「彩~aja~」(予告編:英語版)
私事で恐縮だが、2012 ANGEL FILM AWARDS モナコ国際映画祭で私の「彩」という作品が長編部門で四つの賞を受賞した。
- 最優秀オリジナルストーリー賞
- 最優秀撮影監督賞(ふるいちやすし)
- 最優秀オリジナル音楽賞(ふるいちやすし)
- 最優秀新人賞(主演:笠原千尋)
大変名誉な事で、また、各々の賞が自分が映画作りで特にこだわっている所なので、本当に嬉しかった。時間が50分と長めの作品だが、3人の出演者と劇中で使った絵を描いてくれたアーティストを含めて全部で6人で作ったプチシネ精神溢れる物。早い話が僕と助監督だけで撮った物で、それには映画祭のスタッフも、各国の映画製作者もびっくりしていた。この作品は完成後、銀座アップルストアで一度だけ試写イベントを行ったきり、全く上映されなかった作品で、ハッキリ言ってしまうと国内での評価は全くされなかった作品だ。だから入選が決まってモナコで上映されて、周りの外国人たちが褒めてくれるのを見ただけでも本当に嬉しく、それ以上に賞を貰えるなんてイメージは、正直、全くなかったのだ。
まずは同じ映像作品を作ってる人たちに言いたい。もしあなたの作品が国内で評価を受ける事ができなかったら、一度海外の映画祭やコンクールに出してみよう!全く異なる視点と感性で見てくれる。なーんて、分かったような事を書いているが、かく言う私も海外の映画祭に挑戦したのは今回が初めて。運良く受賞までのフルコースを体験する事ができたが、苦労した事やビックリした事のオンパレードだった。そこで今回からしばらく、これから挑戦してみようと考えている人の為にも少し詳しくレポートしてみようと思う。
悪戦苦闘しながらのエントリー
まずはエントリーにまでさかのぼるが、一体どこでどんな映画祭が行われているのかはネットで簡単に検索する事ができる。例えばブレインウッズという映画翻訳会社のサイトには日本語で各映画祭の大まかなスケジュールとオフィシャルWEBサイトへのリンクの一覧表があり便利だ。中には映画祭への出品を代行したり推薦したりする会社もあるようだが、ほとんどの映画祭が作品のレギュレーション(応募規定)さえ守れば個人でも応募できる。だがやはり英語の壁は越えなくてはいけない。レギュレーションを読むのももちろんだが、それ以前に英語の字幕を付けた物でなければ、まず受け付けてもらえない。
幸運にも、今回の作品は台詞が極端に少ない作品だったので自分でやる事にしたが、日常会話程度の英語しかできない私はそれでも悪戦苦闘。また単純に英訳するだけだと、文法の関係で字幕の言葉と役者が話している言葉が合わない。つまり、役者の声と表情が字幕の言葉とずれてしまうと言うことだ。私はそれがとても気になるので、なんとか日本語の順番で英語を乗せていく努力をした。それでも最終的には英語として理解してもらう必要があるのでどこかで妥協しなければならない。また、言葉や言い方をニュアンスに合わせて書こうとすると、変に説明しなくてはならなくなったり、そもそも文化的に存在しないニュアンスもあったりするから難しい。
いずれにしても英語のテストを受ける訳ではないので、映像作品としての臨場感やリズム感を最も大切に考えなければオーディエンスに楽しんでもらえないと思うのだがいかがだろうか?例えば字幕の翻訳を他の人に頼むとしても、中にはすっかり英語にしてしまう人もいるので、その辺りの打ち合わせはしっかりした上で発注しなければいけないし、そういう意味では外国人より英語のできる日本人にやってもらった方が良いだろう。
たくさんある「あらすじ」
さて、英語との戦いはそれだけでは済まない。応募の時にあらすじを求められる事が多い。一言であらすじと言っても、「ログライン」「プロット」「シノプシス」と色々な物があるが、日本で使われている言葉の意味合いと少々違うところもあるので注意してほしい。例えば文章の量や企画書的なものかオーディエンスに対する宣伝的なものか、ストーリーを結末まで書くのか何かを期待させて作品へ誘うのか、感覚的な文章でいいのか正確な文章が必要なのか等、よく考えて提出しなければならない。
恥ずかしながら今回のモナコでは応募の時にはそのあたりが分からないまま自分で書いたのだが、入選が決まった後、再提出を求められ、ついに他の人にお願いする事になった。「ログライン」というのはほんの数行で設定やテーマを書き、その作品の全体像が想像できる物。どちらかというと長めのコピーといった感じだろうか。「シノプシス」というのがあらすじをほぼ全部書いた物で結末までを書くのが基本のようだが、それでも作品を観たいという期待は残しておかなければならない。これは台詞が少なくても長文になるので、いい加減な英語では読む気がしなくなるし、なにより美しい、おもしろい文章でなくはいけないので英語に通じた人でなくては書けないような気がする。
また、今回は要求されなかったが、「プロット」というのはもっと企画書に近い物で、場合によっては物語のみならず、映像の特徴やキャストの経歴までも含めて書く必要がある。余談だが「スクリーンプレイ」というのが純粋な脚本で、これを提出しなければならないコンクールもあると聞く。その他に「トレーラー(予告編)」も要求される事が多いので、こちらも冒頭のように英語で作っておかなくてはならない。
いずれにしても英語の分かるブレーンは必要になる訳だが、逆に言えば世界のどの国の映画祭でも英語が公用語とされているようで、今回のモナコでもフランス語圏でありながら、司会からインフォメーションまで全て英語で進行されていたので、英語さえ分かればなんとかなる。ちなみに通訳はいないと考えた方がいいだろう。私の場合、友達と喋る分には分からない事は喋らないし、大して困らないのだが、舞台上やテレビ局の取材等でのインタビューでは困ってしまった。日本の映画祭等では外国の入選者に対して英語の通訳を付ける場合があるのだが、その逆は期待しない方がいいのではないかと思う。
入選の報告はメールで受けたが、その後細かい打ち合わせはスカイプの電話でのやりとりもあり、衝撃の事実が次々と露になったりもしたが、その辺りは次回、現地でのレポートも含めて書いていこうと思う。