モナコ国際映画祭で二年連続の受賞となった「彩~aja」「艶~The color of love」の二本の上映が決まった。

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【東京】
9月11日(木)~15日(月・祝)16:00 / 19:00
原宿・CAPSULE(カプセル)

【京都】
9月20日(土)~23日(火・祝)11:00
木屋町・立誠シネマプロジェクト

※全回トークショーあり


どちらも30席ほどの超ミニシアターといったところだが、それぞれ独自の運営をしており、プチシネの自主上映には魅力的な施設だ。まず原宿のCAPSULE(カプセル)だが、元はキネアティックという名前で運営されており、惜しまれつつ閉館してしまった後、現在の形で復活したばかりで、レンタルシアターとして良心的な価格設定を継続してくれている。

キネアティックの時はレンタルだけではなく独自の作品選出で上映も行っていたようだが、そういうある種の「色」が文化発信には必要だと思うので、これからも期待していきたい所だ。というのは、やはり制作側、作品や監督、出演者のお客さんだけに頼るメジャーな感覚だけでは文化は育たず、ひどい時にはファンが多いからという理由だけで芝居もできないアイドルが主役にねじこまれたりしている。そういう状態で上質な映像文化が生まれるはずもなく、かといって、身内だけの上映会では意味がない。できれば上映館の「色」に付くファンがいてほしい。

そこで上映する事が新たなファン獲得のきっかけになるような特別なシアターがあってほしいと思う。単館と呼ばれるもう少し規模の大きな上映館には、その「色」を持っている所もあるように感じたのだが、実際上映をかけあってみるとハードルは非常に高く、配給会社が広告戦略と予算を持ってきて初めて受け付けるといった所がほとんど。後は学生映画のように、元々ある程度のお客さんが見込めるような物でなければ相手にしてくれない。とても文化云々を語れる状況ではないのだ。

素晴らしい運営の立誠シネマプロジェクト

そういう意味では京都の立誠シネマプロジェクトは素晴らしい活動をされている。廃校になった小学校の一室を利用して上映を行っていて、建物自体もとても雰囲気があり、文化の「色」に充たされている。また、上映企画も素晴らしく、ホームページやTwitter等でも積極的に告知を行ってくれて、「立誠シネマプロジェクト」ファンも多く、今関西では大変注目を集めている。

上映プログラムの組み方も考えられており、一日のプログラムの中に入れ替え制ではあるが様々な作品を組み込んである。これは他の作品を観に来たお客さんの目に触れるチャンスであり、中には「せっかく来たのだからこれも観よう」という人もいるかもしれない。これは大きなチャンスだ。これにはスタッフ側の苦労も大変な物だと想像できるが、それをやって頂ける事のありがたさを痛感している。

また、上映方法に関しても素晴らしい。もちろんBlu-rayでの上映も可能なのだが、ここではAJA Ki Proを使ったワンランク上の映像を上映している。今回の上映に際してApple ProRes 422のデータは用意できますか?と聞かれた時には胸が高鳴った。以前、このコラムで紹介したが、私の「艶~The color of love」の上映セミナーに於いてソニー後藤氏の提案でSONY PMW-50+MXF 50Mbpsを用いてハイクオリティーな上映を実現した事があった。そこでもなんとか家庭用を上回るクオリティーを提供しなければならないという気持ちをお話ししたが、メジャー館で採用されているDCP(デジタルシネマパッケージ)には変換するだけでも大変な費用がかかるし、マイナーな上映館ではそれに対応できていない。

立誠シネマプロジェクトのような小さな上映館で、Ki Proのようなレコーダーをプレーヤーとして使い、上質なデータで上映してくれている所がすでにあるという事に驚きと喜びを隠せない。もし、どこかのメーカーがPMW-50やKi Proの半分くらいの価格で、業務用の信頼性を持った再生専用機を売り出してくれたら、ミニシアターや単館のクオリティーは上がり、新たな文化ができるかもしれない。「家で観るよりずっといいね」という声が聞こえる上映をしていかなくてはならない。原宿のCAPSULEでの上映でも何らかの形でそういう上映を試みてみようと考えている。

独自の考え方を持つミニシアター

ミニシアターから始まる文化をお話ししてきて、一つ気になる所を見つけたので紹介しておこうと思う。大阪の「天劇キネマトロン」という所だ。ここのシステムは格安の料金で制作者に場所を提供し、観客からはお金を取らない(一部有料上映も可)というシステムだ。制作者としてはとても複雑な気分ではあるが、「映画は観てもらって初めて映画」という考えからすれば、これも一つの在り方なのかもしれない。こちらのホームページを見ても、そこから口コミで作品が広がってゆく機会を作ろうという気持ちが伝わってくる。

考えてみれば私のミニシアターでの上映もポスターやフライヤーの制作費等を考えると、有料(¥1,500)にしたところで収益があがる事を期待できるものではない。であれば、こういう所を利用させてもらって、まずは知ってもらうというのも一つの考え方かもしれない。いずれにしても制作者や上映側がそれぞれの考え方で、もう一度映画文化を盛り上げようとする動きはとてもいい。さらにその動きにオーディエンスも加わってもらえるように、一つ一つ、そして一体となって頑張っていかなければならないと思う。また、そういう動きが可能になるのはグローバルフォーマットについていくだけで精一杯といった感じの大きな映画館より、自由な発想で運営が可能なミニシアターの方かもしれない。

「千年の糸姫」プロジェクト

前回話をぶちあげた「千年の糸姫」プロジェクト。いきなり話がそれてしまったようにも見えるが、ちゃんと進めていますよ。こちらははじめからチームで進めていく事を目標に、今はいろんな方々とお話しをさせていただいている。プロデューサー候補の方、キャスティングの方、広報の方、もちろん制作スタッフの方、総じて言えるのは新しいやり方でやっていこうという気持ちを持っておられる方々にお会いして、その可能性を話し合っている。

正直、問題だらけなのだが、一応に興味を示して下さっているのがとても嬉しい。それにしてもハリウッドや日本のテレビ局、配給会社や映画館が作り上げた「映画製作の常識」というのは強敵だ。そして夢がない。私は闘っていきたいと思う。そして必ず制作から上映までの筋道の立ったチームでこの映画を作りたいと考えている。できれば次回以降、この話し合いの中でそれぞれの立場の方にとって、どんな事が問題にあがり、どんな事が興味を引いているかをお知らせしていきたいと考えている。期待して下さい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。