ゲーム開発者向け国際カンファレンスと言えば、毎年、3月に米サンフランシスコで開催されるGDC(Game Developers Conference)が知られている。似たようなイベントには、夏のCG関連カンファレンスSIGGRAPHもある。いずれにしても、英語カンファレンスである海外イベントはまだまだ敷居が高いと感じる人も少なくない。しかし、昨年2009年末にはSIGGRAPH ASIAがパシフィコ横浜で開催された事でも分かるように、最新技術を得てスキルアップを図るには、欠かせない関門であることも確かだ。
日本におけるゲーム開発者向けのカンファレンスと言えば、「CESAデベロッパーズカンファレンス(CEDEC)」がある。SIGGRAPHの直後に開かれるCEDECは、CG開発メーカーやグラフィックスカードメーカーの最新情報が得られる場としても、毎年注目度の高いイベントだ。そのCEDECが、今年は、海外に向けて技術発信可能なイベントとして大きく進化を遂げることになりそうだ。日本から世界市場へ──。今年の晩夏は熱くなりそうだ。
コンピュータエンターテインメント協会(CESA、和田洋一会長、東京都港区)は5月28日に記者会見を行い、8月31日から3日間、パシフィコ横浜でゲーム開発者向けカンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス2010(CEDEC 2010)」を開催すると発表した。
技術カンファレンスであるCEDECは、産学官の垣根を越えて、開発者が一堂に集まって最新の開発技術やビジネス情報を共有できるような情報交換・技術交流の場を提供することを目的に、1999年に初回を開催。2009年からは会場をパシフィコ横浜に移し、今回が12回目の開催となる。今年のセッションは150を予定しているほか、ポスター発表なども追加する。受講申込受け付けは公式Webサイトhttp://cedec.cesa.or.jp/で7月1日から開始する。3日間通し参加向けのレギュラーパス
(事前申し込みのみ、7/31までの早期割引価格3万円・通常申し込み価格4万円(いずれも一般料金))、会期中1日限定のデイリーパス(通常申し込み価格1万5千円・当日2万円)に加え、今年からスポンサーによる展示ブースとスポンサーシップセッション、ポスター発表などに参加できるエキスポパス(通常申し込み価格1千円・当日2千円)
を新設した。コンピュータエンターテインメント協会 和田洋一 会長 |
記者会見で和田洋一CESA会長は、「日本のゲーム市場はゲームコンソールを中心に活発化した。開発においては、異なる仕様の各コンソールに対応するため、コンソールメーカーとのやりとりが重要になった。メーカーにとっても、開発環境や次世代コンソールの情報をいかにソフトウェアメーカーと共有するかが重要だった。結果として、コンソールメーカーの開発セクションがサードパーティの情報のハブとなっていた。しかし現在は、PC、携帯など開発環境が分散してきたことに加え、マイクロソフトやソニーが海外での開発を進めてきており、ハブとしての機能が弱体化してきてしまい、ゲームクリエイター同士が対話する具体的な場所が他に必要になった」とCEDECを位置付けた。その上で、CEDECの役割について、(1)ゲームクリエイター同士の対話の場の提供、(2)海外クリエイターとの交流、(3)映像や音響、ネットワークなど他分野の技術交流の3つを挙げた。
公募を中心としたセッションへ移行
CEDEC 2010では、プログラムが大幅に変わりそうだ。CEDEC組織委員会で委員長を務める吉岡直人氏(スクウェア・エニックス)は、セッション内容について次のように話した。
CEDEC組織委員会 吉岡直人 委員長 |
「今年は開発者の自立をテーマに、公募を徹底的に強化しました。その結果、若手・ベテラン・研究者・学生・海外などから400件弱の公募が集まりました。この公募案件については、CEDECのセッション内容に責任を持つプログラム委員会で選考を進めています。この選考は、公募者との討論を通じて、公募者の知見を深めてもらうとともに、技術内容を伝えるためのスキルアップのサポートをすることが目的です。採択率については公募数の30%を想定しています」
全体のプログラムは、従来のセッション、パネルディスカッション、ラウンドテーブルに加え、ポスター発表とショートセッションを新設する。ポスター発表は、発表者と参加者の意見交換通じて多様性を深めるためのもの。吉岡氏は、「30件あれば多様性が出て来るのではないかと考えています。あとは会場内のスペースに応じて総数を決めたい」と話した。ショートセッションは、「ゲームAI」「レンダリング」など似通ったテーマを複数合わせることで、多様な見方を同時に提供するセッションとなる。「1つの技術要件に対しても、多様な見方があるということを紹介できればと考えている」(吉岡氏)
さらに、開発者自身のスキルを競う企画として、CEDEC CHALLENGEも新設する。CEDEC CHALLENGEは、「超速碁九路盤AI対決」「Photoshopペイントマイスター」「3日でゲームを作ってみる」という3つのテーマで実施する。「超速碁九路盤AI対決」は、コンピュータ囲碁フォーラムと連携した産学連携として実施。AI分野にフォーカスし、1.1秒のコンピュータ同士のコンペティションを実施する。「Photoshopペイントマイスター」は、ゲーム開発におけるPhotoshopのプロフェッショナルワークを技術公開する内容。「3日でゲームを作ってみる」はソーシャルゲーム開発者と協同。CEDEC会期中にゲーム制作を行い、それを公開するものとなる。
日本の技術発信に積極的に取り組む
昨年のCEDEC 2009セッションの様子 |
CEDEC 2010は、技術や価値の発信強化にも取り組むという。これまでは、海外講演者のセッションにおいて日本語同時通訳セッションを設けてきたが、CEDEC 2010では、一部の日本語セッションにおいて英語同時通訳セッションも設ける。「英語しか話せない人が来場しても、3日間1コマも退屈しないことを狙っています。海外からの来場者がCEDECを十分に活用できるようにするとともに、日本の開発者との交流促進が狙いです。日本の開発者の海外発信力の改善に繋げたいと考えています」(吉岡氏)
さらに、一部セッションにおいてはニコニコ動画でのネット配信を予定しているほか、Twitterとの連動も検討しているという。CEDECで配布される資料については、講演者の許可が得られるものは、会期後にCEDEC DIGITAL ARCHIVEとして検索可能な形で公開することも考えているそうだ。このCEDEC DIGITAL ARCHIVEは、過去のCEDEC資料についても遡って掲載していく。
技術発信という意味では、CEDEC会場内に書籍販売コーナーをCEDEC書房として設置。ゲーム関連技術書籍を扱う出版社が、書籍を販売できるようにする。
雇用創出面では2009年と同様に、CEDEC会期中、学生向けに「『ゲームのお仕事』業界研究フェア」を併催する。この業界研究フェアは、経済産業省の委託事業としてCESAが企画したもので、大学生・大学院生・専門学校生などにゲーム産業の市場動向や職種内容について理解してもらう内容。「市場」「仕事」「人材」「国際化」の4テーマで、3日間合計15セッションを行う。
日本の技術発信により力を入れ始める今年のCEDEC 2010。GDCと並んで国際的にも注目されるイベントへと成長して欲しい。