シンプルに作品とオーディエンスを繋ぐのは新しいやり方で

「…という事で、これはお預かりしても仕方ないので」と、持参した作品と資料は封筒に入ったまま、中も見られずに突き返されてしまった。映画の上映、配給、そして映像文化の発展支援までも謳った会社の担当者だ。「せめて作品くらいは見てもいいだろ」と、侮辱されたような気持ちで帰って来た。あ、まずは読者の皆さんに一月お休みさせて頂いた事をお詫びします。実は前回の後も配給や上映関係の方々数人とお話させてもらっていたのですが、もう記事にするのも嫌になるようなくだらない話しか聞けず…。大変申し訳ありませんでした。

どうやら映画館での上映という世界は完全に出来上がっていて、何かを変えてみようという考えを持った人はいないかもしれない。まぁ、施設の規模や経済的な事を考えると頷けない事もないのだが、今のままではよっぽどのスポンサーがいるか、経済を無視できる学生映画でもない限り、劇場公開のチャンスは極めて少ないと言わざるを得ない。いや、全ての関係者に会ったわけではない。もし、新しいシステムで配給や上映を考えている人がいるのなら、是非お会いして話がしたいものだ。私自身、現在ライヴハウスやギャラリー等、映画館以外での上映イベントを模索中ではあるが、こちらの方は会う人会う人、映像を絡めたイベント企画に非常に前向きだ。以前お話ししたハイビジョンプロジェクターの低価格化が進む中、プチシネは独自の方法でオーディエンスに届ける方法を考えた方がいいかもしれない。今回は順当(?)にインターネット配信に目を向けようと思う。なかなかクリエイターにとってフェアな条件で配信してくれるところがなく、疑いの目を向けられている配信の世界だが、一つ大きな期待が持てるサイトを見つけたので早速担当者にお会いしてお話を伺った。今回はそのインタビューを中心に書いていこうと思う。

作家目線に立った配信サイト『LOAD SHOW』

PTC47_01.jpg

『LOAD SHOW』のHP

今回お話しを伺ったのはインディーズムービーを中心に有料配信するサイト『LOAD SHOW』を運営する株式会社Sunbornのプランニングディレクター、岡本英之氏だ。ご自身も社長もミュージシャンというところから、このサイトの立ち上げには少し変わった発想があったという。

岡本氏:元々は自分たちの音楽を独自のチャンネルで配信しようと考えたのですが、音楽に関しては既にその環境は整っており、正直言って、やる事がなかったんです。そんな中、仲間の映像作家と話していると、映像作品に関してはまだ(配信サイトが)充実していないという事だったのでこのサイトを始めました。もちろん収益性も考えて行く行くはメジャーな映画の配信も考えていない訳ではないですが、いずれにしてもiTunes Storeのような巨大サイトは目指しておらず、ある種のセレクトショップ的な存在になれればいいと考えています。その分、作家にとってダイレクトでシンプルな手続きで活用してもらえるように考えています。

さすがにご自身がクリエイターなだけあって、よく解ってらっしゃる。確かに巨大なサイトを利用すれば格好もいいし、ひょっとしたらビッグセールスに繋がるかもしれないという期待も持てる。しかしその分、レギュレーションや契約は難しくなり、さらにそれが英語であればとたんに疑心暗鬼になってしまう物だ。また、著作権を含め、あらゆる権利を拘束するものではなく、他のサイトでの配信やDVD等の販売も自由に行えるため、少なくともこのサイトを利用する事で可能性を阻害する要素は見つからない。

観客と作家とのダイレクト感を作りたい

PTC47_00.jpg

株式会社Sunbornのプランニングディレクター 岡本英之氏

岡本氏:巨大になれば何らかの中間業者のようなものが入ってくる。我々は作家さん達と直接繋がる事を非常に意識しています。まだ、これから着手するところなんですが、SNS等を利用してサイトと作家だけに留まらず、観客と作家がダイレクトに繋がれるような環境も考えています。そうなれば観客自身が意見を言ったり、結果的にはキュレーターの役目をしてくれたりする事にもなり、そんな言葉がダイレクトに作家にも届くようなにもなります。我々は端的に言うと作家主義といいましょうか、あるミュージシャンが作った音楽という事で作品に興味を持っていただくように、映画も作家のプロフィールや考え方が直接見えた上でその人の作品に出会うという事を強く意識しています。

『LOAD SHOW』の大きな特徴として、サイトのかなり優先的なポジションで作家一覧が出て来る。そこからプロフィールへ、そして作品へと辿っていける仕組みになっているのだ。

岡本氏:ここに掲載されている作家さん達は我々社内のディレクターが直接お会いして紹介させていただきたいと思った方々です。言うなれば我々の好みですね(笑)。そういう意味では我々がキュレーターという事になるんですが、それだけではやはり限界があります。今後は外部の方にキュレーターになって作品を推薦していただく事もあり得ますが、それだけではなく今一般公募も始めたところです。『LOAD SHOW』を一つの箱、ツールとして使って頂いて配信に利用していただければいいと考えていて、そちらの方はルールを守って頂ければ作品についてオーディションをするとかはないです。そんな中から多くの観客に支持され、我々が特に気に入った作品が出てくればお勧め枠として紹介していくつもりですが、基本的には作品を売って行くという業務はありません。そこはD.I.Y.(Do it yourself)の精神で、皆さん自分でやっていって頂きたいと思っています。ですから視聴料もある程度のガイドラインはありますが、皆さんご自分で決めて頂いています。

PTC47_02.jpg

『LOAD SHOW』で作品を配信している作家の方々

後は作家側のプロモーション意識が必要という事だ。これは私も大賛成。作り手も作るだけではなくその後の意識を変えなければいけないという事で、それはみんなが変わろうというこのコラムのテーマには欠かせないことだ。ただこのサイトの魅力はそのチャンスを与えてくれるというところだろう。チャンスという意味では『LOAD SHOW』には大きな魅力のあるサービスがある。それが海外向けの販売だ。英語のページもすでに完成されていて、販売実績もあるという。支払いもPayPalを通じて行われており、確実に作家側にも収益が確保される。更に『LOAD SHOW』が認めた作品に関しては無料で字幕を付けるサービスも行っているというから驚きだ。

インディーズであるからこそ可能性は世界へ向ける

PTC47_03.jpg

岡本氏:これはサイトを始めた時から考えていた事なんですが、インディーズムービーがいきなりバカ売れするという事はそうそう考えられず、ただ、世界という事を意識するとあらゆる可能性が出て来る訳です。今はインターネットを利用してある程度のプロモーションをかける事もできるし、海外の映画祭に積極的に出しておられる方もいらっしゃる。そういう繋がりで我々も延びていけるし、どこで誰が観てくれているかわからないという可能性が良いですよね。一般公募と同時にコンペも計画していますが、それをやる事によって我々も未知の作品と出会えるし、その中から字幕を付けて世界に発信していける作品を見つけたいとも思っています。

最後に具体的な配信方法だが、H.264、720pでのダウンロードで行っているという。

岡本氏:但しDRMという物はかけていません。それは音楽でもそうでしたが、その為に莫大なコストをかけても無駄だという事はすでにわかっていることですから、今は一人でも多くの人に観て頂く事と、コストを最小限にするという事を優先させるべきだと思っています。

お話しを伺っていてあらゆる点でアーティストの事を理解し、その目線に立って進められてと感じる事ができた。そういう意味ではアーティストとオーディエンスの間に入って利益と権威を得ようとする業者とはまったく違う印象だった。ただ、それだけに収益の健全化を確立させる為には作り手も頑張らなければいけないと思う。こういう動きにただ乗っかるだけではなく、オーディエンスも含めて一体となって文化を作って行く意識が必要だと思う。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。