いささか遅くなりましたが、新年おめでとうございます。今年もPRONEWS、東京Petit-Cine協会、そしてふるいちやすしをよろしくお願いいたします。私たちもまた、皆様の映像制作のお役に立てるよう、様々な情報をお届けしていきたいと思います。特にこの「東京Petit-Cine協会」では個人クリエイターの目線から新しい物に目を向け、常に冒険を忘れずに、皆様の制作へのヒントとなるような情報や考え方を発信し続けていきたいと考えています。一緒に良い年に、良い作品を作りましょう!

あたらしい画作りを求めて!

ここ数年、ビデオの世界は新しい技術の波が次々押し寄せ、混沌としていたように思える。ハイビジョン化、数々のコーデック、デジタル一眼ムービー、そして大型センサービデオカメラ。それぞれの新技術への対応に四苦八苦させられたクリエイターも多いと思うし、私もその一人だった。もちろんそれは今も続いてはいるのだが、ここまでで一つの段階を終え、少し落ち着いたとも言える。少なくとも今ある環境で最良の作品を作っておけば、すぐに古臭くなってしまうという事はないだろう。だから我々クリエイターも少し落ち着いて「対応」するのではなく「使いこなす」意識を持たなくてはいけない。特にデジタル一眼~大型センサーがもたらした表現力の拡大は川から急に海に出たような無数の可能性を我々に与えてくれた。これに「対応」するのではなく「使いこなす」、あくまで我々の感性を基軸にしてそれを表現する為にこの可能性を利用していく気持ちで臨まなくてはこの海に溺れてしまう。そうならない為にも海を理解し、目的地をはっきり見据える気持ちで臨んでほしい。

デジタル一眼が広げてくれた「被写界深度」「レンズ交換」「豊かな諧調と色表現」という可能性を、今までのワークフローの中でどう使うかという事よりも、それで何が撮れるようになったのかを積極的に考えて、ワークフローを変えてしまう事さえも恐れずにいてほしい。今まで撮れなかった物が撮れるという事は今まで表現できなかった物が表現できるという事だから、少なくとも絵コンテを描く時点で撮影プランも含めて常識に捕われない考え方で臨む必要がある。そういう意味で、デジタル一眼から更に可能性を大きく広げたのが、ソニーがPMW-F3、そしてNEX-FS100に搭載した「動画専用の大型センサー」なのだ。

確かに地味ではあるが、今まで撮れなかった物が撮れるという意味では革新的で撮影プランをガラッと変えてしまう威力を持っている。Super35というサイズはデジタル一眼で言うAPS-Cとほぼ同じサイズと考えていいのだが、静止画を撮る為のデジタル一眼は横幅で5000以上もの素子を埋め込んでいる。それが静止画に求められるクオリティなのだから仕方ないのだが、こと動画に関してはフルハイビジョンでも1920×1080でいいわけだから、動画専用としてしまえば同じ大きさの中に1920個の素子でいい事になる。その分、当然素子一つ一つの大きさは大きくでき、いろんな意味で余裕が生まれる。

作品から考える画作り その1

結果、感度の向上と低ノイズが実現したという訳だ。 これは私がFS100で撮った最初の作品「気持ち玉」(主演:横張芽衣)からの抜き画だが、このセンサーの実力を物語るカットだと思う。女優の向かって左の顔を照らすのは照明の光、右を照らす青い光は窓から入る自然光だがどちらもディテールをしっかり表現できている。

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このセンサーの感度、集光のセンシティビティーがこういうカットを可能にしてくれる。言うまでもなく窓からの自然光はさほど強い物ではなく、そちらを活かすためにも照明はどんどん抑えていった覚えがある。結果、室内は非常に暗い状態での撮影になったが、ゲインを上げた事はなく、おかげで暗部にもノイズらしいノイズは見られない。つまり黒が黒としてしっかり表現されている。これがもし従来の感度のセンサーであれば、もっと強い照明を当てなければならなかっただろうし、そうなるとこの自然光との絶妙なバランスは得られなかっただろうし、逆にカメラのゲインを上げれば暗部にノイズが乗る事は避けられない。

まずは今までの照明プランの常識を覆すほど、少ない光で場面作りができるという事だ。そうなると照明機器も非常に節約できるし、今までは撮影には使えないとされてきたような機器でも利用できるようになる。そして何より少ない光量での画作りは非常にセンシティブでおもしろい。その分、光の作り方も根本から考え直さなくてはいけない。

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こちらも同じ作品の同じ場面でのカットだ。窓の外を通る人影が意味を持つ為、絞りを絞って被写界深度を深くした。だがカメラのゲインは上げずに済んでいるため、やはり暗部にノイズが乗っていない。またその中にある物のディテールまでも細やかに表現されており、生活感をリアルに表現できている。個人的にはこのカメラに惚れ込むきっかけになったカットだ。

作品から考える画作り その2

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ここからはこのカメラで撮った二つ目の作品「彩~aja~」(主演:笠原千尋 オフィスモノリス所属)からのカットだが、この作品ではこのセンサーの感度を限界まで使い込んでみようと思っていたので更に少ない照明での撮影に踏み切った。また、前回解説したように低コントラストの画作りをしていたため、ブラックゲインをかなり上げたセッティングなので、さすがにノイズが出ている。ただ、そのノイズ自体、とても細かい物で、個人的には画像の滑らかさを損なうほどの物ではないと感じている。この柔らかいトーンの中で肌の質感はちゃんと出ているし、少ない照明のお陰で嫌な影も出ていない。

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この二つのカットはたまたま近くにあった一本の街灯の光だけで撮った。もちろんカメラのゲインも上げているが暗部のノイズはそれほどでもない。闇は闇として黒く捉えられている。下のカットは夜が明けてきて空が少し明るくなってきた所で撮った物だが、何より、照明機器のないこういう場面に撮影を行うチャンスがあるという事に驚いている。これもまた撮影プランごと考え直すきっかけになってゆくだろう。

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このカットは街灯も何もない夜の森の中でLEDのバッテリーライトだけを使って撮影したカットだ。出かけると言い出した私をアシスタントが「絶対何も写りませんから。」と止めたくらいだ。この頃から私は「闇を撮る」事に取り憑かれ始めていた。

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そしてついに月明かりだけで夜空と木を撮りたくなった。さすがにこれはゲインを目一杯上げてシャッター速度も1/4秒での撮影だったが、上のカットで彼女が見ていた空はこういう物だという事をどうしても表現したかったのだ。もちろんこのカットも作品の中に効果的に使っている。

かなり無茶はしているが、「撮れなかった物が撮れる」という意味が分かってもらえただろうか?これを基本にコンテ、撮影プラン、照明プランを考えると、表現の幅はグッと広がるだろう。この可能性を皆さんならどう使っていくだろう?最後にこの作品の試写会が決まったのでお知らせしておく。ぜひ一度その目で確かめに来ていただきたい。

SONY NEX-FS100J+オールド・アンジェニューレンズによる”淡麗”の映像美『彩~aja~』特別試写会 +笠原千尋(主演)、ふるいちやすし(作・監督・音楽)による「オーディエンス会見」

 

2012年1月31日 PM18:00~20:00
@Apple Store,Ginza 3Fシアター (入場無料)
〒104-0061 東京都中央区銀座3-5-12サヱグサビル本館 TEL:03-5159-8200

映像作家/音楽家、ふるいちやすしの最新作、『彩~aja~』の完全版(47min.)を上映。その後、主演の笠原千尋とふるいちやすしによる「オーディエンス会見」では、会場にこの作品で使用したカメラ、SONY NEX-FS100JやFinal Cut Proの編集データまで持ち込み、オーディエンスの聞きたい事にとことん答えていく。インディペンデントで映像作品を作る喜びと楽しさを何とか知ってもらおうというApple Storeとふるいちやすしの共通の思いから生まれたスペシャル・イベント。

『彩~aja~』

10代の頃、 aja(エイジャ)と呼ばれた天才画家の彩は、その自由奔放な行動が周囲を混乱させた事を悲観し、森の中へ逃げ込み、植物と水と光の絵しか描かなくなった。人との接触を断った平穏な空気の中で活き活きと絵を描く彩だが、ある日、人気画家の蒼に出会い、閉ざしたはずの心の窓が再び開いてしまう。舞台で異才を放つ笠原千尋の映像初主演作品。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。