第四映像 #004『So far』

「じゃあ明日、何かやろう」ではじめる撮影

今回は天気や役者さんのスケジュール面で色々ついてなくて、もうダメか、お休みか、とも思ったのだが、この際、プチシネ中のプチシネ、「明日空いてる?」ムービーをやってみようと思った。幸い二人の役者さんを確保できたので「じゃあ明日、何かやろう」って事になった。

どこまでもついてなくて、翌日は雨確実。室内でできて、しかもセリフの少ない物をと考え始めたのだが、結局これをやる事にして台本を送ったのが当日の朝早く。どちらがどちらの役をやるかは、二人がスタジオに来てから携帯のメール打ちの早さで決めた。偶然にも二人が予想していた役と一致していて、役作りはスムーズにできた。それでもほぼ一時間はこれに当て、二人の関係性、そもそものもめ事の原因は何だったか、等を丁寧に話して意思の統一を図る。どんなに軽い企画でも、精一杯やらなくてはいけないポイントは在る。

でなければ残す価値のない物を作ってしまう事になるからだ。元々「思い付いたら映画を撮る」というのがこの企画のテーマ。とことんのダウンサイジングは、それでも最低限のクオリティを維持する為。スケジュール的に許された四時間の間に素敵な4カットを撮る事に全てを注いで考えて、始めのカットは前回紹介したLOMOの25mmF1.4におまけで二個付いていたマクロスペーサーを一個付けて接写にする事にした。

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しかも演者のイライラ感を表現する為敢えて手持ち。接写ではほんの一点にしかフォーカスが合わないので、細かく動きを決めて、後はフォーカスリングは触らずにカメラの距離で被写体を追う。フォーカスが合うだけではダメで、タイミングとカメラの動きの面白さが必要で、正直何度もやり直した。片手で持てる小さなカメラだからこその大胆なカメラワークに挑戦したのだ。うって変わって2カット目は演者の全く違う心持ちと別の場所かのように見せる為にフィックスショット。LOMOのレンズからマクロスペーサーを外して、賞味5mm(35mm換算65mm)で撮っている。

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これでも充分クローズアップではあるが、だんだんゆるんでいく感じにして別のリズムを付ける。逆に役者さんの演技は間を充分とってもらって空気感を出す。その間は最後のカットで特に長くなるが、これがただの沈黙、隙間であってはならない。空気に役者の思いが漂っている画にしなければいけない。例えばある動きのイメージがもっと遅くあるべきだと感じたら、単純に「もうちょっとゆっくり」と指示を出すだけではこの間はできない。もうちょっとゆっくり動く必然のある感情を役者さんに持たせなければいけない。結果、役者さんの中で自然な動きにとして、そのスピードに導いてゆく事が大切だ。こういった事を一つ一つ丁寧にやってギリギリ4時間だった。ちなみに最後のカットは前回ご紹介したKINOTAR 12.5mm F1.4 (35mm換算32.5mm)だ。スタジオが狭かったという理由もあるが、広角レンズの持つ僅かな湾曲が同じ画角であっても冷たい距離感を表現する手助けをしてくれている。

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クラシックレンズを最大限活かす方法とは?

Cマウントのレンズをジャストサイズのセンサーを持つNIKON1で使うのは実は大きな意味があって、それぞれのレンズのイメージサークル(光を集められる最大限、当然円形になる)を一杯に使うという事で、特にクラシックレンズの場合はそのレンズの味が出るのだ。実はレンズの外側ギリギリの所から入ってくる光は整った光とは言い難く、これが独特のボケ方や周辺光の暗さ、湾曲といった効果を生み出している。善し悪しは別として、これがレンズの持つ個性、面白さだと言えるだろう。これは例えば35mmフルサイズ用のレンズをCanon5Dのようなフルサイズセンサーのカメラで使うのと同じ効果がある。それをAPS-CやSuper35等の小さいセンサーで使うと、周辺の光はスルーして、真ん中の整った光だけを受け取る事になり、歪みやボケ、周辺光量落ちといった物が幾分小さくなり、すっきりした淡白な画像になる。もちろんそれを好んでわざとレンズのイメージサークルより小さいセンサーを選ぶ人もいる。また、逆にマイクロフォーサーズのような小さいセンサーに対して35mmフルサイズ用のEFレンズをあえて使う人もいる。いずれにしてもその違いは知っておかなくてはいけない。

今回は最小の映画製作という事に挑戦してみたが、ショートムービーを撮るのにしても、明るい内に30カットとらなければいけない事もある中、意外に丁寧に事を進められた。ずっと前にお話ししたように、例えプチシネであっても、たった昼間の4時間だったとしても、貴重な時間と能力を注いでくれた役者さんには意味のある物を残さなければならない。その為には出来る事は精一杯やって、彼女達の能力をできるだけ引き出す事を怠ってはいけないのだ。そして映像作家としても、むしろいろんな冒険ができる機会でもある。さあ、皆さんも思い立ったらプチシネだ!まずはどんなに小さな作品でもいいから作り始めよう。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。