完成品をイメージした録音のポイントとは
前回マイクにもいろんな種類がある事を伝えたが、ロケ現場の環境やカットの構図等によって適切なマイクを選んでほしいと思う。セリフをしっかり録るという事に限って言えば目的は次の三つだろう。
- 言葉をはっきり録る。
- 残響音(部屋や建物に響くエコー)やガヤ音(セリフとは関係のない街音や人の 声)を極力排除し、セリフのみを録る努力をする。
- シーンや作品を通じて、音質をできるだけ揃える。
まず1と2に関してだが、残響音やガヤ音というのはその現場が持つ独特な音なので臨場感としてはとても重要な物なのだ。しかし大切なのはそのバランスで、それによってセリフが聞き取れなかったり視聴者の集中力を散らしてしまっては元も子もない。そしてそのバランスを撮影現場で判断する事はおそらく不可能だろう。そこで撮影時にはやはりセリフをしっかり録っておく事に集中していい。編集段階でエフェクターや別に録った素材等を使って付け足す事はできても一度ミックスされた形で録音された物から残響音やガヤ音だけを消したり小さくしたりする事は至難の技からだ。
余裕があれば演技の前後にその場のガヤ音だけを長めに録音しておくと後で役に立つだろう。そして3に関しては、例えば一つのシーンでカットによって、或はしゃべっている人によって音質があまりに変わってしまうようでは繋がりに違和感ができてしまう。そういう意味では同じマイクをできるだけ同じコンディションに揃えてセットする事が望ましい。あるカットのあるセリフだけ状況がいいからといって高級なマイクを役者の近くにセットするというのは考えもので、シーン全体の状況を踏まえてマイクの種類とセッティング方法を決める事が大事だ。たとえば二人の出演者がいて、一人の衣装はピンマイクをうまく隠して付ける事ができたとしても、もう一人には付けられないような状況であれば、二人共ガンマイク等で録った方がいい結果になる事が多い。
ガンマイクを正しく使う
残響音のない、静かな室内で役者のすぐ近くにマイクをセットできるといった恵まれた環境であれば高音質なコンデンサーマイクを使うのが一番いいのだが、ほとんどの場合はそうはいかないだろう。そんな時に最も有効なのが指向性の狭いガンマイクだ。ただし、ちゃんとした使い方をしなければ、完全に逆効果になってしまう危険なマイクだと言う事を忘れてはいけない。ガンマイクの特徴である狭い指向性というのはマイクを向けた以外の音はあまり入らないという事なので、役者をしっかり狙えば周りの残響音やガヤ音の音量は押さえられるという事だが、逆に言うと狭い指向性の中にしっかり役者を入れないとその声は極端に小さくなってしまうし音質も大きく変わってしまう。今回はガンマイクを持つ専任のスタッフがいるという仮定でガンマイクの正しい使い方を紹介しよう。
どのマイクにも言える事だが、まずすべき事は、そのカットの画角と動きのチェックだ。カメラのセットが決まった段階で一度モニターを見ておこう。そして上下左右、またカメラの画角というのも角度なのでカメラに近づくほど狭くなる。故に役者の前にも意外にマイクの映らないポイントがあったりもする。どの位置からだと一番いい状況でマイクを向けられるかをイメージしてほしい。また、カメラや役者がどう動くかも、しっかり理解しておかなくてはうっかり画面に入ってしまう事があったり、せっかく役者にマイクを向けていても背中を向けられてしまったりしてしまう。カットを通して同じ状況でマイクを向けられる最適な場所と動きをイメージしてほしい。物陰に隠れたり、地面に寝転がったり、マイクポールを長く延ばして高く吊り下げたり…あらゆる方法を試してほしい。
言葉をはっきり録るには、第一に役者との距離だ。これは近ければ近いほど音量だけでなく音質も良くなる。カメラマンと協力して画面に入ってしまうギリギリのポイントを見つけ、役者に近づきたい。ここで意識するべき部分は、ガンマイクの狭い指向性だ。それは角度なので近づけば近づくほど録れる範囲は狭くなる。役者が少し動いただけでも指向性から外れてしまう危険度は増すという事だ。その分動きに合わせてマイクも動かしてついていかなくてはいけない。役者が複数いる場面ではセリフを言う役者を追ってブンブン振り回さなくてはいけない事にもなる。それが間に合わなければアウトだ。またマイクを振り回すという事には風切り音が入ってしまったり、ハンドリングノイズ(マイクポールをぎゅっと握りしめただけでもノイズになる事もある)が入ってしまう危険性がある。
少し距離を離すと指向性に入る角度が増える分振り回す幅も角度も小さくて済むという感覚を持って欲しい。音質、音量、そしてマイクアクションのバランスをよく考えてポジションを決めなくてはいけない。ガンマイクの指向性がどれほど狭いかというと、例えばセリフを言っている役者のどこを狙うかで音質は変わってしまうというほど狭い物なのだ。もちろん基本は口を狙うのだが、近い距離であればおでこ辺りを狙えばさわやかに、胸を狙えば太く、落ち着いた声が録れる。熟練の録音マンは役者の声量や声質の違い、そしてその物語やシーンの意味合いまでも含めて微妙にマイク位置をコントロールし、声を揃えて録音する事ができる。
逆に言うとガンマイクのコントロールというのはそれほどナイーブな物なのだ。ぜひ挑戦はしてほしいが、ある程度セーフティーを考える事も必要な事だと思う。時々何も分からないお手伝いスタッフにガンマイクを持たせて「その辺に立ってて」なんていう現場を見たりするが、言語道断なのだ。
マイクの「抜け」を選ぶ事?
最後にもう一つの注意点は、マイクの「抜け」を選ぶという事だ。ガンマイクは指向性が狭い分、その角度に入っていれば遠くの音でも鮮明に捉えてしまう傾向がある。つまりマイクを向けている役者のその先に何があるのかをしっかり見ておかなくてはいけない。仮に通行量の多い道路がその先にあるなら少し角度を変えて外す事を考えなければいけないし、上下どちらからでも狙える場合は空間や地面の質を考えてマイクの向きを決めて欲しい。
一般的には建物の反射や風の音、鳥の声など、空方向にはガヤ音が渦巻いている事が多いのでマイクは上から地面に向けて構える方がいい場合がほとんどだが、開けた場所の空や柔らかい素材の天井等には基本的には残響音は響かない。そんな時には下から狙った方がいい場合もある。また、地面も土や絨毯等は音を吸ってくれるが、コンクリートやフローリングは反射音が多い。マイクを向けた方向には奥の奥まで気を使う注意が必要だ。
さて、ガンマイクが優秀な分、いかに扱い方が大切か分かってもらえただろうか?個人的には「できるスタッフ」がいなければ使ってはいけないマイクだと思っている。
次回からはプチシネならではの考え方でその他のマイクの利用法を解説していきたいと思うので乞うご期待。
【撮影協力】ZYANGIRI ENTERTAINMENT
『空想アイドル7 ~みんなの夢はミナノユメ~』は7人のアイドルをそれぞれ主役に起用した組曲のような作品。私も一部録音でお手伝いしている。2011年6月18日シネマート六本木公開予定。