人手不足の救世主、ピンマイクを使う
ここまでセリフを中心に音声収録について話してきたが、最後にピンマイクの利用を考えてみよう。ピンマイクと聞いてまず想像するのはニュースやバラエティーで出演者が襟元などに付けている”あれ”だと思う。確かに出演者それぞれあのように口を狙ったマイクを持っていてくれると、その動きを予想してマイクを振る必要もなく、また、常に同じ距離にある事から音質も一定に保てる。これはぜひともプチシネでも利用したい物だがそこにはクリアしなくてはならない問題がたくさんある。
衣擦れ対策に工夫しよう
まず、よっぽどの引きでもない限りマイクを隠さなければならないという事だ。ただ、引きのカットということは他のマイクでも近づけないという事なのでピンマイクを付けておくのはいい手だ。うまく衣装に隠せるといいのだが衣擦れや息の吹き付けには十分注意する必要がある。私の「無言歌」作品という作品では風のある海辺での収録で引きの画角が多く、音声的には過酷な条件になる事は分かっていたので、衣装にマフラーを追加してピンマイクを仕込ませた。その他にガサゴソ音がしない服を選ぶ等、ピンマイクを使う前提で衣装を考えるのも大切な事だ。 また、カッターシャツの襟などはしっかりしていて裏にマイクを隠しやすい場所でもある。
もう一つの方法は身体に貼付けてしまうという方法だ。時々バラエティー番組等で裸になった芸人さんがやっているのを見かけるが、実はあれには意外な合理性がある。胸板という場所は声がとても豊かに響く場所でもあるからだ。服を着るにしてもそこにピンマイクを貼付けておけばかなりいい音で録れる事が多い。特に女性の場合はいわゆる胸の谷間に仕込ませてもらえれば衣擦れも防げてとてもいい。だがやはり最も気をつけなければいけないのは衣擦れだろう。
私の場合ウサギの毛皮(これは息や風の音を防ぐ為に用いられる定番素材)でくるんだマイクをビニールホースの中に入れ、それを表面がつるつるのガムテープでしっかり張り付け、さらにその部分に当たる衣装の内側にもつるつるのテープを貼るようにしている。
そしてマイクのコードが暴れてノイズになったり外れたりしないように、それこそ芸人さんがやっているようにコードも身体に貼付けておいた方がいいだろう。役者さんが一度貼付けて衣装を着てしまうと脱着やチェックするのが難しいだけに、装着と音のチェックは初めにしっかりやっておいてほしい。
デジタルワイヤレスで飛躍的な音質向上
次に考える部分は音質だろう。ピンマイクを付けてもらうとやはりワイヤレスで飛ばしてカメラに入れるという方法が普通なんだろうが、正直言って一度アナログの電波に乗せてしまう事で音質は劣化する。一つの解決策は役者さんそれぞれにレコーダーを持ってもらって録音までをそこで済ませてしまう方法だ。
最近はやりの音楽用小型フィールドレコーダーを使えば高音質のまま録音できサンプリングレートを上げてやればカメラに入れるよりむしろ高いクオリティで録音できる。ただ、録音のスタート/ストップや収録後のチェックは一人一人別々にやらなくてはいけないし、編集段階ではタイミングを合わせて貼付けてやらなくてはいけないし、すこぶる面倒だ(それでも私はアナログワイヤレスの音が嫌いで以前まではこの方法でやっていたが…)。
ところが最近ついにデジタルワイヤレスでしかも安価な物がLine 6 から発売され、音質はぐんと向上した。詳しくは別のレビューで書いているのでぜひ参考にしてほしい。これでカメラにダイレクトに高音質で録音でき、収録後のチェックも一度にできる。もちろんガンマイクをしっかり当てた時や、スタジオのコンデンサーマイクと比べれば音質は落ちるが、撮影の場所や衣装等のコンディションによってはこちらの方が良い結果を残せる事になる事は創造できるだろう。何よりカットごとの音質が均一になるという事がとても嬉しい。
この機種のA/Dコンバーターのサンプルレートが48KHzなので、この音を96KHzのレコーダーに入れる事は意味のない事なので直接カメラに入れて、環境音をフィールドレコーダーで高サンプルレートで収録しておくと後でミックスした時にいい音が作れそうだ。理想は全てのカットをガンマイクをしっかり当てて高サンプリングレートのフィールドレコーダーで録る事だが、ロケ環境が厳しい時や人手が足りない時はこれがベストの方法かもしれない。