イルミナイト万博X’mas 2012のメインコンテンツとして実施された太陽の塔へのビームペインティング
txt:奥本 宏幸(マリモレコーズ) 構成:編集部
映像で空間を演出するということ
出動回数が高いというRoland V-800HD。4:4:4の高画質出力とコストパフォーマンスの高さが魅力
「音楽コンサート」「モーターショーなどの展示会」「学会」「式典」「街頭イベント」などなど、現代のイベントには映像は必ず組み込まれているといってもいいだろう。そして、その映像はただ資料映像や写真を映し出すだけでなく、様々な形でイベントを盛り上げる「演出」として使用されている。2012年から日本でも急激に広まりだした「プロジェクションマッピング」もその一つだ。
最前線で活躍するエンジニア・クリエーターの『映像をつかった演出』とはいったいどんなものなのだろうか?
ワンストップで空間を演出する
ならファンタージア〜YAMATO 新話〜 プロジェクションマッピングとレーザーの融合
大阪に拠点を置く、創業1926年の老舗映像機器レンタル会社「株式会社タケナカ」。元々は35mmの映写機を製造し、出張映写する企業だったそうだ。現在は映像機器のレンタル業をメインに「イベント空間演出」のプロデュースからオペレーションまですべてを手がけている。タケナカの事業部門は大きく9つのブランドに分けられる。「映像音響レンタル」「デジフィックス(映像音楽制作)」「ビジュアルロジック(映像と演出要素の統合)」「ライブテクニカル(ハイエンド映像プランニング・オペレーション)」「タケナカオーディオ(音響オペレーション)」「タケナカプロダクツ(映像関連機器製作)」「表彰式.com」「メディアインタラクティブ」。プランナーが演出を考え、プロジェクター・スイッチャーなどの機材を使用し、オペレーターがスイッチングなどのオペレーションをする。イベント演出のほとんどをワンストップで行えるのが魅力だ。
ビームペインティングとは?
ビームペインティングの心臓部coolux社のPandoras Box Media Server。ここから数台のプロジェクターへ映像が送出される
そして、タケナカの演出力・技術力を組み合わせて制作されるプロジェクションマッピングのブランド「ビームペインティング」だ。「ビームペインティング」とはタケナカが商標登録している「3Dプロジェクションマッピング」のブランド名だ(3Dプロジェクションマッピング=建物やオブジェクトなどの凸凹面・曲面に映像を投影しそれを補正する投影方法)。2009年に上海で展開をはじめてから国内外で50以上の事例がある。数多くのマスコミにも取材された大阪・万博公園の太陽の塔で行われた「イルミナイト万博X’mas 2012」。奈良・国立博物館で行われた「ならファンタージア」。東京・ジョイポリスのリニューアルオープンと同時にスタートしたイベントステージで、プロジェクションマッピングを使用したライブエンターテイメントショーのテクニカル部分を担当。
太陽の塔
ならファンタージア
東京ジョイポリス
今でこそ数多くのプロジェクションマッピングを手がけているタケナカだが、ここまでたどり着くには紆余曲折があったと専務・長崎氏はいう。
専務取締役 長崎 英樹氏
長崎氏:ジオメトリ補正機を見つけたときに、我が社はコンテンツとハードをやっている数少ない会社なので、うちにぴったりじゃないかと思い、購入しました。当時は、ビデオマッピングと言えばいいのかプロジェクションマッピングと言えばいいのかという議論を社内でしていましたが、ビームペインティングという名前で登録して、独自ブランドとしてやっていこうじゃないかということになりました。
初めてお客様からお金をいただいたのは2009年1月の上海の事例です。当時のプロジェクションマッピングは、今ほど事例の数はなかったですが、屋内でも屋外でも使えるソリューションとわかっていますし、ビームペインティングを知らしめるのは外でやるのがいいだろうということで、日本と、中国(子会社があるので)でやったのですが、屋外でこういうことができますよというプロモーションをしました。日本でも受けは良かったですが、規制が多く、できているという事例もなかったので、クライアントがやりたいと思ってもなかなかできなかった。中国はすごく早かった。上海六百という百貨店で、対象は、幅20m高さ15mでした。高輝度プロジェクター4台で投影しました。
上海事例動画
その後の上海での事例を担当したのはタケナカでクリエイティブディレクターをつとめる谷田光晴氏だ。
営業本部 営業企画部 海外戦略チーム クリエイティブディレクター・メディアプランナー 谷田 光晴氏
谷田氏:ようやく決まったのが、上海で世界的生命保険会社のPRでした。3週間という即席でクリエイティブ部分を仕上げて、現地で機材を集めて実施しました。その後、キヤノン、フォルクスワーゲン、イケアだったり色々なものが決まりだして、プロジェクションマッピングっていうのがあるらしいという日本国内では声がどんどん聞かれるようになって、日本には逆輸入のようなPRが起爆剤になりました。海外での実績が数々あるということが信頼の担保として、代理店の皆様から仕事をいただくようになりました。台湾の広告賞に入選させて頂いたことで、それも起爆剤になりました。
ビームペインティングのこだわり
プロジェクションマッピングではなく、あくまでも「ビームペインティング」にこだわるタケナカ。技術担当者の山田氏にこだわりを聞いた。
技術部 チーフ 山田 浩徳氏
山田氏:大きくは「明るさ」と「マッピング方法」の2つです。「明るさ」はできるだけ明るく投影することにこだわっています。投影する映像があたかもそこに存在するように見えないと意味がありません。暗いと元の建物がうっすら見えたりして興ざめしてしまいます。大きいものに映すとき、プロジェクター1台だとやはり限度があります。なので、台数を増やし、例えば4Kのコンテンツを映す場合、4Kプロジェクター1台でなく、4台のHDプロジェクターをブレンディングして投影するんです。それで映像が暗ければさらに4台追加しスタッキング(映像を重ねて)して輝度を上げます。明るく投影する技術は実は元々タケナカで様々なイベントで培われてきたノウハウだったりします。レンタル業をやっているのでプロジェクターは数多く保有しています(笑)。そういった機材力がほかと違うかもしれません。
そして、マッピング方法が違います。3Dという概念が重要なんです。何が3Dなのかというと、マッピングにあたって、3Dを扱うということは投影対象が回転しても、その対象の裏側にも映像があります。それを2Dで表現しようとすると、コンテンツをまわしたものを作成しなければならないのですが、ビームペインティングは3D映像をセンサーを使って、リアルタイムでレンダリングして投影しています。そうすると例えば回っている自動車にも完璧に歪み無く映像を投影できるんです。止まっているものに対しても丸みを3Dで算出する手法は、今多く他社から出て来ている2Dをそのまま映す事例よりは、歪みや破綻が少ないんです。だから高品質のマッピングが実現できます。元々、社内で培ってきたテクニカルと、新しいテクノロジー、そこにそれらと連携できるクリエイティブが合わさって初めて完成するのが高品質プロジェクションマッピングで、僕たちの「ビームペインティング」なんです。
すべての力を一つにまとめる力
スイッチングされた高画質の映像は高輝度プロジェクターでスクリーンに映し出される
タケナカの長所は機材力・技術力・コンテンツ力がすべて社内にあり、そしてそれを一つにまとめる力があるところだと思う。ビームペインティングが生まれ、成功した背景にはそのまとめる力が大きく働いている。タケナカでまとめる部分を担っている1人が谷田氏だ。
谷田氏:基本的には、演出とかテクニカルとかクリエイターとか色々分けたがるじゃないですか?僕はこれからは、分かれる時代ではなく、どんどん一人の存在に役割が集約されていくと思っているんです。僕らが普段やってることを、僕ら以外の人たちが知ってくれれば面白いことが出来るんじゃないかって思ってくれると信じています。これからは役割とか、ジャンルの枠を飛び越えていく人間が必要じゃないのかなって思うんですよね。僕たちが照明装置やその他の機器のトリガーを打ち出せるようになっているのは、それぞれの領域を奪おうとしてるわけでなく、効果的な演出を実現するためにプロトコルの認識を深めているだけであって、面白いことをしたいからやってるということが根本にあるんです。僕たちは照明の演出も考えるし、映像じゃなくてもいいと思ったりすることもあります。そんな僕たちは、クライアントからすると、楽しいことを知っている人達みたいな感じで捉えてもらえてきていると感じています。
様々な思いと力が合わさり生まれる映像の新しい形。今後、ワンストップの力を持った会社やチームが新しい表現の場を切り開いていくのだろうか。
株式会社 タケナカ
http://www.takenaka-co.co.jp/
ビームペインティング
http://beampainting.com/