ニューヨークをオタク歩きする1日
ファッションと金融の街ニューヨークは、日本から多くの観光客が訪れる街。なぜか日本のミュージシャンが好む街でもあり、数多くのPVなどがこの街で撮影されているところから、世間様的には映像屋もニューヨークに好んで行くものだと思われているらしい。 ところが、実のところ、映像系、特にオタク系映像屋にとって、ニューヨークは比較的縁遠い街。米国は都市ごとのカラーリングが明確で、映像系企業はハリウッドのある西海岸に集中し、ゲーム系企業もSIGGRAPHやGDCなどの企業向けコンベンションも、これまた西海岸に集中しているのだ。実際、米国でよく会う業界人の方々も、日本人に限らず「実は東海岸は行ったことがない」という人も多い。今回は、珍しく立ち寄ったニューヨークの街を、映像系オタク的視点で見てみようと思う。
…でもニューヨーク、実は苦手なんだよねえ…。
美術館、博物館はニューヨークの華
MoMA:11 West 53 Street New York, NY 10019 MoMAは日本人御用達のヒルトンニューヨークホテルのすぐそばにある
オタク的にニューヨーク一番の華といえば、なんといっても美術館・博物館。ニューヨークはその美術館・博物館の多さで知られており、そのどれもが独自の強いテーマ性を持っているのが特徴だ。最初に訪れたのが「MoMA」。ニューヨーク近代美術館だ。MoMAでは、モダンアートだけでなく映像展示や工業デザイン展示も積極的に取り組まれており、数多くの写真展示も見ることが出来る。とはいえ、映画を除き、MoMAにオタッキーなものは少ない。どれもハイセンスで、お洒落で…要するに、オタク的には若干居心地が悪い…。また、MoMAのように少し古いだけの現代美術は、メトロポリタン美術館などの本当に古い美術品に比べてとても古びた感じになるのはなんとも不思議だ。 まあ、お勉強お勉強。
オタクにやさしいアメリカ自然史博物館
続いて、ちょっと北に足を伸ばして、セントラルパークの西脇にある「アメリカ自然史博物館」は絶対に欠かせないだろう。科学技術的にオタク心をくすぐるだけでなく、様々な日本の漫画家やアニメ制作者に愛されている場所でもあるからだ。例えばオタク定番の漫画「バナナフィッシュ」でおなじみの展示の数々も健在で、なかでも実寸大のシロナガスクジラの模型は圧巻だ。
常設のIMAXシアターでの映像展示も秀逸。複数のプログラムが季節ごとに入れ替わりで流されており、私の訪問時には、ちょうどハッブル宇宙望遠鏡の再改修の実録映画をやっていた。なんとナレーターはデカプリオ!アメリカ自然史博物館は、国籍問わずオタクが集まる場所だけに、周囲の雰囲気も馴染みのあるもので大変安心出来る。ちょっとした化石や標本模型程度なら簡単に買えるミュージアムショップは、まさに楽園で、時間を忘れてしまう。
史上最強の博物館「イントレピッド」
そのまま西に進み、海岸沿いを南に下ると、史上最強の博物館「イントレピッド」に出会うことが出来る。これは、エセックス級4番艦イントレビッドをそのまま係留してある施設で、中では、この艦の生まれた太平洋戦争末期から、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そしてなによりマーキュリー計画やジェミニ計画などの宇宙開発計画の地球側サポート艦としての活躍を見ることが出来る。日本語のサポートも完璧で音声案内も日本語で用意されており、英語の苦手なオタクでも大丈夫。
通常型空母とは言え、多くの艦載機付き、戦略型原子力潜水艦付きで展示されている空母はここだけだろう。イントレピッドは文字通り世界最強の博物館。しかも、タグボートで曳航すればまだまだ十分に動く、海に浮いた状態での展示なのだから驚く他無い。
艦載機群も主要機器こそ外してあるが、逆に言えばそれらを付ければ動くということ。イントレビッド内には航空機ハンガーに多数のシミュレーター機が設置され、有料でそれを楽しむことが出来る。少しでも軍事系属性のあるオタクなら、ニューヨークでは絶対に欠かせないポイントだ。
ガジェット好きはWired Storeへ集え!
美術館ばかりがニューヨークのオタクポイントではない。ニューヨークはショッピングの街でもあり、オタク心をくすぐるグッズもいくつか手に入れることが出来る。美術館巡りから地下鉄を使って大きく南に下り、まず向かうのは、なんといっても、毎年11月後半~12月末限定でひらかれる、「Wired Store」のリアルショップだ。
Wired Storeは、私が訪れたとき、ちょうどサンクスギビングデーの本格開店に向けたレセプション開店の真っ最中で、内装も工事中。通常営業とはほど遠い状況であった。とはいえ、一輪バイクのようなガジェットに直接触れられる機会はそうそうあるものではない。是非ともこの間にニューヨークに行く機会があれば足を運んで欲しい。
カルトなビデオショップKim’s Videoへ
Wired Storeから東に歩くこと20分。ヒマナイヌ猪蔵氏が絶対に行くべきだと勧めてくれたDVDショップ「Kim’s Video」は、極めてマニアックな映画が揃っており、確かにこれはすごい。日本の映画が監督別に並んでいるのは日本の大型店舗並みの取りそろえだ。ただし、アニメは極めて貧弱で、宮崎アニメかあるいは私も名前を知らないようなマニアックな日本製エロアニメくらいしか取りそろえがない。この辺は、やはりニューヨークが、西海岸の日本アニメに寛容な文化とは大きく異なるところだろう。
なお、このKim’s Videoはとても安全なよい店なのだが、その近隣に立ち並ぶ他のビデオショップの多くはアダルトグッズショップ兼用の店舗であり、あきらかにヤバそうな物品や人員の仲介もやっているようだった。あまりに危険で、慣れない観光客にはちょっとお勧めできない。Kim’s Videoのような安全な店とは異なり、入店前の見た目で判断しにくいのが難しい。
ショッピング街はクリスマス商戦!
ここから少し北に移動し、ニューヨーク中心街のお洒落なエリアにも足を運んでみよう。なにしろ、クリスマス期間中は、デパートなどもオタクフレンドリーだ。
試しに「Macy’s」デパートのクリスマス用品を覗いてみたが。米デパートでは既にクリスマス商戦が本格化しており、プレゼント交換に向けたグッズの販売や、子供向けのサンタクロースからの贈り物候補たちのセールスが積極的に行われていた。中でもSONYの映像関連製品は人気で、専用コーナーまで作られていた。
ゲームはいわゆるリアル系の洋物ゲームもさる事ながら、かわいい系キャラクターの日本ゲームの人気も確かなものになっていた。さすがのアメリカ人も、クリスマスを前にすると、ゾンビを射撃でばらばらにしたり、リアルな兵士が殺し合うゲームは避けたい、と思うものらしい。
以前から年の暮れになると米国でのおもちゃに占める日本製ゲームのシェア率が若干伸びると言われているのだが、その理由は単に発売時期だけでなく、ゲーム内容にもあるらしい。
と、カメラを片手にぐるっと回れば、オタク三昧で1日が終わっていた。 なんだ、意識して色々と回ってみると、結構オタクでも遊べる街じゃん、ニューヨーク。こうして、少しばかりニューヨークを見直した私なのだった。
なお、最後に少しだけ真面目な話。
この出張、帰りは韓国の仁川空港経由での成田帰国だったのだが、帰国日は延坪島での砲撃戦当日。そう、仁川空港のある島のすぐそばの島での事件勃発であった。着陸時にも、左手に煙を上げる島を見ながらの、冷や汗をかく思いの帰路となった。
こうした軍事事件が、映像やゲームなどエンタメの売り上げに及ぼす影響は世間一般で思われているよりもはるかに大きい。なにしろ我々の仕事は、どう見ても生活必需品とは言いにくい。戦争のような命に関わる事態では後回しになってしまうのだ。
PRONEWS関連でも、来月ソウルで予定されているSIGGRAPH ASIAは無事に開催されるのだろうか、と考えると、その影響の大きさはわかる。業界の未来のために、1日も早い緊張緩和を望まざるを得ない。