The Angel Film Awardsモナコ国際映画祭へ参加してきた。昨年、4つも賞を頂いた「彩〜aja」に続いて、今年は書道家鈴木宥仁(すずきゆうじん)と制作したショートフィルム「艶〜Color of love」で二年連続の入選となり、有り難い事に今年も「最優秀アートフィルム賞」を頂きました。この作品は全編SONY NEX-FS700で撮影した物で、随所に本機の強みである美しいスローモーションが活かされている。そんな事もあって、来る1月29日(水)にソニー品川本社内のシアターにて、上映&セミナーを開いて頂ける事になった。詳しくはソニーのホームページを見てほしい。ぜひ足を運んで頂きたいと思う。

それでも続ける重要性

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いや、それにしても今年のモナコはレベルが高かった。日本の有名なショートショートとは比べ物にならない位に規模の小さい映画祭ではある。しかしこの作品のクオリティの高さは何なのだろう。少なくとも学生の課題制作レベルの作品は皆無だし、審査基準も同じではないので一概に優劣はつけられないが、一つ一つの作品に重みがある。

これは以前にも書いたのだが、そもそも参加者の年齢層が日本よりもずっと高くて、学生とおぼしきクリエイターは2人しかいなかった。何も学生にはいい作品が作れないというつもりはないが、この違いはどうも気になる。向こうに若い人がいないという事よりもこちらにプロやベテランがいないという事が残念でならないのだ。映画を作るという事が職業にならなかったら続ける価値がないということなのか?

例えば職業的に成功を収め、贅沢な趣味として音楽や写真を再開するといった例はよく耳にするが、映画を作り始めたという話はあまり聞かない。いや、音楽や写真だって再開ではなくずっと続けていてもらいたい物なのだが、映画となると更に続ける事が難しいのだろう。難しいからやらないと言うのなら昔と今は違うぞ。そりゃ努力は相変わらず必要だが、いつも言うようにカメラの表現力や価格は格段に我々に味方してくれているはずだ。ましてやプロとして収益の事を考えなくてもいいならショートムービーでもいいじゃないか。そんな事は分かっているはずなのだが写真や音楽のように趣味にすらならないというのは悲しい限りだ。

このコラムでいろんな方にお話を伺ったり、また、今回のようにヨーロッパの映画関係者と話す機会に恵まれたりした中で一つ大きな事に気がついた。ずばり言ってしまうとヨーロッパでは映画が文化、芸術として存在しているのに対して、日本やアメリカでは産業でしかないのではないか。正確に言うとさすがにアメリカではその裾野の広さから文化、芸術としての映画もあるのだが、日本ではそのフィールドがあまりに小さい。そして日本人の産業至上主義も相まって、金を生まない映画は何の意味もないという風潮が強くあり、職業じゃなくても作り続けようという人があまりに少ないのではないか。そしてそれは映画祭という文化事業の中で評価を受けたとしても産業としては何の意味もないという事の答えでもある。産業としての映画の広告材料となる事はあっても、その逆はまずないだろう。

今回私が頂いた「最優秀アートフィルム賞」という賞は正に象徴的で、おそらく日本国内での産業としての映画としては何の役にも立たないだろう。むしろ広告業界で時々必要となるアートフィルムの世界の方が敏感に反応してくれていて、既に幾つかのオファーを頂いている。ただし、これはあくまで広告であって、アート作品としてスポンサードされた訳ではない。2013年はアート作品を持って映画産業の世界を歩き回ってこてんぱんにやられた感があるが、今思えば当たり前の事だと思う。もちろん繋がる可能性がない訳ではないが、まずは畑を耕すこと。作品が数多く生まれる環境がなくてはいい作品は生まれない。そのフィールドを豊かにするのにいきなり映画産業の人たちと一緒にやろうというのは無理があるように思えるし、まずはクリエイターとそれを取り巻くオーディエンスで魅力ある世界を作り上げなくてはいけないのかもしれない。

ユダヤ系ロシア人、コスタ・ファン監督に想う

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コスタ・ファン監督

レベルの高いモナコ国際映画祭の短編部門で6部門の賞をかっさらった素晴らしい作品があった。ユダヤ系ロシア人、コスタ・ファン監督の「SHOES」という作品だ。一人の女性が赤い靴を買う所から、出会い、結婚、家族、戦争、収容所、虐殺、終末といった物語を足下と足取り、そして素晴らしい音楽だけで表現した作品。これにはたまげた。映像の美しさ、絶妙で斬新なカメラワーク、どれをとってもずば抜けている。さぞお金がかかっているのだろうなと思い、その辺りの事をコスタ・ファン自身に聞いてみたが、なんと自腹の自主制作だと言う。ただし、ユダヤ人ホロコーストがテーマの映画だけに、大きな支援と献身があったという。

モナコ終了後、帰国した彼をテレビ局やマスコミがこぞって取材し、メディアに露出させている。この辺りが文化意識の高い証拠で、実は去年「彩」で4賞を獲得した私を取材した国内のマスコミはお世話になっているビデオSALON以外にはなく、たった一つ、ロシアのイタルタス通信社から取材を受けたが、それもその年賞を一つとったロシア人監督からの情報で私のところまで話が飛んで来たのだ。日本の映画産業にとって映画祭が取り上げられるのはあくまで有名人のニュースとしてで、映画祭そのものには何の意味もないのだろう。とはいえ、このコスタ・ファン監督もこれをきっかけにハリウッドへの進出を考えているという。これに関してはアメリカ嫌いの私としては映画祭期間中、随分議論したのだが、やはりハリウッドの持つ世界マーケットと資本には惹かれるらしい。

逆に私はこれからのロシアに非常に興味を持っている。文化的にも水準は高く、ヨーロッパにも近い。なにより経済的にも上向きで、かといって中国のように病的な物ではなく、静かに目立たず、そして外へ向いての経済活動も活発だ。実は「SHOES」のプロデューサーとも話をしており、私の作品には非常に興味を持ってくれているようで、この際私のエージェントになってくれないかと話をしているところだ。とんでもないような話だが、彼にとってはさほど驚く話でもないらしい。やはり、島国日本の感覚とは根本的に違うようだ。

2013年はモナコ国際映画祭で二年連続の受賞という花のある形で締めくくった感があるが、実は自分の作品は作っていない。映画産業との空気の違いにモチベーションを無くし、先が見えないまま撮っても仕方が無いという気持ちだった。だが今年はまた原点に戻り、自分の作品、劇映画をまずは撮ろうと考えている。そういう意味ではモナコも無駄ではなかったし、コスタ・ファン監督との出会いも刺激を与えてくれた。正直、日本の映画文化はひどいものだと感じているが、その中の一クリエイターとしては磨き続け、作り続けるしかないのだろうという意識だ。この二年の受賞作に関しては3月か4月に自分で上映会をすることに決めた。それで区切りをつけて、次へ進もうと思う。クリエイター仲間の皆さん、応援してくれているオーディエンスの皆さん、今年もよろしくお願いします。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。