体的な例を紹介したいと思ってはいるが、前述のとおり、映像表現の個性が最も発揮される部分なので、既成概念に捕われる事なく、自由な発想で挑戦していってほしい。
動撮影のリスクとは?
カメラを動かすと一言で言っても方法はいろいろある。三脚、クレーン、ドリー、レール、そして手持ち等々。中でも最も一般的な方法として三脚に固定したままのパン(水平移動)、チルト(垂直移動)、またはパン+チルトというのがあり、静撮影からここまでを一般的にフィックス撮影と呼び、リスクの少ない安定した映像が得られる。特にお固い仕事や絶対に撮り損なってはいけないケース(カメラ一台での記録撮影とか)、長時間撮影等ではこれを選ぶ方が無難と言える。余談だが私も、あるマンションのPRビデオの仕事の時に、「全カットをフィックスだけで撮ってください。」と言われ驚いた経験がある。
安全なフィックス撮影とは言え、カメラを動かす以上この段階で知っておかなければならないリスクはある。カメラを動かすという事は画面全体が動くという事で、その動かし方次第では視聴者を乗り物酔いのような状態に陥れてしまう事がある。その代表的な例が往復の動きで、繰り返す事はもちろん、最悪一回で酔わせてしまう事もあるから注意が必要だ。
例えばテニスの試合を横から一台のカメラが左、右とボールを追う放送等は見たことがないだろう。プロとしてはやってはいけないカメラワークだとされている。ところが実際に撮っているカメラマンが酔ってしまう事は少ない。これは車でも運転手が酔う事が少ないのと同じ理由で、自分の意志で動かしている以上、ちゃんと予測できているからなのだ。これを逆手に取って不安感や驚きを誘う為にあえてタブーを破ったのが映画「クローバーフィールド」や「ブレアウィッチプロジェクト」で使われた手法だ。上映前には必ず注意書きが流された事からも、やはり危険なカメラワークだと覚えておくべきだろう。それを避ける方法として「基本は一方通行。往復の前には一旦停止。」と覚えておこう。
もう一つ注意が必要なのはやはり速い動きだろう。被写体の動きが速い時も同じだがカメラを素早くパンやチルトする時は画面全体がチラついたりするので、注意が必要だ。24p等の低フレームレートの時のチラつき、インターレースの時の縦の動き等、今一度フレームレートやシャッタースピードの事をしっかり理解し、対処してほしい。そしてもう一つ覚えておいて欲しいのが俗にローリングシャッター現象と呼ばれる画像の歪みだ。
現在CCDに代わりほとんどのビデオカメラやデジタル一眼で採用されている撮像素子CMOSだが、構造的弱点が一つある。画面全体を同時に読み取るCCDに対してCMOSは上から順番に読み込んでいくため一つのフレームを上から下まで読み取るまでに少しのタイムラグがある。故にそれを超える速さで動く物は歪んで記録されてしまう。動画で見る限り静止画で見る程は気にならないかもしれないが、やはりないに越した事はない。最近その歪みを補正するようなプラグイン等も発売されているようだが、記録されていない以上、いくらかの無理は覚悟しなくてはいけないだろう。いずれにしても被写体にしてもカメラワークにしても速い動きにはリスクは付き物だと思っておいて間違いない。対処法はシャッタースピードを下げてフレームレートとシンクロさせ、ブラー(ブレ)を利用してスムーズ感を出すか、状況が許せばゆっくり撮っておいて編集時にスピードを上げる等だ。一見同じ事のように思えるだろうが、撮影時にちゃんとしたフレームを作っておく事が重要なのだ。
それでもカメラを動かそう
この他にもカメラの向きを変える事によって明るさが変わったり被写体までの距離も変わる。特にオートフォーカスがないデジタル一眼での撮影ではカメラを動かしながら被写体を捉え続けるという高度な技術が必要なのは想像できるだろう。そこに役者の動きや演出のタイミングが加わり、それがぴったり一致した時に特別なカットが生まれる。次回からはいくつかのカメラワークの具体例を紹介しながらそこに付きまとうリスクも説明していこうと思うが、決して怖がらせている訳ではない。カメラをアグレッシブに、個性的に動かす為に、まずそのリスクを理解し、それを乗り越える為のトレーニングをして、ぜひ特別なカットを撮ってほしいと思う。