第四映像#003『山の人、海の人』
出演:池田優菜、嘉悦恵都、共にオフィスモノリス所属 作・監督・音楽:ふるいちやすし魅惑のCマウントレンズを温ねて…
NIKON 1 J2が発売された。ディスプレイの品質向上や魅力的な機能も追加されたようだが、センサー等は変更されていないようなので、今やレンズ付きで3万円を切って売られているJ1も魅力的な選択だと思うし、中古となると更に安くで手に入るはずだ。このNIKON 1シリーズのセンサーは16mmフィルムとほぼ同じ大きさという唯一のフォーマットで現在の各社の一眼デジカメの中では決して大きい方ではないのだが、画質やボケ味等とは別に特別な意味を持っている。それはCマウントというかつて16mmフィルムを使ったムービーカメラ用に作られた様々なレンズが、アダプターを介して付ければほぼジャストサイズで使えるという事だ。
今回紹介するレンズ「P.Angenieux 17-68mm F2.2」(左)、「KINOTAR 12.5mm F1.4」(中)、「LOMO MC 25mm F1.4」(右)
もちろん、画質や専用レンズのラインアップに於いてはこれより大きいフォーサーズやAPS-Cの方が有利で、カッチリきれいに撮るという意味ではそちらを選んだ方がいいと思う。一方、NIKON 1の純正レンズとなると本当に限られてしまうのだが、Cマウントのレンズには味のあるクラシックレンズがごろごろあり、あまり知られてないが、工業用や監視カメラの世界では今もこのCマウントが採用されている事から、新しいレンズも発売されている。特に開放値の小さな明るいレンズとなると、純正レンズには無く、Cマウントのレンズには多く存在する。元々小さなセンサーというのは大きい物に比べて被写界深度が深くなり、ボケにくいという特徴があり、そういう意味でも開放値の小さい、よくボケるレンズというのは表現上大変魅力的なのだ。今回はこの第四映像で使っている味のあるCマウントレンズをガッツリご紹介してみよう。
「P.Angenieux 17-68mm F2.2」
フランスのシネレンズメーカーとして独特の柔らかい描写で根強い人気を持つアンジェニューのCマウントズームレンズ。NIKON 1を普段ポケットカメラとしても使っている私のメインレンズだ。17-68mm(35mm換算は約2.6倍になるので44.2-176.8mm)というズーム域は最近のレンズに比べると広いとは言えないが、標準から望遠の実用域をカバーしており、なんと言っても全域でF2.2という明るい絞りで撮れるのが魅力だ。従って、ボケ方も素晴らしく、ボケそのものにも独特のクセがありおもしろい。
私はフルサイズやSuper35で撮る時にも35mm用のアンジェニューレンズを好んで使っているが、このCマウントでもその特徴は出ていて、なんでもない町並みを撮ってもどこかクラシックにふわりとした質感になる。元より高解像度とか忠実性なんかは求めていないので、露出もオーバー気味にしてふわっふわな画を撮るのが大好きなのだが、少し絞りこむと色も描写もしっかりしてくる。これはおそらく1950-60年代の物でレンズのコーティングは現在のレンズとは比較にならない位に弱い。従って逆光の時にはガラッと表情が変わってしまい、正直、何が起こるか分からない。それをおもしろいと感じるか厄介と感じるかは意見が別れる所だろうが、時々息を飲むような光とガラスのいたずらが見られて楽しくてしょうがない。
高品質を求めるならどう転んでも業務用の上級カメラにかなうはずもなく、へたにそれを求めればむしろ陳腐にさえなる。プチシネは「味」で勝負だ。またフォーカスもズームも昔のレンズらしくリングに粘りがあり、とてもスムーズなフォーカシング、ズーミングが可能だ。ただ、距離を近くするにしたがってレンズが少し伸びる構造になっているため、特に広角側では若干のケラレが発生する。あと、このレンズは近接撮影が苦手で、90cmくらいまでしか近づけない。どうやらCマウント自体があまりカッチリした規格ではないらしく、カメラとの相性などはあるようで、これは付けてみるまで分からない。アンジェニューのCマウントズームはこの他にも幾つかのタイプがあり、オークションなんかでも度々見かけるが、試しに買ってみるには高価で、ちょっと勇気が要る。やっぱりお店に出かけて現物を試してから購入するのが安心だ。
「KINOTAR 12.5mm F1.4」
日本製だという事以外、詳細は不明。木下さんが作ったと踏んでいるのだが…。アンジェニューのズームをメインに考えると、NIKONの純正レンズ10-30mmではトーンが全く合わず(おそらく解像度が良すぎるんだと思う)、ワイド側が足りない。お店にアンジェニューのワイドを探しにいったのだが、ほとんどの物がケラれてしまって使えそうになく、値段も高い。そこでお店の人が出してきてくれたのがこの一本。35mm換算で32.5mmなのでそこそこワイドとして使える。それにF1.4という明るさはとても魅力で、さっそく付けてみるとどこかアンジェニューにも繋がる柔らかさがある。普通、広角の明るいレンズというのはとても高価な物なのだが、これは¥10,000。これだからCマウントはおもしろい。さっそくNIKON 1に付けてみるとケラレは一切無く、おまけにセンサー面から20cm、レンズ先端から約10cmくらいまで寄れて、ボケ味もなかなかいい。元々35mmという画角が大好きな私なので、今ではすっかり手放させない一本になった。
「LOMO MC 25mm F1.4」
トイカメラでお馴染みのロモから発売されたCマウントレンズ。クラシックではなく現行品だ。35mm換算で65mmなのでアンジェニューとかぶっているがF1.4という明るさとロモというブランドイメージから、なんかおもしろいレンズなんじゃないかなという期待があった。これは日本国内ではほとんど見たこともなく、海外のネットオークションサイト、eBayで見つけて買ってみた。「必ず付けて確かめてから」というポリシーに反してはいたが、なんと値段が$33。送料を含めても¥5,000程度で手に入る。しかもマクロスペーサーが2個もおまけで付いている。寄れないアンジェニューの弱点をカバーしてくれるかもしれない。ちょっとした酔狂のつもりで買ってみた。ところが意外にしっかり写る事にびっくり。しかもマクロスペーサーなしで30cm位まで寄れる。これはいい買い物をしたと、ポートレートレンズとして大活躍している。
「NIKON 1NIKKOR 10-30mm」
作例は左からワイド端10mm。右がテレ端30mm
もちろん紹介したレンズは全てマニュアルレンズだ。でもいざとなれば純正のレンズを付ければいい。オートでサクサク、カッチリ撮らなきゃいけない事もあるだろう。
コストパフォーマスにもすぐれたCマウントレンズ群
いずれにしても楽しくて安く済むCマウントレンズの世界。それを100%動画に活かせる唯一のカメラNIKON 1シリーズ。DSLRが大流行している現在でもレンズを変える事によって作られるトーンの違いで話が盛り上がる事はあまり聞かれない。それはカメラメーカー自体がレンズも作っていて、他社のレンズを付ける事を積極的に広告できないという事とレンズ一本一本が高額である事も原因だろう。
案外カメラ本来の楽しみ方が手軽にできるのはNIKON 1+Cマウントなのかもしれない。Cマウントレンズの中にも銘玉と呼ばれてバカ高いマニア価格が付いている物もあるが、それ以外にもたくさんのクラシックレンズや新品レンズが発売されている。私はソフトなトーンを好んでこのようなレンズを揃えてみたが、もっと重厚なトーンが作りたい人はドイツ製や英国製のレンズを中心に揃えてみるのもいいと思う。また、日本にもかつていろんなレンズメーカーがあったのかもしれない。それも探してみたいものだ。