隣町ボンと合わせて西ドイツの首都機能を担っていた頃から一変し、今や静かな工業地帯となったケルンだが、2年に1回、ケルンの街はPhotokina一色に染まる。今回と次回は、そんなケルンの街からお送りしたい。Photokina本体については先般の速報記事にて触れたが、記事を送信後に入ってきたPhotokina情報をご紹介しておこう。
まずはPhotokinaでのZeiss社追加情報から
Carl Zeiss Distagon T* 1,4/55。全く今までとは異なるデザイン。新しいシリーズの幕開けだ
Carl Zeiss社は、写真用レンズとして、EFマウントおよびニコンFマウント互換の「Distagon T* 1,4/55」をPhotokina2012で発表したが、これは実は、光学系から全て再設計された全く新しい製品ラインナップのスタートレンズとなる模様だ。
このレンズ群は見ての通り、デザインも一新され、何よりも、そのレンズサイズの大きさが印象的だ。35mmフルサイズラッシュのスタートに備えた製品群だけあって、光量確保のためか82mmものフィルタ径を装備している。そのためあってか、EFやニコンFという古いマウントでは信じがたいF1.4という明るさを実現している素晴らしいレンズだ。明るさとイメージサークルのセンサーカバーサイズを考えると、Pronews的には、今まさに大判素子動画に必要とされているレンズだと言えるだろう。写真と異なり、映像では寄って撮影することが多いので、広角寄りのレンズ群の充実を望みたいところだ。
32mm F1.8 SONY Eマウント用Planarレンズと、12mm F2.8の富士フイルムXマウント用Distagonレンズ
同じくZeiss社では、ミラーレスカメラに合わせたレンズ群を試作発表していた。展示されていたものは32mm F1.8のSONY Eマウント用レンズと、12mm F2.8の富士フイルムXマウント用レンズ。共に来年夏までに発売予定、価格は1000ユーロ前後を予定しているとのことだ。
さらには、フォーカスリング動作幅の大きい「Apo Sonnar T* 2/135」も展示発表していた。フォーカスリング回転角が大きければ動画でも有利ではあるが、135mmという望遠レンズはスーパー35mmセンサー使用時の35mm換算で216mmにもなり、その距離の単焦点レンズはPronews読者層的にはちょっと使いにくいところかも知れない。
シネレンズに乗り込んできたTokina
Tokina 16-28mmシネズームレンズ。純日本製のこうしたシネレンズが増えるのは大歓迎だ
フィルタで有名なケンコー系のレンズメーカーTokina社は、満を持して同社製シネレンズの試作展示を行っていた。同社のレンズは実はシネ系では定評があり、特に「Tokina AT-X116 DX」レンズは各社からケースやメカ系をリビルドされて高級シネレンズとして販売されていることでも有名だ。ぶっちゃけた話、焦点距離が11-16mmの現行シネレンズの中身は全てこのTokina AT-X 116であると言っていい。つまり、光学系そのものは既に映画に耐える品質を持っている事になり、その光学性能はお墨付きなのである。
今回展示されていたレンズは、同社製「AT-X 16-28mm PRO FX」をシネレンズ化した、16-28mm F2.8のPLマウントレンズだ。実際にこのレンズが装着されたSONY F3を覗いてみたが、その画質は実にクリアで、変な歪みも無く素晴らしいものであった。もちろん、ギアも完璧で、シネレンズとしての動作を行っていた。
このレンズは、16mmから28mmまでの1.75倍とシネズームレンズにしては極めて低い倍率ではあるが「通常のシネズームレンズは大変高額なものだが、倍率が低い代わりにそれよりも安く出せれば」という話をしており、性能面だけでは無く価格面でも期待したい。なお、このレンズはInterBEEでも実機展示予定とのことで、日本の読者諸氏ももうすぐ実際に試せるとのことだ。
がら空きだった中国韓国系メーカー
中国ブースは驚くほどがら空きだった。混んだのは最終日の展示品投げ売りの時間くらいだった
さて、敢えて速報本体では外した内容を、このコラムでは書かねばならないだろう。それは、このコラムでも今まで継続的に取り扱ってきた、日中韓関係のことだ。
各所にあった写真展は日本の被害に関するものが多数であった
国境問題で急速に悪化した日中関係と、オリンピックに便乗して国境問題を蒸し返して状況を悪化させた日韓関係だが、その影響は色濃くこのPhotokinaに出ていた。というのも、今回のPhotokina2012のメインテーマの一つが「東日本大震災」であって、日本とその被害者に対する鎮魂と復興の念を込めたイベントがあちこちで行われていたからである。無数にある写真コンテストも基本的には東日本大震災や福島第一原発事故の写真が多くを占めており、その多くは報道に制限の多い日本国内では報道されないようなショッキングなものであった。
そんな中、Photokina初日に合わせるかのようにして、中国本土では反日暴動が発生し、なんと、日系のカメラ工場を中心にして襲われたのである。恐らく、デモ隊(と、その裏で反日デモをプランした何者か)としては話題性の高いPhotokinaにあわせて日系カメラ工場を襲うことで、世界中に反日の輪を広げようとしたと思われるのだが、その目論見は見事に裏目に出た。
元々Photokinaは、「写真人」というその名の通り、人間性重視、ヒューマニズム重視のイベントであり、大企業が多数集まる商談会メインと言ってもゴリゴリの商売熱心なところでは無い。むしろカメラ好きの人間が2年に1度世界中から集まるお祭りに企業がお金を出してあげている、という感が強いイベントなのだ。その初日に、参加者たちの愛するカメラ工場が襲われたのだ。よりにもよって、話題の6Dを作っているキヤノン工場とGH3を出したPanasonic工場が襲われ、α99兄弟で話題を集めるSONYの工場が操業停止。しかも、東日本大震災と原発事故の深刻な被害者であることが多数の写真で示されている日本に対してのこの仕打ちだ。どういう反応になったのかは想像に難くないだろう。
元々日系企業が多くを占めるイベントということもあり、会場は初日から参加者が揃って中国ブースを避ける状況となり、とばっちり(というほどイノセントでも無いが)で韓国系ブースもがら空きという状況であった。Photokinaにはマスコミ関係者(主に一般参加者として)も多く、当然、ドイツ国内での中国暴動関連のテレビ報道も決して中国に好意的なものでは無かった。
韓国系ブースにも来客は少なく、サムスンのブースも人が少なかった
しかし、これを日本に理解があるなどと勘違いをして喜んでいたら大間違いだ。今回のPhotokina開催中、私はある質問を受け続けた。それは「お前は中国人か」というものだ。これに「NO」と答えると「コンニチハ」などとたどたどしい日本語などで非常ににこやかな対応を得られるのだが、この質問が出てくるまでの間非常に冷淡な仕打ちを受けることも多く、例えば、とあるビール工場の地下にあったレストランでは、出身国の会話を進めるまでメニューすらろくに出て来なかった上、最初のビールもテーブルにドンと放り出される始末であった。
これを、ほらやっぱり日本に好意的だ、などと思ってはいけない。基本的にケルンの人々には日本人と中国人の区別が付いて居らず、私に対してもとりあえず冷遇するところから入っていた、という所が重要なのだ。あくまでも今回の中国暴動は言い訳でしか無く、基本的には肌の色でそうした行為をやられているのである。中国暴動の被害者だから日本は歓迎してやるよ、などというのは後付けなのだ。バブル期のジャパンバッシングを例に挙げればすぐわかるとおり、これは容易に日本人に対しても牙を剥く状況なのだ。
ケルンは欧州随一の工業地帯という状況もあり、中国など新興国の興隆による欧州不況の影響を最も受けた地域のうちの一つである。そのため、新興国に対する経済的な恨みもあるのだろうが、とはいえ、二次大戦の反省から差別を忌み嫌うドイツ国内において、これは酷い状況だ。私も度々欧州を訪れているが、こういう状況ははじめて経験した。
また、日中は経済的に強く結びついており、双方にとって相手方は欠かせないものである。今回の件で日本経済は確実に失速するが、中国経済も間違いなく失速する。日本から見ると中国は一番の貿易相手ではあるが、日本では不幸中の幸いで東日本大震災の復興需要がある為に、中国市場での売れ行きが落ちる悪影響が、中国から回帰してきた国内向け生産需要でだいぶ相殺される。元々中国の人件費高騰が問題になっていたこともあり、渡りに船と反日暴動を期に日本国内生産に回帰するところは多いと予測されるのだ。ぶっちゃけた話、映像業界もそうであり、特にCGや特撮合成などは、実は今、空前の仕事ラッシュに湧いている。
しかし、中国にはそういった要素は無い。いくら中国から見て日本が米国に次ぐ二番目に順位が落ちた貿易国とはいえ、その影響は小さいものでは無い。中国国内の生産設備の多くも日本資本であり、それが機能しなくなれば大変なことだし、それを政府判断で没収して運用しようなどしようものなら世界中の資本が一気に引き上げる大騒ぎとなるだろう。以前から米国や欧州各国の店舗なども中国のデモ隊による焼き討ち被害には遭っており、今回のドイツマスコミやケルンの人々の反応は、まさにそうした事態を警戒していることを示している。
今回の中国反日暴動は、世界中に大きな不信感の種を蒔いてしまったのでは無いだろうか。とんでもないパンドラの箱を開けてしまったのでは無いかという不安感がぬぐえない。次回はケルンの街の映像状況などを紹介したい。