「色」についてもう一度考えよう
私が知る限り、広告商品の撮影時が最もシビアに色を決める。そりゃそうだ。お客さんがその色が良いと思って、いざ現物を見てみるとイメージが違うとなると怒られてしまう。照明とカメラセッティングで正確に再現しないといけないわけだが、その基準になるのはその商品を作った時に決められた色で、時として業務用の色見本の何番なんて指定されている事もある。だから業務用の安定した色温度の照明を使い、カメラもそれにきっちり合わせる。これが記録という物の最たる物だとしたら、創作表現という世界での色とは全く別の物だ。
創作の世界に絶対的な色などない。あるとすればそれは作家の感覚の中にだけあるのだろうが、その感覚を貫き通し、カメラに収めるには強い信念と冒険を恐れない気持ち、そしてカメラや照明に対する知識が必要になる。
何度も言ってる事だが、色は圧縮する前に決めるに越した事は無い。AVCHDにしてもQuicktimeにしても、さらに高級な業務用コーデックにしても、記録をしやすくする為にファイルの容量を抑える。その為に当然「色の情報」においても何らかの合理化がなされてしまう。厄介な事に収録した時や、そのデータをそのまま使うのであれば気付かない事もあるのだが、ちょっとした調整やエフェクトをかけるととたんに諧調が破綻してしまったりノイズが出たりする事もある。
だからやっぱり収録時にカメラでしっかり望みの色を作っておく方がいい。だが往々にして撮影現場という所は満足なモニター環境が整っていない。幸運にして立派な業務用モニターがあったとしても、視聴者が見る環境がパソコンなのかハイビジョンテレビなのかプロジェクターなのかで色の出方も全然違ってくる。
特にハイビジョンテレビと業務用モニターの差は激しく、時として私は撮影現場にわざわざ民生用のテレビを持ち込んでモニターする事もある。結局試行錯誤と経験でその差を見越して色を作るしかないのだが、これは今後も我々を悩ませ続ける事になるだろう。
自分の中にスタンダードの色を持て
いずれにしても何か一つ、自分のスタンダードと言えるモニター環境を決めて、それを基本に色作りをするしかない。さて、カメラでの色作りと一言で言っても、大きく分けて三つの段階がある事を覚えておいてほしい。
まずは入り口のレンズとフィルター。いわゆる光学の部分だ。次にセンサーとホワイトバランスや彩度等を調整できるカメラのソフトウェアコントロール部分。そして最後に先ほど書いたコーデックと記録部分だ。残念な事に、このそれぞれの段階をモニターする事は難しい。記録前の色をモニターする為にはHDMIやHD-SDIから非圧縮映像を取り出す事は可能だが、これがコントロールソフトウェアを通る前の物なのか後の物なのかは機種によって違いがあるようだ(ちなみに私のSONY NEX-FS100はソフトウェアを通った後の信号がHDMIから出ているのでしっかり画作りした後の画像を非圧縮で出せる)。三つの段階の内、どの部分がどの色に影響を与えているかを理解しておかないと、何を調整すればいいのかが分からなくなるのでしっかりと経験を積んでほしい。
三つの内、最も繊細な色味を持っているのは最初の光学の部分、すなわちレンズだ。これは無色透明であることが理想で、事実レンズの進化もそれを求めて来たはずだ。
だから最近のレンズは目立った色味を持つ物は少ない。だが古いレンズになるとガラスの透明度と乱反射を防ぐ為のガラスに施されたコーティングに僅かながら色を持っている物が多い。新しいレンズであってもやはりメーカー毎、厳密に言えば同じメーカーであっても一本一本色味が違うと言ってもいい。
デジタル一眼でいろんなレンズを交換しながら映像を撮る機会が増えた中、レンズ毎の色味の差を補正する事も忘れてはならない。そして特に古いレンズが持つ独特の色味を「味」として利用するのも面白い。私が愛用している古いアンジェニューの45mm~90mm F2.8というレンズもどことなく青みがかった色を持っている。
ところが、それに合わせて使おうと思って買った同じアンジェニューの2本の単焦点レンズ(28mm F3.5と35mm F2.5)は時代が違う事もあり、その青みは感じられず、どちらかというと少しアンバーがかっている。この二本の単焦点レンズには非常に薄いブルーフィルターを付けて色味を合わせて使っている。こういった個体毎の補正はカメラでもその後の編集段階でも可能だが、できる事なら光学の段階でやっておくに越した事はない。どんなに画素数が多くなっても光の粒には勝てないからだ。
こういったレンズのトーンや色味の特徴を知る事は簡単ではないが、方法がない訳ではない。一つはミラーとプリズムが付いている、いわゆる一眼レフ(ミラーレス一眼は不可)に装着して、ファインダーを通して見てみる事。もう一つは自分のスタンダードレンズの色味をしっかり覚えて、それとの差を見つける事だ。
余談ではあるが、こういった古いレンズのコーティングは今の物に比べてやはり弱い物で、逆光になるととたんに色味が変わってしまう物もあるから注意が必要だ。だが、それさえも「面白い!」と言って表現の一部に使ってしまう気持ちも必要なのだと思う。記録カメラマンではないのだから、所詮、光り遊びをしているという心構えでないと、こういったオールドレンズを楽しむ事はできないのだ。
こうしてレンズで捉えた光をカメラはまずセンサーでデジタル化する訳だが、そこでの色に対する反応はメーカーによって、或はセンサー毎にも違っていて、作った人の考え方が最も強く出る部分でもある。そういう意味ではやはりセンサーがカメラの心臓部なのだろう。逆に言うとカメラを選ぶ時はセンサーの特徴を理解し、自分の感覚により近い物を選ぶ事が重要だと言える。
HDVの時代にCanonのカメラを愛用していた私は、時々SONYのカメラを使う事もあったが、なんだか淡白でテレビ的だなと感じる事が多かった。そして今の愛機FS100を始めとする、SONY業務用機全体にもその特徴はあると感じている。
だが民生機になるとガラッと変わり、色はガツっと出る感じで、よく比較される同じSONYのFS100とVG20との間にはこの違いが歴然と現れている。デジタル一眼で言えばCanon 5D MarkIIと7Dとの間にはセンサーサイズの違いだけでは片付かないトーンの違いがあり、一概には言えないが、映画業界では5D、テレビ業界では7Dが好んで使われている傾向があるのも面白い。他にも、赤の出方に特徴があるとか、暗い時にはアンバーの出方が変わるとかいろいろ特徴があるので、パラメーターでコントロールする前に自分のカメラのセンサーの特徴はしっかり掴んでおきたい。
さぁ、本格的な色作りを始めよう!
レンズ、センサーと通ってきた光をカメラ内のソフトウェアで様々な調整をして、いよいよ本格的に色作りをしていくわけだが、やはりここが一番劇的に色を作れるポイントだ。同時にかなりしっかり知っておかないとひどい結果を招く事にもなりかねないので、試行錯誤を繰り返して深く理解しておいてほしい。ここで様々なパラメーターを触る前にまず最初にやらなくてはいけないのは、基準色を決める、すなわちホワイトバランスをとることだ。
一般的に現場の光の中に白い紙等をかざして、カメラに「これが白だよ。」と覚えこませるようにするのだが、その瞬間にパッと変わる色を見て、「え?あぁ、まぁそうだろうね。」と納得はするのだが興ざめする事もよくある。つまり、メーカーやカメラが考えるごく一般的な色だ。まあ基準というのはそういった物であることは仕方が無い。
そこから始めてまずホワイトバランスシフトというパラメーターをコントロールする。ホワイトバランスをとった時、毎回、これだけずらしてくれという物だ。ほとんどの場合ここにはブルー←→アンバーだけではなく、グリーン←→マゼンダの方向へもシフトする事ができるので、レンズの個体差なんかはここで調整しておく方がいいと思う。
私もFS100の純正レンズをどうしてもアンジェニューと一緒に使いたい時の為に、少しブルーにシフトしたプロファイルを作ってある。この段階ではあくまで基準色を決めるというのが目的なのだが、作品全体にわたる特徴的な色を出したいのであれば、これを使ってもいい。一般的にはブルー方向は爽やかで、アンバーは温かいイメージがあると思うが、私の場合、特に若い女性が多く出る作品にではブルーとマゼンダ方向にシフトする事が多い。爽やかでありながら血色を損なわないかわいいイメージの為だ。ここですでにクリエーターの個性や考え方や作品性を表していくのだ。
次に彩度。全体の発色の強さを決める。ここでは作品性はもちろんの事、作品の長さや視聴環境もよく考えて決めてほしい。CM等の短時間にインパクトを与えるべき物と2時間の映画とはまったく違う。
また、淡い色を一定時間見ていると人間の目は色に敏感になり、小さな変化でもインパクトを与えられるような事もある。逆に強すぎる彩度は人を疲れさせ、長時間の作品ではかえってインパクトを損なう事もある。とても重要なコントロールなので、その場その場の美しさだけで決めてはいけないという事だ。もちろんここではブラックレベルやコントラストも色の伝わり方に大きく関係してくるので、それらとのバランスで決めていくと言う事も忘れてはいけない。
「色の深さ」というパラメーター
最後にFS100を始めとするSONYの業務用機に搭載されている「色の深さ」というパラメーターを紹介しておこう。ここまでで決めたカラーバランスをシアン、マゼンダ、イエロー、ブルー、アンバーで個別に調整できる機能だ。「深さ」と言うよりは「暗さ」「落ち着き」と言った方が分かりやすいかもしれないが、とにかく各色個別にコントロールできるこの機能は色作りの詰めの段階でクリエーターの個性を表現できる素晴らしい機能だと思う。
まるで画家にでもなったような気持ちになれてとても楽しい。印象に残る映像は必ずと言っていいほど印象に残る色世界を持っている。みなさんも色という物にこだわりを持ってどんどん印象に残る作品を産み出していってほしい。その時、常識に捕われない事、冒険を恐れない事、そして試行錯誤と研究をする事を忘れずに、まず、自分のカメラともっともっと仲良くなってほしいと思う。