第四映像#005『高い塔』
作・監督・音楽:ふるいちやすし
出演:加藤カオル木村克幸小森亮宙

ダウンサイジングのその陰で

第四映像は撮影ラッシュを迎えている。ずっと続けてきたオーディションとリハーサルがついに結果を生み始めた。考えてもみてほしい。すでに芽吹いて花まで咲かせている才能がその辺に転がっている事は、ごく稀で、すでに高い値札が付いていたり、手の届かない高嶺に咲いていたりする。何かの幸運でそれを使って作品が作れたとしても、しっかりコミュニケーションをとる時間と自由を与えられる事も稀だろう。そういう条件的な理想を唱えているより、やる気のある若手の役者とじっくり作品を作った方がクオリティが上がるチャンスがある。何もかもをダウンサイジングする代わりに、人的努力を惜しまず、何より、まず作れ、だ。

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今回の作品はナレーションをベースにした4コマ。前回も同録にポータブルフィールドレコーダーを使用したが、実は2〜3万円代の各社のフィールドレコーダーに内蔵されているマイクはかなり質がいい。ちゃんと使えばナレーション録りにも充分使える。基本はステレオで広い範囲の音を録るのに適しているのだが、写真のように近い所にセッティングすればいい音で録れるだろう。ただし、マイクへの息の吹き込みを防止するポップガードは必需品だ。このレコーダーは固定するネジ穴が三脚用のサイズになっているので三脚をマイクスタンドとして使っているが、ポップガードもクランプで三脚のどこかに固定できる物を選んでおくと何かと便利だ。

この手のレコーダーは96kHzの高サンプリングで収録できる物も多いので例えばビデオカメラのマイクでやるよりもずっと高音質で録れる事は間違いない。録音機やマイクよりもこだわって欲しいのは、むしろ録音する部屋の環境だ。もちろん防音したブースがあればベストなのだが、静かな場所であれば必ずしも防音した部屋でなくても吸音さえしておけば充分だ。防音に対して吸音は外からの音を防ぐ物ではなく、部屋の中の音の反射、つまり響きを防ぐ為のものだ。

お風呂場に代表される部屋の響き(リバーブ)は、声が壁等に跳ね返って乱反射する為に起こるもので、これを防いでやるだけでぐっとナレーションらしくなる。単純に跳ね返りにくい素材でできた部屋、フローリングよりも絨毯、窓ガラスよりもカーテンといった柔らかいものの方が反射せず、吸音効果が高いと言え、特に声が最初に跳ね返るナレーターの真正面、マイクの裏側で反射を防ぐと効果は高い。専用の吸音スポンジ等も売られていて、これを部屋の壁や天井に貼るのもいいが、マイクとナレーターの周りをクッションや布団等で囲んでしまうのも効果的だ。

三脚は要!できるだけ良いものを使おう

さて、全てにおいてダウンサイジングをしてきたプチシネだが、一つ贅沢を許すとしたらまず三脚だろう。私も前回まで意地を張って敢えて安価なデジカメ用三脚を使っていたが、ついに我慢できなくなってしまった。動画において三脚は固定するだけの物ではなく、動かす為の物で、言わばカメラマンの手足になる物だ。

ビデオ用の三脚でも数千円の物から数十万円の物まであるが、まず何が違うかと言えば、この動きのスムーズさだろう。そしてカメラを動かすアクションにこそ、カメラマンの個性と表現力が現れると言っても過言は無い。また、カット割りのアイデアも固定かフリーハンドかのニ択だけではなく、様々な三脚の使い方を覚えれば、多彩な作品ができるはずだ。今回、新しく手に入れたリーベックの新製品RS-250RMを使ったが、これがとても優れもので、10万円クラスの三脚の中では飛び抜けた性能を誇っている。

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まず二段階で調節できる動きの粘りは非常にスムーズで3カット目の空のパニングも大した緊張感なく、気持ちよくできた。このクラスの三脚にしてはめずらしく、レンズによって変化するカメラの前後のバランスをどの角度でもとれるカウンターバランスも装備しているが、さすがにコンデジ、NIKON J1では軽過ぎてバランスはとれない。ごっつい雲台にNIKON J1がちょこんと乗っている姿はいかにもアンバランスなんだが、この雲台のスムーズな動きはやはり無くてはならない物だと思う。

ちなみにこれより上位の物はカメラの大きさ、重さに適合する物なので、これ以上の贅沢は必要ないだろう。注目して頂きたいのは1カット目のカメラの動き。これは三脚を二脚として使い、回り込み、ズームアウト、チルトアップを組み合わせたミニクレーンのような動きだ。フリーハンドにはない落ち着いた動きで表現したかったから選択した技だ。

また、なぜ一脚でやらなかったかというと、ハンドルとマニュアルフォーカスに両手を使ってしまうので一脚では思うように安定させる事ができないからだ。特に一脚では脚をしっかり支えていないと左右回転方向のブレが生じてしまう。最後の固定では三脚で立つように調整しておき、安定した美しい動きを実現できたと思う。もちろん身体は太極拳のような滑らかな動きが必要だが、こういう苦労は大変楽しい。こういう「動かす三脚」の技は今後も折りに触れて紹介していこう思っているので楽しみにしていただきたい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。