前回のレコーダーに続き、音声繋がりでマイクの話をしよう。芝居を録るならガンマイクと決めてかかっている人が意外に多いようだが、これは100%の正解とは言えない。現場の条件や役者の動き等によっては裏目に出てしまう事もあり、まずちゃんとした使い方をしなければむしろ危険なマイクだと言える。そもそも他にはどんなマイクがあって、それぞれどういう特性の差があるのかをしっかり理解した上で使い分けてほしい。
これは値段の問題ではなく、どの種類のマイクにも安い物から高い物まである。例え高い物であっても条件に合わない物を選んだり使用法を間違ってしまうと大失敗する。プチシネレベルの作品の中には発想や映像が素晴らしくても音がひどい物を多く見かけるが、そのほとんどが残念なこの手のミスによる物だ。また収録のミスというのは後の編集やMAではリカバーできない事も多い。ぜひこの機会にしっかり学んでほしい。
マイクの分類を正しく理解するべし
まずマイクの分類だが幾つかの分類方法があって、それが混乱を招く事にもなっていると思う。単純に言うと音波を電気信号に変換するのがマイクの役目なのだが、その方法の違いによってコンデンサーマイク、ダイナミックマイク、他にもリボンや真空管等がある。実は映像現場で使われるガンマイクもピンマイクもカメラに内蔵されているワンポイントステレオマイクもほとんど全てがコンデンサーマイクの一種だ。その特徴はダイナミックマイクに比べて周波数帯域が低音から高音まで幅広く、豊かで繊細な音が録れる。
反面決して強い物ではなく、湿気や衝撃には弱いので取り扱いや保管には注意が必要だし、中にはスタジオ以外での使用を全く想定していない機種もあるので、それを野外ロケに持ち出したりするとあっという間に壊れてしまうだろう。なのでロックミュージシャンが唾を飛ばしながら歌ったり振り回したりするライブなんかでは、ほとんどダイナミックマイクを使う。もし映画やミュージックビデオの撮影でそういう場面があっても収録用のコンデンサーマイクを持たせるのは自殺行為だ。また、乾電池にしろバッテリーやファンタム電源(マイクケーブルを使って外部より電源を供給する方法プラグインパワーもこれの一種)にしろ、何らかの形で電源を必要とするのもコンデンサーマイクの特徴で、ダイナミックマイクは電源を必要としない。ただし、出力も大きく変わってくるので入力側が対応していなければ使えない。
極めるべきは指向性
左から、ダイナミックマイク、ガンマイク、一般的なコンデンサーマイク、ビデオカメラのワンポイント・ステレオマイク、ピンマイク、スタジオ用コンデンサーマイク
方式の違いとは別に指向性の違いによる分類がある。指向性とはそのマイクが収録できる向きと角度の事だが、これを正しく理解しておかないと使い方を間違えてしまう。一般的には普通のコンデンサーマイクは指向性の角度はダイナミックマイクより広い。それを極端に狭くした物がガンマイクで逆に360度どこからも音を拾える無指向性のマイクもある。ビデオカメラなどに付いているワンポイントステレオマイクも二本のコンデンサーマイクを左右に振り分けてある物なので指向性はかなり広いと言える。中にはこの指向性の向きや角度を変えるスイッチが付いているものもある。
ガンマイクは遠くの音を引き付けて大きく拾ってくれるようなイメージを持っている人もいるが、これは間違いだ。実際は極めて狭い角度にはまった音しか録らないので結果的に狙った音が強調されるという訳だ。つまりこの狭い角度にしっかり入れないと音は極端に小さくなってしまうのだ。例えば複数の人がしゃべる時にはそれぞれの口に向かってマイクを振らなくてはいけないし、何人か同時に話してしまうとアウトだ。これがドラマであれば役者の台詞や動きをちゃんと理解し、しっかり振れる専任スタッフが必要で、それができないようであれば指向性の広いコンデンサーマイクを使った方が安全だ。
他に使い方によって様々な名前が付けられている場合もある。舞台などの床に置いておくためのバウンダリーマイク、指向性は広いがその向きは床に置いた時、真上に向く物と客席側を避けるようにしっかり角度が付けられている物とがある。クリップ等で衣装に付けるピンマイクは名前のイメージから指向性は狭いと思ってしまっている人がいるが、これは元々のネクタイピンマイクという名前が省略されてそう呼ばれるようになった物で、指向性は広い目の物が多い。
このようにそれぞれのマイクの特性を理解した上で目的に合った物を選び、また正しい使い方をしなければならない。次回はその使い方を中心に話したいと思う。お楽しみに。