“Hugo” (c) 2011 GK Films, LLC, All Rights Reserved.
Autodesk University Japan 2012に登壇したアーティストに訊く
2012年上半期に公開された映画の中でも見逃せないのが『ヒューゴの不思議な発明』だろう。今年2月に発表された第84回アカデミー賞で、撮影賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、視覚効果賞の5冠を獲得した話題作だ。まさに受賞の通りで、不思議な映像美は必見だ。その本編のパーティクルエフェクトを手がけたスタッフの一人、Gear Robot LLC社のCGスーパーバイザー兼プレジデントのスングック・スー氏(Sungwook Su:左写真)が7月18日に行われたAutodesk University Japan 2012のセッションに合わせて来日した。美しいパーティクルエフェクトを実現したノウハウについて話を聞くことができた。
–スーさんが設立したGear Robotはどのようなプロダクションなのでしょうか?
スー氏:主に3Dの技術を使ったVFXやアニメーションのプロダクションです。スタジオはアメリカのロサンゼルスの近くにあります。私もアーティストなのでコンテンツを手がけることもあれば、テクニカルのプロという面からCGをサービスとして提供もしてます。CGのことならばすべて私のスタジオにくれば全部手がけて提供いたしますよ、というような世界を作り上げたいと考えています。
–最近はどんなプロジェクトに関わりましたが?
スー氏:まず実績の紹介になりますが、過去15年で合計で100ぐらいのプロジェクトに携わってきました。過去5年で50本ほど米国のコマーシャルに関わってきたり、20本の映画関係のプロジェクト、5本のアニメーションの長編、20本のアニメーションの短編なども手がけてきました。
最近の話ですと、『ヒューゴの不思議な発明』を昨年の11月に仕上げました。今から3ヶ月前には映画『スノーホワイト』を仕上げました。王様が剣を振って目の前の兵士を粉砕するというシーンがあるのですが、そこのシャッターエフェクトは私が担当しました。映画『アメイジング・スパイダーマン』は2ヶ月前に完了しました。ちょうど今アメリカで放映されている最中で、おかげさまでおかげ様でとても集客率が高くて好評です。劇中で車が燃えているシーンがあるのですが、そのシーンの炎の部分と煙の部分を担当しました。これから手がけるのが、ウィル・スミスと息子のジェイデン・スミスが出演する映画『アフターアース』です。公開は来年だと思います。それから2013年に公開の映画『Oblivion』という作品があるのですが、それも一部私が手がけます。
『ヒューゴの不思議な発明』の成功の後は本当にいいクライアントから大きな案件の話をもらうことが多くなっています。しかし、私は作品の大きさに関わらず、自分の最善をいつも尽くすことを意識して取り組んでいます。
–『ヒューゴの不思議な発明』のどこの部分を担当されましたか?
スー氏:『ヒューゴの不思議な発明』に出ている雪や埃は私の会社で制作をしました。あの映画に出てくる煙と蒸気の90パーセントがCGですが、その煙や蒸気も手がけました。映画のシーンの50パーセントぐらいは駅なのですが、特に駅のところでは煙や蒸気であったり、地下鉄での様子であったり、機関車がでてきます。その機関車は9割はCGです。ちなみにミニチュアの機関車の模型を作成して撮影しているシーンもあるのですが、いかんせん模型にしか見えません。ですから撮影をするときは模型で撮っても、それをCGに置き換えたりしています。
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劇中の雪や蒸気、機関車の煙はスー氏が手がけたものだ
–ヒューゴのマーティン・スコセッシ監督はパーティクルに独自のルックを求められたということなのですが、どようなことを依頼されたのでしょうか?
スー氏:マーティン・スコセッシ監督は、各ショットごとに必ずなんらかの輝くパーティクルを盛り込めというのが依頼でした。トゥインクルパーティクルや雪、埃などとにかく各画面に散らばめさせなければいけませんでした。そういった意味では細部にわたるところでの表現というのが求められました。そして、その埃にしても雪にしても、見栄えや動きが各ショットごとにユニークなものでないといけませんでした。具体的には単に雪だから下から上に降るのではなく、横にも動くような感じの動きが求められました。例えば今この部屋にも埃があるわけですが、それは私たちの生の目では見えません。しかし、それを具現化させてスクリーン上でも雪と埃をはっきりさせて、たとえ違いが微細であろうとも違いがでるような形で表現せよといわれました。
2011年は『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』や『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』などビジュアル的に大変優れた作品というのはたくさんありました。そういった中でそれほどビジュアルエフェクトが使われていなかった『ヒューゴの不思議な発明』が受賞したということがすばらしいことです。それはまさにこの監督が求めていた特殊なルックがあったからだと思います。
–そういったパーティクルをどのような環境で実現したのでしょうか?
スー氏:アメリカのロサンゼルスの近くにある私のスタジオで行いました。ハリウッドのスタジオというのは9割方オートデスクのMayaベースの環境を整備しているのですが、私どものスタジオでは3ds MaxとMayaを両方使っています。とりわけ今回の『ヒューゴの不思議な発明』に関しましてはだいたい3ds maxが8割、Mayaが2割という感じです。もちろん、スモークエフェクトを作り出すにはMayaの流体エフェクトのFluid Effectsも使えなくなかったのですが、私は3ds max上で動作するSitni SatiのFume FXを好んで使いました。このFume FXというのは煙を生成するプラグインタイプのツールです。こちらのほうが効率がよかったので、3ds maxをMayaよりもより豊富に活用しました。
–Fume FXを選んだ理由をもうちょっと詳しく教えてください。
スー氏:大きくわけて4つの理由があります。まず、Fume FXは処理能力が早い。そして、そのほかのツールに比べて安価なこと。MayaのFluid Effectsと比較してもディテールを扱うことができるということ。モーションブラーをサポートしているという点が挙げられます。特にモーションブラーというのは3Dエフェクトの業界においては、大変重要な要素です。私がソフトを選ぶときは必ずモーションブラーをサポートしているかどうかよを確認します。サポートしているタイプでも真の意味でサポートしているものと、擬似的にサポートしているものと、まったくサポートしていないものがあります。Fume FXの場合には、完全にサポートしていてそれがMayaのFluid Effectsよりも優れていた点でした。
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–こういったパーティクルを効率よく設定するためのノウハウみたいなものはありますか?
スー氏:パーティクルは、部分ごとに濃くしたり薄くしたり量を詰めなければなりません。そこで薄いパーティクルを青、濃いパーティクルを赤のようにパーティクルにRGBの色を設定します。このように色をつけて、後で部分ごとにオンにしたりオフにしたりすることでパーティクルの量や濃度を細かく部分ごとに効率よく設定します。つけた色は最後にコンポジットソフトで通常の素材の色に戻します。
–『ヒューゴの不思議な発明』の制作で苦労したところやその問題をどうやって解決したかを教えていただけますか?
スー氏:いかなる映画製作に関しても必ずR&Dの期間というを設けています。R&Dの期間とは、いろいろなリサーチをしたりテストをする期間のことです。今まで自分が手がけたことがないような技術をここの期間で試したり、前にやったことがあるがとても困難だった技術をR&Dの期間にもう一度思考錯誤します。
『ヒューゴの不思議な発明』の中でもとりわけ大きなチャレンジだったのが、機関車から出てくる煙の部分でした。見た感じは凄く簡単そうに見えるかもしれませんが、実は大変難題でした。というのも煙というのは膨大な量が出てきて、そして機関車が前進すると、煙は後ろのほうに引かれて長く帯状に伸びていかないといけません。機関車が前進するスピードはとても速く、それにしたがって煙のほうがずっと尾をひくような形で伸びていきます。でも機関車が前進したからといって瞬時に消えていくわけではありません。長く帯状に伸びてよどんで消えるというようなとこを表現するのはそれ相当のシミュレーションとそれに関わる計算が必要でした。
1回のショットごとのシミュレーションが1時間ある場合もあれば、大変に膨大な場合に8時間もかかることもあります。1台しかコンピュータを使っていない場合は8時間待たないと結果がでないわけです。結果が出てみてまたパラメータを変更をするわけですが、ではこの8時間はなんだったという状態になるわけです。そこで考えたのが、この長い煙を分割して、ブロックごとに分ける方法です。すると、5台のコンピュータを使って、それを計算させた場合には5倍速で作業が終わることになります。スピードだけではなく、メモリという面でも5台に分けることによってそれほど高価なコンピュータを使わずに済むということにもなります。最終的には、この煙を分割処理するという方法をとることによって、時間にしてもコストにしても削減することができました。ヒューゴのR&Dの期間で一番学んだことは煙を分割にする。そしてまた1つの集合体にする。その際にシームレスな形にまた1つの集合体として合成することが成功の秘訣だったわけです。
最後に
『ヒューゴの不思議な発明』は、アカデミー賞でも評価された幻想的な美しい映像のほかに、3D映像版も評価が高い。8月24日には待望のBlu-rayやDVDがリリースされるので、まだ本編をご覧になられていない方はスー氏のクリエイティブワークも念頭においてこの機会にぜひ観てほしい。