カメラを動かす具体的な例を紹介する前に、レンズの画角について触れておきたい。一見、動きには関係ないように思えるが、実は大有りで、誤解の多い部分でもある。一度しっかり確認しておこう。
ズーム(広角~望遠)は”遠近”ではない
当然の事だがズーム・イン/アウトをしてもカメラが被写体に近づいたり遠ざかったりする訳ではない。それはレンズが捉える視野の角度の差であり、”広角”の逆は望遠ではなく”狭角”というべきかもしれない。その角度で捉えた映像が同じサイズの画面に収まった時に結果として縮小、拡大されるという事だ。この事を今一度しっかり認識しておいてほしい。
別の見方をすればカメラの位置を変える(広角で近づく、望遠で離れる)事によってメインの被写体を同じ大きさで捉える事もできる事になるが、当然背景は大きく変化し、前の物と後ろの物の大小差(遠近感)もかわる。今回は3DCGでシミュレートしているが、実際には被写界深度や歪み等もレンズによって差が出てくるので印象は大きく変わってくるが、それはまた別の機会に解説しよう。
揺れやすい、外れやすい望遠
ここまでは絵作りの話のようでもあるが、この角度をしっかり認識しておかないとカメラを動かした時に思わぬ失敗をしてしまう。カメラを動かすのはいいのだが、意図しない動きはできれば避けたいし、ひ弱な三脚を使った時のガタガタや手持ちの時の震えや揺れは、時として視聴者に不快感を与える。これもレンズの角度によって大きく変わってくるのだ。下の図では広角と望遠のレンズを”同じ角度”で左右に振ってみた。望遠は角度が小さい分、絵がガラッと変わってしまう。特に距離のある物ほど大きく変わる。つまり可能であれば手持ちの時は広角の方が安心だと言う事だ。また、動きの予測ができない物を追う時も広角でないとすぐに画面から消えてしまう。慌てて揺れて、探して往復を繰り返し…。
前回でも触れたように、撮っている本人は気づかないのだが、そんな映像を見せられたらたまったものじゃない。”お父さんの運動会映像”(失敬!)と呼ばれたりもするが、実はプロの編集室にも素人が撮った素材が持ち込まれる事もある。編集の為、長時間、繰り返し見ていると本当に気分が悪くなる。これは極端な例なのだが、望遠レンズをつけている時は心臓の鼓動や、たとえ三脚に固定していても強風等にはプロでも注意をはらっている。
ウォーク・イン/アウトを習得せよ!
画角の話をしたついでにカメラワークの具体例を一つ紹介しておこう。例えば引き気味に捉えた役者にだんだん寄ってアップで終わる、またはその逆のケース。ほとんどの人がズームを選択するのだが、単純にカメラを近づけていく(または離してゆく)ウォーク・イン/アウトも同等に選択肢に入れてほしい。ズーム・イン/アウトとは背景がまったく違うし、途中の視点の軌道や角度も自由度が高い。また、広角で寄っていけば寄った後も望遠状態にはなっていないので、揺れや震えを気にする事なく撮り続ける事ができるのも大きなメリットだ。
現時点で”使える”ズームレンズがあまりないデジタル一眼などでは絶対に必要となるテクニックなので今のうちに習得しておきたい。
ただここで特に注意が必要なのがフォーカスだ。ズーム・イン/アウトと違って被写体とカメラとの距離が変化してゆくこの方法では随時フォーカスを合わせ続けなければいけない。オートフォーカスが思うように追随してくれればいいが、自信を持ってウォーク・イン/アウトを選択する為にはやはりマニュアルフォーカスに慣れていなければならない。特にオートフォーカスのないデジタル一眼では絶対に必要だし、フォーカスリングのタッチもレンジ(同じ距離を動かすのに必要なリングを動かす幅)もレンズによってまちまちなので、レンズをいろいろ変えながら撮影するデジタル一眼ではかなりの技術を要する。頑張ってほしい。