アドビ システムズ社のビデオプロダクトマネジメントを担当するビル・ロバーツ氏が、6月26日より東京国際フォーラムで行われたCS6対応ビデオソリューション内覧会「ADOBE CS6 VIDEO DAYS」に合わせて来日した。ロバーツ氏は、デジタルビデオ/オーディオ製品のプランニングやデザイン、開発業務の統括などのディレクターとして活躍中だ。そこで、新しくPreludeやSpeedGradeを搭載することによってワークフローを大きく変えたCS6の反響や最新トピックなどを聞いてみた。
PreludeやSpeedGradeの追加で過去最大のバージョンアップを実現
–CS6が発売されて一ヶ月経ちましたが、反響はいかがでしょうか?
ビル・ロバーツ氏:日本ばかりではなく、世界的に大反響です。CS6はアドビの映像系製品の中でも過去最大のリリースとなりました。Premiere ProやAfter Effectsのアップデートではなく、スイートにPreludeとSpeedGradeの2つの新製品が加わったからです。それ以外にも月額料金で好きなCS6製品がすべて使えるCreative Cloudの発表もいたしました。これはわが社のソフトウェアのお客様にとっての使い方を大きく変革しようとするものです。
–まずPreludeのアピールポイントを教えてください。
ビル・ロバーツ氏:Preludeというのはファイルベースのワークフローにとても重要なインジェスト、メタデータ記録、バックアップ機能を持つソフトウェアです。現在多くのビデオカメラはファイルベース化が進んでおり、ファイルで記録されたメディアを放送局やポストプロダクションに持ち込んでコピーすることがありますが、その際にコピーをしながらそのメディアの周りにメタデータを追加することがPreludeでは可能です。メタデータはコンテンツをうまく検索したり、見つけたり、活用するうえで現代のワークフローの中で欠かせないステップになってきています。
Preludeの操作は非常にシンプルです。例えば大掛かりな放送局の中では若手の方でもプロデューサーの方でも使っていただくことができ、撮影してきたコンテンツを局内のすべての人と共有することができる状況にすることができます。このテクノロジーそのものは、パートナーであるCNNやBBCと共に開発をしました。そういう意味では水準、そして品質的にも最高のものに仕上がっています。
–日本の映像業界は業種によってはテープの需要がまだまだあります。DVからディスクへ取り込む際に使われていたOnLocationが廃止になったようですが、テープの入出力はどのような対応になっていますか?
ビル・ロバーツ氏:OnLocationはもともとビデオテープ用のものだったので、Preludeが後継ツールとなりました。その代わりに例えばテープのロギングですとか、あるいはビデオからの取り込みなどが行われなければならない部分は、Premiere Proでやっていただくことができます。
Preludeは、リリースしてからユーザーさんの反響が高いです。しかし、OnLocationに搭載されていたベクトルスコープに関してはPreludeでも追加してほしいという声が上がっていますので、今後の課題だと思っています。
–SpeedGradeのアピールポイントはいかがでしょうか?
ビル・ロバーツ氏:映像業界で起こっていることはダイナミックレンジが広くなったデジタルフォトグラフィーの世界と非常に似ています。仕上げの段階、フィニッシングの段階において光や色を操作することによって、これまでになかったクリエイティブなグレーディングを実現したいというニーズがあります。SpeedGradeは、それを非常に深いところまで行うことができるツールになっています。弊社は昨年9月にSpeedGradeを開発するIRIDAS社を買収しまして、その後6ヶ月で既存のソリューションとの間でスムーズに連携できるようにいたしました。まだ6ヶ月しか統合作業を行っていませんので、まだまだ完成できたとは思っていません。これからもワークフローの最適化の作業を続けていきます。After EffectsとPremiere Proの間はダイナミックリンクで非常にうまくつながるようになっているのですが、あれがまさにワークフローへの統合の一番いい方法なのかなと思っています。
–現在のPremiere ProとSpeedGradeは、どのような形で連携が可能ですか?
ビル・ロバーツ氏:現在は、Premiere Proから色の処理をしたいという場合には、Premiere Proのファイルメニューの中に「Adobe SpeedGradeに送信」という機能がありまして、それをクリックしていただくことによってSpeedGradeのほうに送ることができます。
–SpeedGradeは買収されたばかりのせいか、Premiere ProやAfter Effectsとまったく異なったユーザーインタフェースになっているようですね。
ビル・ロバーツ氏:それでもCS6に統合したバージョンに関しては、まったく新しいユーザーインタフェースを作りました。ただ、他のアドビのツールとインターフェイスが異なるのは理由があります。カラーグレーディングというのは、基本的には「最初から最後まで一貫した色にしたい」ということを目的として行われます。そこにはplayheadが複数あって、その複数のplayhead間での色のマッチングを行わなくてはいけません。そういう意味においては、通常の編集というタスクと少々毛色が違っているところがあります。
Premiere ProやAfter Effectsを使って制作された映画『ネイビーシールズ』
–今年新しく登場したキヤノンC300のユーザー事例を聞くと、カラーグレーディングにアップルのColorを使っている人が多いような気がします。Colorと比較した場合のSpeedGradeの特徴はいかがでしょうか。
ビル・ロバーツ氏:もうFinal Cut Studioは販売されていませんし、Final Cut Pro Xの中にいくつかの機能が統合されましたが、ツールセットとしては大変に小さなものだと思います。
実は弊社とキヤノンさんとの関係は非常に深いものがあります。SpeedGradeはC300の素材を読み込むときにはQuickTimeを介することなく、直接データを読み込むことができます。キヤノンのCINEMA EOSシステムのWebサイトでもPremiere ProとAfter Effectsを使って作られたヴィンセント・ラフォーレ監督のシュートフィルム「Mobius」が公開されています。キヤノンに関していえば、最高のワークフローは私たちが提供できるものであると思っています。
あともう1つトピックがあります。最近、日本でも公開さた映画『ネイビーシールズ』というのがあります。全米映画チャート初登場第一位にもなった映画です。撮影監督は、シェーン・ハールバットさんで、制作会社はBandito Brothersです。この映画は最初から最後まで全編アドビのPremiere ProとAfter Effectsで製作されています。撮影の70%はキヤノンのEOS 5D Mark IIが使用されています。カメラをヘルメットにつけて、ネイビーシールズと呼ばれる海兵隊の人と一緒に走れるような工夫を行って撮影されました。残りの30%は他のカメラや35ミリのフィルムだったのですけれども、そこをうまくシームレスに融合させることによって、この映画全体が作られています。映画を観る機会があったら、そのあたりもぜひ注目して観てください。
インタビューを終えて
Adobe CS6は、ファイルベースの素材の管理が容易になるPreludeの搭載により、海外のBBC、CNNといった世界を代表する放送局での採用が増えているという。また、SpeedGradeといったカラーグレーディングの採用や、REDやARRIといったデジタルシネマカメラにもネイティブ対応を実現することにより、『ネイビーシールズ』のような映画製作のワークフローにも採用事例が増えていくのではないだろうか。”ポストFinal Cut”と言われているこの時期だからこそ、注目の存在といえそうだ。