2012バージョンリリースに会わせて開催された盛況なオートデスクイベント
ホールの外では協賛会社のデモが行われていて、実際に体験をしたりいろいろな質問をしていた
6月17日、東京都中央区の時事通信ホールで、オートデスク主催のイベント「Autodesk After NAB 2011」が行われた。第一部はFlame Premiumのデモ、第二部はSmoke For Mac OS Xのデモ、第三部は同社の最新映像フィニッシングソリューションのユーザー事例、さらにNAB 2011の報告などが半日かけて紹介されるという、とても内容の濃いイベントだった。特に、同社は毎年春先に最新バージョンをリリースを行っているが、今年4月8日はメディア&エンターテイメント事業部の映像製品すべてが2012バージョンを世界同時に出荷されるという同社始まって以来の大々的なリリースが行われたばかり。リリース後初となる大型のイベントということで、ユーザーの注目度も明らかに高いイベントだった。
SmokeからFinal Cut、Flare、Flameなどの連携で幅広い対応が可能
登壇したデジタル・ガーデンのチーフコンポジター、島崎裕嗣氏
多数のセッションが行われた同イベントの中でも最も注目を集めていたのが、東京会場のみ行われるデジタル・ガーデンのチーフコンポジター、島崎裕嗣氏氏によるSmokeとFlameのユーザー事例だ。デジタル・ガーデンは、テレビCMを中心とした映像編集やMA、合成やCG制作をするポストプロダクションだ。島崎氏は挨拶の後に最近、同社が手がけたCMをオンエアして紹介。プレイステーション3のゲーム、マクドナルド、たかの友梨ビューティクリニック、資生堂、森永など、誰でも一度は見たことのあるメジャーなCMばかりだ。
現在の同社の現在の編集室の構成はオンライン編集室が7部屋、Final Cutベースのオフライン編集室が4部屋、このほかに音声のMAの部屋。建物は別で3D CGを製作する部署が1つで構成されている。導入ソフトは、オートデスクの製品が中心で、Infernoが1台にFlameが6台、去年導入したSmoke For Mac OS Xが2台。仕込み用にFlareが2台、オフラインはFinal Cutが4台。3D CGはSoftImageが19台、Mayaが3台、3ds Maxが2台だ。まず最初に、デジタル・ガーデンがなぜSmoke For Mac OS Xを導入したのかについて紹介された。
デジタル・ガーデンは2010年夏に編集室を拡張することになって、Final Cutの部屋を2つ増やすことを計画。同時にその部屋にSmokeを入れたらどうか?ということも同時に検討した。というのも、これからEOS 5D Mark IIやRED ONEからのファイルベースの作業が増えていくことが予想され、Final Cutはそのあたりが非常に得意であるということ。そのFinal CutとSmoke For Mac OS Xは効果的に連携が取れたりするのではないか?というのが理由だ。また、Smoke For Mac OS Xだけで完結するのではなく、同社にはフリーに使えるFlareも2台あるので、必要に応じてSmoke For Mac OS Xを使いながらアシスタントはFlareで仕込みをするなど、幅が広がった対応ができるのではないか?あとはFlameでも修正ができるようなデータ構築をすることで急な直しの作業が入ったときに、Smokeが抑えられなくてもFlameの編集室で対応ができるのでは?という理由からFinal Cutと同じ部屋に2台導入に踏み切ったという。
次に「サトウの切り餅」のCMのメイキングを紹介した。まず最初にSmoke For Mac OS Xとの具体的な連携から話をした。撮影はEOS 5D Mark IIでH.264のファイルをProReに変換して、監督が自らFinal Cutでオフライン作業。出来上がったFinal CutのXMLファイルをSmokeに取り込むのだが、Smokeはライブラリにコピーするだけでやり取りができる。いちいちEDLを出して取り込み直すなどをしなくても、同じマシンにデータが入っているので、簡単にオンライン用のデータの構築ができている連携ができることを紹介をした。
デジタル・ガーデン流のSmoke For Mac OS Xの使い方
次に「サトウの切り餅」における具体的な修正作業について話をした。CMはワンカットワンカットごと細かく作業していくのが一般的で、「サトウの切り餅」においてもカラコレや湯気を足す、看板の修正など、ほぼ全カットにわかってSmokeでどのように作業をしているかが具体的に紹介された。島崎氏は「Flameだからできて、Smokeだからできないというわけではなく、SmokeもFlameと同じように今まで通りの要求にこたえるように作業を行った」とSmokeとFlameが同等の結果を実現していることを語った。
そして、デジタル・ガーデンなりのSmoke For Mac OS Xの使い方が見えてきたことも紹介をした。当初、Smoke For Mac OS Xを導入した際は「どうやったら普段Flameを使っているスタッフがSmokeを使えるようになるのか」というのが悩みだった。デジタル・ガーデンではSmoke For Mac OS Xを触ったことのあるスタッフはいなかったのだ。その回答として、Smoke For Mac OS Xでもカットごとに作業をするという方法にたどり着いたという。Smokeは本来は、タイムラインで作業をするというのが特徴のソフトだが、従来Flameでやっているスタッフは、カットごとに作業をするというのが一番やりやすい方法で、なおかつお客さんのオーダーにも答えやすいということだった。そこで、Smoke For Mac OS Xでもカットごとにソースエリアを作って、そこでワンカットワンカット作業をして、出来上がったものをタイムラインに戻すという方法に至ったという。つまり、ほとんどFlameと同じような感じの作業の仕方だ。
また、Smoke For Mac OS Xで一番問題だったのが、Batch機能がないということだった。Flameに慣れるとすぐにBatchに入ってデータを組むが、Smokeにはその機能がないので一個一個の工程をソースエリア上に並べて、作業をしていくという感じで対応する。このようなデータの構築をしておくことで、修正が入った場合にSmokeの部屋が押さえられないという場合でも、データの互換が完全にあるFlameの部屋に入って一個一個アクションを拾っていって、直していくことで修正対応ができるようになる。このようにして、Smokeを触れないスタッフでもFlameで対応できているという具体的な方法を紹介した。
CGスタッフのプリビズで効率アップを実現
イベント冒頭のプレゼンテーションでも、クリエイティブフィニッシングツールがCG技術と融合することがアピールされていた
Flameのほうのデモでは、三菱東京UFJ銀行カードローンのCM「瞬間移動」篇のメイキングが紹介された。朝携帯電話でローンを申し込みと最短でその日のうちに受け取れるというバンククイックというサービスのCMだ。三菱東京UFJ銀行のWebサイトでもCMが公開されているので、作品を参照してほしい。
監督がこだわったのはワンカットでの撮影だ。その結果、阿部寛さんはワンカットで撮影し、戸田恵梨香さんは別素材で撮影することにした。つまり、合成メインの作業になるということが決まった。阿部さんと戸田さんはカメラワークを同じにしなければならないので、モーションコントロールカメラを使用することになった。その際に、プリビジュアライゼーション(プリビズ)をやって検証を行ったということが紹介された。デジタル・ガーデン内の3D CGを作っているセクションの人に協力をしてもらって、CGの打ち合わせの部屋にカメラマンや監督、美術スタッフを集めて、その場でSoftImageを会議室に持ち込み、CGスタッフが監督とカメラマンのオーダーにその場で答えるといった形でカメラワークを決めたり、レールの長さ、スタジオの中での各パーツの配置を実際に話し合いながらプリビズが作られた。例えば椅子の位置やATMの大きさ、オフィスのそれぞれの配置から、具体的なカメラワークを早期に検証することができた。その結果、一番奥の背景は合成をしなければいけない。そのほかのパーツに関してはなるべく美術で対応をして、合成の負担を減らしたり、CGの負担を減らすということが初期の段階で見えてみたという。島崎氏はプリビズの利点を「CGのスタッフがプリビズを作ることで、ポストプロダクションの作業効率が上がったり撮影現場の時間が短縮されたり、無駄なセットを作らなくて済む」とその効果を語った。プリビズはCGの使い方として今後ますます注目されそうだ。
誌面の都合で第一部のFlame Premiumと第二部Smoke For Mac OS Xのセッションのレポートを紹介することができなかったが、両セッションともオートデスクが持っている従来のCG側の技術がクリエイティブフィニッシングに融合していることが随所に紹介されていた。アニメ側のツールのMayaや3ds max、SoftImage 3Dなどのスイート製品群もいままでは寄せ集め的な印象もあったが、2012バージョンでは連携も実現しているという。今後はツールに機能が増えていくというより、ツール同士の連携にいろいろ期待ができるのでは? と明るい可能性を感じさせてくれるイベントだった。