上海に見る中国パワー!
今回は、まずお詫びから入らねばならない。前回の当コラムにおいて「中国の成長が10%程度に伸び悩み、日本のGDPを越えるのが来年になるかも」と書いたが、掲載直後の我が国の経産省発表で、あっさりと日本が抜き去られてしまったのだ。
これは、今年の4~6月期に、中国の伸び悩みを遙かに越える勢いで我が国のGDPの伸び率低下が見られた為であり、それまでの鳩山前首相の政治主導型の民間景気回復路線が失速して退陣、菅首相の財務省主導型の国庫再建路線への急激な回帰による内需の激減が発生した時期と重なっている。こうしたいわゆる「菅製不況」の影響があまりに強かったのがこのGDP伸び率低下の原因と見られる。
本当だったら今回のコラムで、この4~6月期経産省発表を受けて「ほら、俺の言ったとおりだったろ」と威張る予定だったのが、このように外してしまい、情けないやら恥ずかしいやら。私の周囲に民主党関係者が多い関係でどうしても民主党の政策には甘くなってしまう傾向があったようだ。従来であれば首相交代で大きく読みを変えるべきところであり、ここは強く反省したい。連載初回からドジを踏んでしまい、申し訳ない。
そんなわけで、今回の世界映像紀行、前回に引き続き、ついに我が国日本を抜いて世界第2位の経済大国となって注目を集める中国の映像オタク事情を追って行きたい。
万博会場に見る、中国パワー(その2)
北朝鮮館外見。立派なパビリオンだ
まずは前回の続き、上海万博でのオタク社長的見学記から。実は、上海万博でオタク的に最も注目されていたパビリオンの一つは、なんと北朝鮮館。
日本国籍の人間の渡航が禁止され、我が国から見ると事実上の敵対国である北朝鮮だが、実はこの国の名産は切手。切手オタクにとってはまさにあこがれの国らしいのだ。切手オタクの間では名高い、元切手商にして実録映画「選挙」の主人公でもある前自民党市会議員の山内和彦氏もこの北朝鮮館に何度も足を運んでいるそうで、日本人がこうやって北朝鮮切手の直販に出会えるのは、大変すごいことらしいのだ。(らしい、らしい、と繰り返しているのは、私自身に切手属性が無いため。一見似たようなオタクでも、属性が違うと互いにまったく興味が無いものなのです)。
この北朝鮮館は、なんと、並ばずに入れる不思議なパビリオン。それもそのはず。その中はがらんどうで、展示物は全て壁際に並んでいるだけ。そのため同じ大きさの建物でも、他の国のパビリオンとは収容人数が違うのだ。だがしかし、決して北朝鮮館は不人気館というわけではない。地獄のような上海の猛暑の中、並ばずに入れ、適度にクーラーの効いた北朝鮮館は、まさにこの世の楽園。収容人数が膨大なため休憩する多数の人民をも余裕で飲み込み、この北朝鮮館を起点にして動く人の姿が多く見られた。北朝鮮館は知る人ぞ知る極楽パビリオンと化していたのだ。
北朝鮮館内部。巨大な塔が目立つ。皆、涼を取れてほっとした表情を浮かべている
学校の文化祭でやりたいことがまとまらず、とりあえず机の配置を換えて飲み物を置いただけで「休憩室」として展示したら思わぬ人気展示になったりするが、ちょうどあんな感じである。さて。そんな北朝鮮館も国を紹介する展示を行っているが、映像よりも模型や音楽重視であり、そこは本コラム的には残念であった。切手の方もじっくり見てみたが、やっぱりその萌えポイントがどうしてもわからなかった。これまた残念である。
北朝鮮館の隣のイラン館も、オタク的に注目のパビリオン。こちらは、模型が充実しているというので期待していたのだ。
イラン館。中国とは、シルクロードを通じて繋がりの深い国
確かに、全展示が模型で行われている気合いの入りよう!実際、模型展示は見た目はたいしたことがない割には人手のかかる、結構大変な展示なのだ。それなのに、壁の貼られた地図まで全て立体模型というのは、大したものである。
マスコットキャラクターの模型にも凝っており、あちこちに置かれた歯車で作られたロボット風の模型が可愛い。どうもこのロボットが、イランパビリオンにおけるイラン近代工業化のマスコットみたいなものらしい。また、イラン館では絨毯が売られていた。いずれの絨毯も数百万円の高価なものだが、飛ぶように売れていた。
歯車で作られたロボット風の模型。上には即売の絨毯。値段を気にせずそこに座り込む中国富裕層の夫人
実は中国には、1億2千万人の可処分資産1億円以上の富裕層が居る。中国は貧乏な印象があるが、その中には日本の人口と同じ人数の大金持ちが居る。だから、こうした高価なものも当然売れるのだ。そうした富裕層は当然この上海万博にも集まってきている。その層を狙って高額品をパビリオンで直販しようというイランのこの発想は充分に勝算のあるものなのだ。こうしたところからも、中国パワーをまざまざと見せつけられた。
なお、イラン館には日本のアニメキャラの絨毯まであったが、こちらは権利上色々あるらしく、撮影を拒否されてしまった。残念。
電気街から
BEST BUYは、日本を飛び越して上海に直営店を出店した
万博に沸き立つ上海の街では、万博に合わせた再開発で、一気に都市生活の近代化が進んでいる。街中にはアメリカでおなじみの家電量販店「BEST BUY」も出店し、大賑わいであった。
「BEST BUY」の価格帯もほとんどの品は日本よりはだいぶ安いが、それでもソフトウェアやアップル社製品などには日本より高いものもある。それでも飛ぶように売れている。これは、「BEST BUY」の製品がほぼ確実に正規品である点が大きいという。中国では、あからさまな偽物が急速に減りつつあり、特に沿岸都市在住の富裕層には本物を求める指向性が強い。そこで、この富裕層向けデパートの建ち並ぶ徐家区での成功となったようだ。
違法ソフトウェアの類はまだまだ多いが、それは本物の入手する機会が少ないからであって、「BEST BUY」のような店があれば、そこで買う選択をする中国人民も徐々に増えている。
ここには、大きな変化を感じる。日本企業にとっては巨大マーケットを手に入れられるビジネスチャンスでもあり、世界的に見れば1億2千万の人口の日本の存在感が無くなる危機でもあるのだ。
富裕層の若者で賑わう「BEST BUY」店内。気に入れば皆、即決で買ってゆく
体感した「革命」
さて、今回の上海紀行の最後に、ある一つの「革命」を体感したことを付け加えておこうと思う。この感動は一生覚えているだろうと思う。それは、7月20日上海時間で深夜11時のこと。突然、私のiPhone4に、MMSが届いたのだ。日本キャリアの海外パケットローミングは高額なため、設定上から全て切っておくのが普通なので、MMSが届くこと自体が驚きだ。
パケットし放題対象事業者に切り替えたことを知らせるMMS。これが来れば安心して通信が出来る!
MMSの内容は「<ご注意>海外パケットし放題【対象外】の事業者に接続されました」というもの。その時一杯飲んでいたホテルのロビーバーを見れば、ちょうど同時にメールが来たらしく、日本人らしき人が数人、一斉に携帯を見て驚いていた。恐らく、世界中で同時に同じ光景が見られたに違いない。
そう、ちょうど日本時間で7月21日深夜0時。この日から、ちょうどsoftbankの海外パケット定額制が始まったのだ。この日から、数十万円と言われる海外パケット通信費におびえることなく、日本の携帯番号のままで海外でもiPhoneやその他スマート携帯を使うことが出来るようになったのだ。一般旅行者ならともかく、ビジネス旅行者にとっては日本での携帯番号は大切な命綱であり、海外現地携帯に安易に切り替えることの出来ないもの。そのため、多大な不便を強いられてきたのだが、この日、これが一気に解消されたのだ。
中国ではTwitterは禁止されているが、なぜか携帯パケット通信だけは接続が出来ることが知られていて、私も早速パケットし放題対象業者につなぎ替えて、@masason氏にお礼のツイートをした。
Twitterでおなじみの@masasonことsoftbank社長、孫正義氏。今更説明するまでもないだろうが、同氏は1990年の9月に日本に帰化されている日本人であり、Twitter上での「やりましょう」の一言でトップダウンの様々な事業を実行していることで知られている。私のような単なる幸運で日本人に生まれついただけの者と違い、自らの意志で日本人になった人間は、やはり日本に必要なものよくわかっている、と実感する。
実際、海外パケット定額制は日本のビジネスパーソンから切望され続けてきたものだが、事業的には大赤字になると言われ、日本の全ての携帯キャリアが及び腰であったジャンルだ。そこへ一気に切り込んだ同氏のこの行動は、まさに「革命」と呼んでいいものだ。
事実、その後しばらくしてNTT DoCoMoも海外パケット定額制に踏み込むことが発表され、世界で戦う日本のビジネスパーソンに強力な武器が供給されることになった。@masason氏はTwitter上で龍馬へのあこがれを繰り返し口にしているが、今回の海外パケット定額制は、窮地に立つ今の日本にとって、龍馬が薩長に行った武器供給のような絶大な効果が現れるものと確信している。もちろん今後は私も、世界各地でガンガンiPhoneを使ってみるつもりである。
さて、iPhoneといえば、中国でも人気の携帯だ。当然、上海の電脳城でもあちこちで販売されていた。
さて、どれが本当のiPhone4でしょうか(笑)?
中国電脳城のスマートフォンコーナー、どれも決して偽物という訳ではないが。……似てる
実は、中国では、iPhoneのデザインは流行っていても、本家のiPhone自体はiTune Storeなどの閉鎖性が嫌われてあまり流行らず、Apple社公式アプリ以外が使えるように改造されたジェイルブレイク版や、デザインだけiPhoneに似たWindows Mobile系スマートフォンが主流なのだ。
そのため、スマートフォンコーナーでは、こうして、一見どれがiPhoneか判らなくなるようなショーケースが間々見られる事態となっている。BEST BUY等の進出で本物志向が進みつつあるとは言え、本物に少しでも違和感や使用障壁があれば独自仕様の中国版がどんどん売れてしまう。これもまた、中国なのだ。次回はEUのドイツ、ケルンで行われる2年に一度のカメラの祭典「Photokina」から報告をしたい。