現実味を帯びた4Kの行方

今回から上映館とそのシステムの問題点を洗いだそうと思っていたのだが、ここにきてスーパーハイビジョン、4Kの動きが出てきたので注目してみたいと思う。このコラムでも何度か書いたように、ハイビジョンへの転換期はチャンスとして活かしきれず、後手後手の対応になってしまったという反省をしつつ、この新しい技術を映像文化の潤いへと繋げる為の用意がそろそろ必要になってきたのではないかと考えたからだ。

しかし価格が下がって来たとは言え、ほんの2年前に買ったハイビジョンテレビを4Kテレビに買い替える人がそうそういるとは思えない。4K作品を作ったところで”どうやって見る?”というアウトプットが見えない状態だったので私自身興味を持ってもいなかったが、ここへ来てちょっと状況が変わって、少なくとも上映館に於いては4K放映への転換が現実味をおびてきた。

そう感じさせる理由のひとつは4K再生機器の発売(発表)だ。すでに我がPRONEWSでも報告されているがREDが再生機としてREDRAYなるものを1750ドル(先行予約時は1450ドル)という予想をはるかに下回る価格で発売する。

また、パソコンは必要だがBlackmagic Designからも再生用のインターフェイスが10万円台前半ですでに発売されている。加えて4Kプロジェクターも各社100万円前後という価格にまで下がっている。

こうなってくると家庭では無理であってもちょっとした商業施設であれば充分可能性を感じる投資だろう。更に興味深いのは今年2月に発表され年末にも発売が予定されているSONY PlayStation 4の動向だ。これは噂の範囲内ではあるが、そのスペックを見る限り4K映像を再生するには充分なレベルだ。ハイビジョンへの転換期にもPlayStation3が有能で最も低価格なBlu-rayディスクプレーヤーであった事は記憶に新しいが、今度もタイミング的に4K時代の幕開けを飾る事になるかもしれない。

もちろんゲーム機としては10万円を大きく割り込んでくる事も期待される。今までの感覚では映画館を4Kにする為には1000万円を軽く越えるシステムが必要だろうと考えていた。もちろん、大きな映画館でPlayStationが使われるとは思えないが、プチシネ的上映館では民生用のブルーレイプレーヤーやHDVデッキ等を使用している所は多々ある。もしもの時の為に予備の再生機を用意したとしても、一桁違う感覚で4K上映館はできてしまう。いや、そうなってもらわないと困る。すでに中国製であれば55インチで20万以下の4Kテレビも発売されている

一部の人であろうとも、家で4Kを見ている人に対して、上映館の大きなスクリーンで2K映像を見せよう等とは考えてはいけないことだ。現在でも子供の運動会をハイビジョンカメラでお父さんが撮ったのを見た後で、オフィシャルとして制作されたSDのDVDを見せるという恥ずかしい状況があるが、そういった事が起こらないように制作、供給側として先手を打っていかなければならない苦しい時代がやってくるのだ。

気になる4Kの供給方法とは?

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さて、そうなってくると供給方法が気になる。今から4K映像が再生できるスーパーBlu-rayのようなディスクが出てくるとは考えられず、仮に出て来たとしても普及は難しいだろう。再生専用のUSBメモリーやSDカードなら価格的にも折り合いがつくかもしれないが、やはり現実的にはオンラインでの配信だろう。そうなってくるとファイルの再生フォーマットが問題になってくるが、例えば前述のREDRAYではRED独自のフォーマットに変換する必要がある。PlayStationの事はまだ分からない。

他にもまだいろいろな独自フォーマットが今後出てくる可能性はあるが、Blu-ray対HD-DVDのような一騎打ちになり、負けた方が消えるという事はなさそうだ。仮に後発で優れたフォーマットが出現したとしても、マスターを変換し直してサーバーに上げればいいのでコストはさほどかからないだろう。私個人としてはここで言い続けているように、製品となるメディアが欲しいところだが、これは一つのオンライン配信のメリットでもある。

また、一般ユーザーはこのフォーマットをあまり意識しなくてもいいだろうから、ひょっとするとBlu-rayなんかよりスムーズに普及する事になるかもしれない。ただプチシネ作品を上映会で流すにはどうすればいいのだろう?いずれにしてもしばらくは注意して見守る必要がある。

例えば前述のREDRAYであるが、とある新進企業がREDRAY専用の配信サーバーを立ち上げるという。それに際してインディームービーを100本集めるという事なので、早速問い合わせてみた。そうするとすぐに”あなたの作品を100本の内の1本として招待(Invite)します。”という嬉しい知らせが届いたのだが、英語と格闘しながら注意深く読んでみると、私のチャンネル開設に約50,000円、一作品につき毎月約5,000円のストレージ費用が要るという。もちろんそこから有料コンテンツとして配信する事も可能だが、できれば無料にしてほしい。などと書かれていた。新しい配信システムができる時には必ずこういった手合いのふざけた商売を企む奴がいる。YouTubeやVimeoならともかく、まだ立ち上がってもいない無名の配信サーバーにそんなお金を支払うギャンブルはできない。

何よりクリエイターと視聴者の両面からお金を吸い上げようとする根性が気に入らない。今までもそうだったように、これからもこの手合いの業者はどんどん出てくるだろうし、ひょっとするとそれが当たり前の世の中になってしまうのかもしれない。だが、そういう奴らがクリエイターの首を絞め、映像文化に冷や水を浴びせる事になっている以上、決して許す事ができない。皆さんも注意して頂きたい。そう考えていくとSONY PlayStationが俄然魅力的に思えてくる。ゲームが主体ではあるが、すでにコンテンツの配給システムは確立されていて、そこに4K映像作品が並ぶというのもそんなに難しい事だとは思えない。無料コンテンツもあるが、基本は有料だという意識も出来上がっているように思う。仮にYouTubeが有料コンテンツを販売し始めるのとは印象が大きく違うだろう。まぁ、PlayStationに関しては、全てが空想なのだが。

少なくとも4Kによって映像の世界はこれからの1~2年で大きく変わっていくだろう。その流れにクリエイターや上映館もついて行かなくてはいけない。撮影機器としてはすでに使われ始めているが、特に日本国内では最終的に2Kの作品を作る為のツールとしてしか使われていないケースが目立つ。また、スポーツ放送等では、引きで撮っておいて何かあったら拡大できるようにといった用途も行われているようだ。4Kの作品を作るという事は、そういう事ではない。ここ暫く各社の4Kデモ映像を見る事が多いが、少なくともSDからHDになった時のような感動は感じない。

作り手としてはこの高精細を新たな表現として使えるように、何かをしなければいけないと感じているが、例えばSONY NEX-FS700とHXR-IFR5というレコーダーを使った低価格システムでも、現在の2Kでのロケと変わらないやり方でやろうとすると、ざっと200万円の出資が必要になる。(記録メディアや専用リグ等も含む)驚くほどの低価格ではあるが、やはりまだ敷居が高い。ただ、時代や技術がそうなったから仕方なく4Kにしようというのではなく、できれば一般視聴者が”その作品”を見たいから4Kにしたくなるような、そういう作品作りをしていきたいと思う。それをいつ、どのような形でやるのか見極めるためにも、少なくとも4Kの成り行きは真剣に見守らなければならない。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。