台本を持ってまわるプレゼンテーションに思わぬ効能

映画「千年の糸姫」作戦。企画書ではなく台本を持ってまわるプレゼンテーションは思わぬ反応を見せてくれている。よく考えると撮影スタッフ、出演者以外に始まる前から台本を見てもらうという事はとても珍しい事のようだが、実は私はいつでも見せられる台本を絶えず幾つか持っている。

というのも、プチシネレベルで作品を作る時には少なからず出会いとタイミングが必要で、つまりお金有りきで大袈裟にオーディションをやって、それから台本を作り始めるという形ではそうそう作品を生めないからだ。たまたま出会った人と「また何かあったら一緒にやりましょう。」で別れるよりも「実はこんな本があるんですけど、一緒にやりませんか?」という話ができた方が、作品が出来るチャンスはぐっと広がる。現に私はそういう形でいくつものプチシネを、おそらく普通の人よりも数多く作ってきた。

もちろん一気にスタッフやロケ地、出演者が揃う事はないが、そのスタートとして例えば主演が決まっているというのは力強い核になるし、その次の出会いを呼び込む大きなパワーになる。ロケ地の探索にも、より具体性を持って臨めるし、必要な美術や機材のプランも立てやすい。最初の出会いから長い時間がかかる物もあるが、そうやって作品を育む事も、作品性を高める事に繋がる。

そういえば私の初期作品の中には、その始めの出会いが美術家だった事もある。そんな時でも「今度、私の映画の美術をやってくれませんか?」というよりは「こんな作品を考えているんですが、それにこういう美術が必要です。」と切り出した。受け取り側にとってもやるべき事がより具体的なので、自分がやりたい事かどうかをしっかり判断できる。

こういったあらゆる出会いをプチシネ制作のチャンスに繋げるというのが私のやり方だ。今回はその出会いの対象をスタッフや出演者だけではなく、プロデューサーや広告宣伝を担当する人にまで拡げたわけだが、そういう人たちにとって、こんな初期段階で台本を見せられるのは初めてという人も多く、戸惑いもあるようだが、一様に高い熱を持って見てくれている。その中には必ずしもポジティブな熱だけではない、作品に対する疑問や注文も多々あるのだが、これらは作品の細部が分かってしまうこの方法では当然出て来る物で、むしろ歓迎するべきものだと考えている。

例えば「ここでこの人が何でこういう言葉遣いになるのか解らない」という意見が出ると、私もその意味を一生懸命説明する。そうしていく内に私自身の中でも、よりはっきりと作品の意味が浮き彫りになってくる。もちろん私が気付かない見方を発見してくれる人もいるし、それによって台本を書き直す事もある。

つまりは全てがポジティブにはたらく事になる。何にしても熱が高まるという事は素晴らしい事で、たとえその結果、一緒にできないという事になったとしても、お互いの考えている事の理解は深まるし、それはまた別の作品で活きるかもしれない。プチシネといえども、私は作品を深い理解と高い熱を共有して作っていきたい。裏を返せば、だからこそ小さなチームと小さな作品を選んでいるのかもしれない。

新たなテリトリー意識

そんな中、今回の作戦を象徴する、また、私自身の意識の変化をはっきりさせるミーティングを開いた。現場の制作をやっている人と映画の広報をやっている人との三人で同時に会ったのだ。制作はクランクアップまで、広報は作品完成後というのが基本なのだろうが、その二人をまだ何も始まっていない初期段階に来てもらい、最初から最後まで一緒にやってほしいと頼んだ。それぞれやるべき事が解らない、やり方が解らないという戸惑いもあったようだが、既存の職務テリトリーでの既存の方法だけやっていたのでは現在の映画文化はだめになるという共通認識や閉塞感を持っている人だったので話は次第に熱を帯びてきた。

私にしても、「じゃあこれとこれをこういう方法でやって下さい」という具体的なビジョンが固まっているわけではない。新しい事を始めるというのは雲を掴むようなもの。当たり前だ。はっきりしている事は「映画はいい作品を作って、見てもらえるまで」という事だ。それを全員で一貫してやり遂げるという事が大事なのだと思う。

そのミーティングではもちろん「千年の糸姫」の事も話し合ったが、それぞれのスタンスからいろんな意見が飛び交った。それはまさしく「プロの意見」ではあったが、制作から広報、またはその逆といったテリトリーを飛び越えた指摘や共感が出て来て、今までにない中身の濃い話し合いになった。結局、映画を愛するという一つの気持ちで一体感を感じる事ができる素晴らしいミーティングとなり、私はとても嬉しかった。

今回、作品を作る事だけでなく広報から上映といったトータルプロデュースを実現させる為の拡張を目論んでいるのだが、やはりこの一体感や熱は守らなければならない。そういう意味ではプチシネのまま拡大を目指しているのだ。たまたまその時デザインが出来上がりかかっていた「彩」と「艶」の上映ポスターやフライヤーにまで話は及んだ。さすがにプロの広報からは手厳しい意見を頂く事ができ、気がつけば制作の人からもいろんな意見が出て来て、しかしそれは決してアマチュアなものではなく、明らかに映画のプロからの意見であった。

広報にも作品性が活かされるという事、作品の制作にもオーディエンスに届けるという意識が必要だという事。至極当たり前な事のようだが、分業によってその意識が希薄になっている事は否めない。その分業がそれぞれ会社組織になっているようなメジャーなプロジェクトでその枠組みを取っ払う事は難しいが、今、もう一度、プチシネという小さなチームで、制作から上映まで、高い熱と一体感をキープできるチーム作りを目指して頑張っていこうと思う。

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前回もお伝えした「彩」と「艶」の上映会は、結局どこの単館上映館でも相手にされず、一回30人程度の会場で行う事になった、ある意味敗北宣言だ。もちろん、様々なテーマでトークを行う等、魅力的な内容にする事に全力を尽くすつもりではあるが、この結果はしっかり受け止めなければいけない。この敗北があったからこそ、いろんな事が見えて来て、今の、今後の活動に結びついているわけだ。今回のミーティングでポスター等のデザインの話題で盛り上がったことをきっかけに、なんとこの二人がこの上映会にまで手を貸してくれる事になった。

改めて報告はするが、なんと10月にDVDの発売まで決まったのだ。嬉しい事だ。こうなるともう敗北なんて言ってられない。新しい映画文化の出発点にする位の気持ちで臨もうと思う。もちろん二人の意見を取り入れてポスターもフライヤーも作り直した。皆さんにも是非来て頂きたいと心から願っています。

モナコ国際映画祭二年連続受賞作品

「彩~aja」(2012)、「艶~The color of love」(2013)劇場公開のお知らせ

【東京】
9/11(木)-15(月・祝)1回目:16:00、2回目:19:00
@原宿・CAPSULE(カプセル)
http://capsule-theater.jp/

【京都】
9/20(土)-23(火・祝)11:00
@木屋町・立誠シネマプロジェクト
http://risseicinema.com/

※全回、来場トークあり

「彩~aja」(49min.)
2012モナコ国際映画祭
最優秀オリジナルストーリー賞・最優秀撮影監督賞
最優秀オリジナル音楽賞・最優秀新人俳優賞(笠原千尋)
出演:笠原千尋(彩)、猪爪尚紀(蒼)、藤原夏姫(ルイ子)
蒼の絵:天野弓彦 助監督:前田達哉

「艶~The color of love」(19min.)
2013モナコ国際映画祭
最優秀アートフィルム賞
出演:古池千明(天の女)、鈴木宥仁(書家)

【チケットのご予約】

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東京プチ・シネ協会
tokyo_petitcine@yahoo.co.jp


WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。