来月はInterBEE2013開催

映像機器業界は、11月開催のInterBEEへ向かって突進中というこの時期。筆者も周囲の方々から頻繁に「今回のInterBEEの目玉って何ですか?」とか「いま何に注目しておくべきでしょうか?」などの質問を受ける事が多くなる時期でもある。正直、毎年フタを開けてみるまではなんとも言えないのがこの手の技術製品展示会の醍醐味であり、だからこそ実際に行ってみてその目で確かめてみる必要があるのだと思う。現時点では何が目玉なのかは全く予想がつかず、また今のところは目に見えている大きな製品発表という情報もないこともあり、先述の質問の回答には「開会式のテープカットが一番の見せ場(笑)!」と答えているのが現状である。

冗談はさておき、9月に見事2020年の東京オリンピック開催招致を射止めた状況下において、特にテレビ業界にとっては4K、そして8Kという更なる高解像度化への進展は本格化を極めており、放送局や制作関係者はいよいよ他人事では無くなった。いまや4K/8Kというキーワードは、この日本ではすでに映画の世界の話ではなく、次世代テレビフォーマットのキーワードとして捉えられている趣きが強くなっている。実際にもキー局を始め、放送関係者の間でも真剣に4K/8K制作を見据えた、4K/8K技術への学習姿勢が随所で窺える。しかし現実問題として、CMや4Kカメラのライブ中継のみならともかく、ちゃんとした番組制作となると4Kで1時間もののドラマを制作することは、撮影できる状況はすでにあるものの、制作、上映、放送、配信までを行う、いわゆる4Kでコンテンツを成立させるといった部分では、まだまだ人的、技術的、設備的スペックにおいて、どれもほど遠いものというのが現状だ。

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NABの参考展示で登場したパナソニックの4Kハンドヘルドカメラ。InterBEEではいよいよ実機も出るのか?

先のCEATECでは、家電製品も軒並み4K対応製品を出展していたが、ブロードキャストにおいては、各家庭への橋渡しとなる肝心の中間技術はまだまだ途上にある。InterBEEを目前にして、4K/8K映像制作における技術として、今後何を見るべきなのか?またいま何に注目すべきかを、あくまで筆者の独断と偏見で気になるポイントを挙げてみたい。

HFR(ハイフレームレート)

解像度アップしてピクセル数を増量することだけが画質の決め手ではない。今年9月にオランダで開催されたIBC2013でも物議を醸し出したとされるOVER 4Kのフレームレート論争。筆者は今回会場に行けなかったのだが、IBCにおけるEBU(ヨーロッパ放送連合)のブースにおけるBBCなどの技術展示やカンファレンス等では、このHFRのデモンストレーションがかなり大きな話題になったらしい。そもそも単に解像度のみを上げるだけで4K放送が実現することはあり得ないわけで、個人的にも最近最も注目すべき技術ポイントとして、実はこの動的高解像度=HFRの問題に大いに注目していた。

すでに合意済とされているULTRA HDTVにおけるフレームレート=120pMAXではあるが、これがある意味このIBCで白紙撤回されるとなれば、日本の放送関係者にとっては寝耳に水であろう。実際にIBC2013会場のEBUブースでは、100p、150p、300pなどのフレームレートがデモンストレーションされ、具体的にはフレームレートとシャッター開角度や開口時間との組み合わせもあるようだが、これらのHFRであれば、これまで以上に撮像ボケや人間の網膜における残像効果などがかなり抑制されるという効果が見られたという。一度定義された120pというのが再定義されることになれば、そこは制作機メーカーにとっても受像機側のメーカーにとっても非常に大きな問題となってくるだろう。

そもそも4K解像度が本当にテレビに必要か?という点では筆者もいまだ疑問の念が強いのだが、実はこのフレームレートの問題の再定義は、高解像度化に向けた放送分野の今後の活路を脅かしかねない重要な問題なのである。現行でもすでにメーカー側は放送に関するフレームレートを120pどころか60pで設定したいという要望が強いようだが、100p、150p、そして300pで4K、もしくは8Kの本質的な高品質映像が実現できるとなれば、制作者も視聴者もHFR規制のある放送よりも規制の無いネット環境を選ぶことは必至のように思える。4Kを制するのはネットか放送か?ここも論議が別れる所だ。

この問題に直接関係ないかもしれないが、個人的に4Kの実質的ソリューションとして有益なのがパナソニックの4K対応タブレット端末「TOUGHPAD 4K」に代表される4Kモバイルデバイスである。こうした機材との親和性こそが、本当の意味での4K映像活用=フレキシブル4Kの世界を実現してくれるのではないかと期待している。

数値依存の解像度からの脱却

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常に先端映像を手がけるアストロデザイン。NABでモックアップ展示された8K/60pカメラがどこまで進化もみせているのかも楽しみだ

Rec.709というHDTV用の色域が使われている現在において、3840×2160(4K)もしくは7680×4320(8K)のULTRA HD TVではRec.2020というさらに広域な色範囲が採用される。それはそれでいいのだが、しかし実際に1ピクセルに収められる色の情報量は、現行では4:2:2のカメラが捉える信号がほとんどだったりするので、元々色情報が全く足りていない状態のデータを、単に再生時の色域を拡げたところで、元から無いものは無いのである。RAW収録も含むRGB4:4:4収録カメラに関する開発とワイドダイナミックレンジの問題は、昨今のデジタルシネマカメラの登場によってようやく取り沙汰されてきたが、実際問題として、本来の意味での4K収録として使えるカメラの性能と、それを認識できるカメラマンなど人間側のスキルが、4K本来の色域表現に達していないのであれば、色範囲を広く設定したところで、果たして意味があるのだろうか?甚だ疑問である。

昨年のInterBEEではあくまで個人的主観だが、明らかにコンテンツとモニターキャリブレートされていないような、あまりにも醜くくチープな4K映像を平気で流していたブースも実は多く見られた。単に解像度の数値だけを追うと、このような盲目的チープ4Kの追求ということになってしまうのではないか?ここで少し俯瞰的に4K/8Kの高解像度を落ち着いて見るべきだと考えるのだが…。

次世代インターフェースの進化

4K制作の現場で運用出来るシリアルインターフェースはこれからの制作者にとって一番のポイント。それを担う次世代インターフェースとして、これは今年9月のIFA2013での発表だが、最大で18Gbpsまでの伝送能力を持ち、4K/60pに対応するとされる「HDMI 2.0」が発表されている。またAJAの「4K2HD」などのアイディア製品、ブラックマジックデザインの6G-SDI対応ミニコンバーターなど、6G-SDI対応製品の進展なども、まだ時期早尚とは思えるが期待したい所だ。

2D→3D

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4Kに関して人一倍熱心なソニー。今年は具体的な4Kコンテンツを披露するようで、その実力が試されそうだ

4K/8Kの影にすっかり身を潜めてしまった3D。筆者が2006年にデジタルプロジェクション時代のステレオスコピック3D(S3D)取材のために米LAの3D専門メーカーRealD社に訪れた際に、これからトレンドになるであろうステレオ3D映画の幾つかのサンプル上映を観させて頂いた。最新のS3D映画作品やアニメーションなど興味深いものばかりだったが、その中でももっとも心惹かれて気になったのは、ジーン・ケリー主演のあの名作「雨に唄えば」の3D映像だった。これはあくまで社内的な2D→3D変換の実験映像なので一般に公開される事はないものだったが、まさにそれは見たことがあるようで初めて見る映像。得も知れない体験であったことに違いない。そしてこれこそがある意味でこれからのデジタルプロジェクションにおける3Dの重要な意味を持つであろうと直感した。その後、やはりLAで「タイタニック3D」を観たのだが、そのことも今後のS3D映像を語る上でも大きな経験となっている。

あれから7年、世界ではいま、不朽の名作を2Dから3Dへと変換するムーブメントが、実は密かに沸き起ころうとしているようだ。IBCの会場ではこの2D→3D変換作品として「トップガン3D」が上映、会場も多いに沸いたという。JVCケンウッドの3Dイメージプロセッサー「IF-2D3D1」など、すでに2Dから3Dへの変換技術製品は色々と確立されているので、今後その技術を使った2D→3D変換の作品が出て来るのか?80年代、90年代の作品もさることながら、ヒッチコックやチャップリンなどの名作も3D化されることで、また新たな魅力が見いだされるのではないと個人的には期待している(日本では映画館視聴の文化自体が廃れ始めているので、難しいかもしれないが…)。 GK09_5.jpg

4Kに入る前に肝心要の解像感を決めるレンズ。今年のNABで最も秀逸と感じたキヤノンの4K対応レンズの光学実験の個別シアター展示。こういうのこそ日本で行って欲しい展示だ

とまあ、気になるテクノロジートレンドの話を色々と上げてみたのだが、インターフェース以外はあまりInterBEEの展示会場に直接並ぶような物でもなく、InterBEE2013のガイドには参考にならないのでその点はお間違え無く。個々でまたこうしたInterBEEへのテーマを整理してみてから、会場に出かけてみるのもまた一興だ。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。