日本のフリージャーナリストを中心に、東日本大震災復興支援の広報持続キャンペーン活動として「H●PE」を始動。発起人は、Fantastic4メンバーでもある小寺信良氏、猪川知紀氏(PRONEWS)、岡英史氏(Videonetwork)そして私石川幸宏(DVJ Buzz TV)。NAB会場ではそのシンボルとして缶バッヂ500個を配布した

日本近代史上最大の惨事となってしまった3.11東日本大震災は、映像業界にも多大な被害をもたらした。日本ケーブルテレビ連盟の発表によれば、気仙沼ケーブルネットワーク、三陸ブロードネット、宮城ケーブルテレビの3社は大きな被害を受けており、幸い人命被害は出なかったようだが、気仙沼ケーブルネットワークはヘッドエンドが消失、幹線も半数が壊滅、三陸ブロードバンドもヘッドエンドを仮設して運営しているが45%の幹線が消失。4月初旬の段階では、この2局はサービス再開の目処が立っていない。宮城ケーブルテレビではヘッドエンドは稼働しているものの、沿岸部の幹線は消失しているという。電力も徐々に復旧しているが、完全復旧には相当の時間がかかるだろう。

メーカー各社も大きなダメージ

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大手メーカーにも大きな被害が出ている。キヤノンは北関東の工場停止を余儀なくされ、栃木県宇都宮市や茨城県結城市にある、デジタル一眼レフカメラ用の交換レンズなどの工場にも一部被害があったようだ。ニコンは津波で甚大な被害が出た宮城県名取市にデジタル一眼レフカメラの生産拠点があり、工場も大きな損傷を受けた。さらに従業員に負傷者も出ているなど事態は深刻だ。パナソニックも同じ名取市に工場を持っており、こちらも被害が出ているようだ。

ソニーは震災直後、大手メーカーでは最大となる十数拠点もの事業所が操業停止になったが、中でもハイエンド業務用ビデオテープの工場の被害は甚大だった。HDCAM SRなどの業務用磁気テープなどを世界で唯一生産しているソニー仙台テクノロジーセンター(多賀城事業所)は、仙台塩釜港から約2kmという場所で、今回の10m級の大津波の直撃被害を受けた。※4月1日時点では操業を一時停止、今後の操業再開の見込みは立っていない。

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津波の直接被害を受けたソニーの仙台テクノロジーセンター(宮城県多賀城市)。写真は4月1日時点のもので、現在は、社屋前の道路もほぼ整備された状況。1階部分は全て津波に呑まれたが、社員は上階に逃げ延びて全員助かったという

テレビ局関係各社は、この大震災や原発事故の報道でビデオ撮影素材が日々増撮される状況下に起こった不運は、日本国内のテープ在庫を一掃し、市場でも一時混乱が起きており、制作会社にもテープ再利用などの指示が出ているという。また映画関係でも、ポストプロダクションではHDCAM SRテープの品不足が深刻で、さらに米ハリウッドでも深刻な事態を招いている。デジタル化は進んでいるとはいえまだポストプロダクション作業の処理としてHDCAM SRテープが大きな役目を果たしていたからだ。その後の関係者筋の話では、当初HDCAM SRテープが大量にトラックごと津波に流されてしまったが、その後無事発見され製品自体も無事で、ある程度の在庫も確保出来たという。

苦境を乗り越えて躍進を見せる日本企業に拍手

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NAB2011では、ソニーが4KカメラのF65と新たなハイエンドファイルベースフォーマット、SR MASTERを発表

そんな混乱の中で行われた4月の2011 NAB Show。始まるまでは各日本企業がどのような形での出展になるか不安であったが、蓋を開けてみればソニー、パナソニックを始め、各企業がまたも新技術を次々と発表して会場を席巻していたという快挙。日本人としてこれほど誇らしく思った事はない。

さらに制作環境においては、SR MASTER(ソニー)やAVC ULTRA(パナソニック)など、ファイルベースの更なる進化を示す新技術の提案が行われるなど、日本の更なる技術力が証明される場となった。

今回はメーカー各社も被災者当人であり、その救済のためにも新たなるファイルベース化導入等で、次代の映像文化へのシフトを促進させる良い機会だと捉えるべきだろう。誰も想像出来なかった最悪の事態だったが、今後も日本の技術力がさらに世界から評価される良い機会だと考えたい。この復興にはまず、前を向いて歩き続けるしか無いのだから…。

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パナソニックは3Dにも対応するAVCコーデックの最上位としてAVC ULTRAを発表した

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。