Autodesk University Japan 2014が行われたお台場のホテル グランパシフィック LE DAIBA
Autodesk University Japan 2014今年も開催!
毎年夏に行われているオートデスクのカンファレンスイベント「Autodesk University Japan 2014」(以下、AU)が今年も8月29日、東京・お台場のホテル グランパシフィック LE DAIBAで行われた。7つの大宴会場と中宴会場をセミナールームにして約30ものセッションや、ホワイエを展示会場にしてさまざまなオートデスク認定パートナーのソリューション展示が行われるというイベントだ。
ホワイエは展示会場になっていてオートデスク認定パートナーのソリューションがずらりと展示されていた
このAUで映像業界が注目したのはメディア&エンターテインメントのトラックで行われるセッションだ。今年のメディア&エンターテインメントのトラックでは、映画「ゼロ・グラビティ」でCGシーケンススーパーバイザーを勤めたスチュアート・ペン氏によるメイキングが2コマ行われた。
また映画「新劇場版『頭文字D』Legend1-覚醒-」でCGを担当したサンジゲンのスタッフによるカーアクションCGメイキング、オートデスクのプロダクトマネージメントディレクターのAutodesk ReCapによるリアリティキャプチャー入門が行われた。その中から「新劇場版『頭文字D』Legend1-覚醒-」のメイキングと展示会場の様子を中心に紹介しよう。
コンセプトはリアルとフィクションや漫画のタッチの実現
写真左からサンジゲンの代表取締役社長 松浦裕暁氏、サンジゲンのCG作画部 チーフアニメーター 石田竜介氏、サンジゲンのCG作画部 アニメーター 居嶋健太郎氏
メディア&エンターテインメントのトラックのセッションで注目のセッションは、“「新劇場版『頭文字D』Legend1-覚醒-」におけるカーアクションCGメイキング”だ。登壇者はサンジゲンの代表取締役社長 松浦裕暁氏、サンジゲンのCG作画部チーフアニメーター石田竜介氏、サンジゲンのCG作画部アニメーター居嶋健太郎氏の3人だ。サンジゲンは、3DCG制作やアニメーション作品の企画・制作を行うプロダクションで、日本のアニメに馴染んだセルタッチのCG制作を特徴としている。
近年の代表作というとテレビアニメを全編CGで制作した「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」だ。キャラが手描き作画のようなタッチで描かれていて、CGで制作されていることがわからないというぐらいのクオリティを実現したことでも話題になった作品だ。今回のセッションのテーマである新劇場版 「頭文字D」では、サンジゲンで車のアクションの制作を担当した。
新劇場版「頭文字D」はリアルなドリフトのシーンが見どころだ ©しげの秀一/講談社・2014 新劇場版「頭文字D」製作委員会
松浦氏が最初に語ったのは新劇場版 「頭文字D」における映像のコンセプトだ。新劇場版 「頭文字D」は、1998年から放送がスタートしたテレビアニメ版「頭文字D」の物語と重複するところもある。CGクリエイティブプロデューサーとして今回の新劇場版 「頭文字D」は何が売りなのか?という映像のプロデュースをしなければいけなかったのも松浦氏のプレッシャーだった。そこで、3つの映像のポイントを設定したということから話を始めた。
松浦氏:最初は2014年夏に頭文字Dをもう一度サンジゲンで再構築するならば、どのような表現にするのか?というコンセプトから考えました。頭の中で描いたのは、リアルとフィクションです。ドリフト走行のかっこよさで勝敗を決めるD1グランプリというのをご存知ですか?
そのD1グランプリのレースと過去の頭文字D時代のドリフトではちょっと違って、今のドリフトというのは見せるドリフトです。派手に煙をどれだけ出すとか、スピード、ドリフトで入る角度とかを競ったりします。だけれども、頭文字Dの世界はいかに速く、スマートにバトルするかというのがコンセプトです。
車の挙動というのはみなさんご存知で、実際のドリフトなんかも想像できるでしょう。当然、アニメにもリアルというものをきちんと取り入れなければいけません。
その一方で僕たちが作るのはアニメーションであり、アニメである以上はすべてがフィクションです。フィクションというものもバランスをとって入れなければいけません。そういうところでリアルとフィクションというコンセプトを立てました。
もう1つは、しげの秀一さんの漫画タッチの実現です。週刊や月刊の漫画誌とかを読むとわかりますが、漫画というのは作家さんによってタッチが違います。このタッチの実現は作品の味になりえるなと思いました。今回の新劇場版 「頭文字D」ではその表現がちょうどはまったと思います。
とはいえ、いかに漫画を追求したとしても、アニメを見てくれるユーザーさんに届かなければ僕たちの仕事としては思わしくありません。当然、漫画とアニメのバランスというものはとっています。
そして、あともう1つが作画とCGのバランスです。作画というのは今回の場合はキャラクターがメインです。CGはカーアクションがメインなのですが、実は今回の「頭文字D」の中でもキャラクターが一部CGのところもかなり混在しています。
しかし作画とCG、背景も含めて作画とCGのバランスをとっています。作画でもCGでも関係ないと思うので1つの作品として皆様に観てもらいたいなと思っています。この3つのことを今回の劇場版のコンセプトにしています。
新劇場版 「頭文字D」のコンセプト。リアルとフィクション、漫画とアニメ、作画とCGのバランスがコンセプトだ
松浦氏が次に紹介したのは、3つの映像のコンセプトをどのようにして映像で実現したかという話だ。まずは「リアルとフィクション」の「リアル」の部分を具体的にどのようにして実現したかを解説した。
松浦氏:モデリングでのリアルの追求という面では、主人公が乗る車のAE86は京都にカーランドというAE86専門店がありまして、そこまでロケハンに行って実車を細かく取材しました。例えば、カーランドのAE86には、車内にサンルーフがありますが、車内の天井から見るとないんです。これは実は漫画と同じです。このような細かい設定もこだわって実現しました。
アニメーションのほうでのリアルの追求という面では、サンジゲンの親会社にウルトラスーパーピクチャーズという会社があり、そのグループ会社にはグッドスマイルカンパニーという会社がありまして、そこにグッドスマイルレーシングというレーシングチームがあります。
そこのドライバーに協力をしてもらいました。グッドスマイルレーシングのドライバーはD1グランプリにも出ていまして、その中の谷口信輝選手の場合は実際に若い頃峠を走っていて、なおかつAE86も持っていたというドライバーです。そういう経験をもったドライバーに実際にサーキットを貸しきって、ドリフトの体験会を実施していただきました。劇中の動きは実際のドリフトを体験した経験がそのまま生かされているというわけです。
京都のAE86専門店カーランドでの取材の様子。サンルーフの様子などをチェックしている
その次に紹介したのは、漫画のタッチを映像で実現するための方法だ。原作者であるしげの秀一氏が描く「頭文字D」には、走行中の車の描画にゆれを感じさせるような縦線が描かれていたり、車が激走している際には後から煙のようなものが描画されている。
カーアクションの映像制作のためにドリフトの体験会を行った。最新のドリフトを取材したり実際に体験した。その体験が映像に生かされている。さらに映像もすべてグッドスマイルレーシングのドライバーに監修をしてもらっているとのことだ
新劇場版 「頭文字D」を実現するうえで、この縦線と煙のような2つのタッチを映像で実現するというのがサンジゲンの大きな課題だった。まず、サンジゲンの社内ではこの2種類の描画を「Dタッチ」と「Dエフェクト」と呼ぶようにすることを決めた。その経緯をこう紹介した。
松浦氏:ブレーキしたときのタイヤとアスファルトとのこすれでしょうか?漫画の頭文字Dには車の後から何かが出ています。何か?です。実は毎週「頭文字D」のCGの定例をやるんですけれども、今みたいな会話をチームでずっとやっていました。「あの出ている何かをここでは出しますか?」みたいな感じの会話です。
しげのさんの独特のタッチを会話で共有するのはまどろっこしかったです。なので、もう「Dタッチ」と「Dエフェクト」というふうに呼ぶように決めました。ダサいんですけれども、名称が決まることで現場の作業は凄いスムーズになりました。
次に具体的なDタッチの再現方法を紹介した。この縦線をアニメの作画で実現するとなると、動画(連続する静止画を作成する工程)で動かすときにこの何百とかありそうな本数を1枚1枚合わせて作業をしなければいけない。作画では絶対に避けて通る表現であり、不可能といっていいだろう。しかしCGを使えば、タッチをテクスチャ素材にしてどこの角度から見ても見えるようにポリゴンに貼り付けて、それを車に発生させていくという方法で実現できる。
発生させる元を車体全体とすることで、車体全体にまんべんなくタッチが乗るようにしている。さらに、パーティクルのテクスチャが発生と消滅を繰り返すことによって、フレームごとに線を書いているようになると紹介をした。
右がDタッチの適用後の様子。しげの氏の作画のタッチがアニメでも実現されるというわけだ
ペンの縦線のタッチのテクスチャ素材をポリゴンに貼り付ける
ポリゴンに貼り付けたものを車体からパーティクルとして発生させる
レンダリングをすると、車体にペンでタッチをしたような表現が実現できる
続いて、「Dエフェクト」の再現方法も紹介した。Dエフェクトは、単純にオブジェクトを3つ作って、そのオブジェクト自体にプロシージャルのテクスチャを貼り付けてアニメーターに渡す。バトルのシーンは夜なので渡すときは白い色のまま渡して、撮影のコンポジットのほうで色を変えていくという工程で実現している。
居嶋氏:このプレゼンでは一応わかりやすいように球体と四角推と円柱で発生させています。発生源となるエミッターを設定して、そこから3種類のオブジェクトを発生させます。そのままだともったりした感じになってしまうので、その中でも強い部分と弱い部分のメリハリをきっちりつけて調整をしつつ、最後には消えていくという形にしています。
最初のセッティングだけだと、船のヒキオみたいな同じ絵図のものがお尻についてくるというあんまりかっこよくない感じになってしまうので、いろいろ調整をしてメリハリをつけるようにしています。
漫画の頭文字Dでは、勢いよく走行しているシーンで車体の後ろから煙のようなものが描画される。新劇場版 「頭文字D」ではこれを「Dエフェクト」と呼んで追加していった
煙のような3種類のパーティクルオブジェクトを用意
煙をランダムで発生させる。画面は3種類のオブジェクトであることが分かりやすいように円、三角錐、円柱に置き換えている。青い四角が発生源のエミッター
円、三角錐、円柱から煙に置き換えると、まさしくDエフェクトとなる
レンダリングすると漫画の頭文字Dの走行シーンのタッチが再現される
技術よりも「何を表現するか」「どんな作品にどんな表現を用いるのか?」が重要
CGの技術は変わっていないが、無限の可能性がある。その可能性を想像力で表現したいと語ってセッションをまとめた
新劇場版 「頭文字D」や「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」の映像を観ているとサンジゲンでは相当高度な技術を使って映像制作が行われていると誰もが思われるだろう。しかし、松浦氏は、サンジゲンのCG制作は決して高度な技術を使っていないという。最後に、技術よりも「何を表現するか」「どんな作品にどんな表現を用いるのか?」ということのほうが重要だと語ってセッションをまとめた。
松浦氏:新劇場版 「頭文字D」の代表的なDエフェクトとDタッチを簡単に説明させていただきました。実際にやっていることは凄い単純です。たぶん、ここにきている方ほとんどの方が技術的に得るものは何もないと思います(笑)。実際セル調でアニメーションを作るということに関しては、僕たちは一切というかほとんど難しい技術は使っていません。15~16年ぐらい前から僕たち技術は何も変わっていないのです。
去年制作した「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」でも、エフェクトなどはプラグインとか一切使っていないです。球体とパーティクルだけです。あとは、コンポジットなどで表現を変えているだけです。アニメの表現自体はそんなに高等なプラグインを使わなくても、表現できるようになってきたと感じています。
僕たちは3ds Maxをメインに使っていますが、CGの技術自体はそんなに大きく変わっていません。むしろ、作り手のほうが成熟してきたなと僕は思っています。CGで表現するということの可能性は無限だなと思っています。技術が単純であっても高度であってもそこが問題ではなくて、何を表現するか、どんな作品にどんな表現を用いるのか?ということのほうが重要かなと思っています。今回の頭文字Dというのはその第一歩であると僕は思っています。
「新劇場版『頭文字D』Legend1-覚醒-」は、8月23日より全国の劇場で公開中だ。機会があれば劇場にも足を運んで実際に作品のほうも楽しんでほしい。
素材提供:©しげの秀一/講談社・2014新劇場版「頭文字D」製作委員会
展示会場では、写真から3Dデータや3Dスキャナーなどのソリューションに注目
■さらに強化されて今年も展示されたAutodesk 3D Photoブース
AUでお馴染みのAutodesk 3D Photoブース。3D Photoブース自体は、オートデスクのテクノロジーのデモとして作られたもので、ブースのスタッフは「写真から3Dのデータができるとことを体験してほしい」とアピール
イベント会場のホワイエは展示会場になっていて、オートデスク認定パートナーのソリューションがずらりと展示が行われていた。その中で最初に目についたのは、複数のカメラでさまざまな角度から写真撮影して3Dモデルを作成する「Autodesk 3D Photoブース」だ。以前のAutodesk 3D Photoブースはカメラが16台だったが、今回の3D Photoブースは24台に増やされていた。カメラが16台の頃は後頭部の形状の表現に問題があることがあったが、24台になって後頭部もより対応できるようになった。
撮った写真が3Dのデータになるまでの工程も紹介しておくと、3D Photoブースで撮影された映像は無償でiOS用やPC用が配布しているAutodesk 123D Catchに取り込まれて、クラウドにアップされる。クラウドで3Dモデルへの計算が終わると、オートデスクのギャラリーにアップされたり、再び123D Catchにダウンロードされるという仕組みになっている。アップされてから、計算が終わるまではだいたい1時間ぐらいではないかとのことだ。
カメラが24台に増えてさらに強化された
24台のカメラで撮影して3D化された様子。データ形式は3Dプリンタなどでお馴染みのSTLだ
表情のアウトラインなどが綺麗に表現されている
■ジェームズ・キャメロンが実際に使ったバーチャルカメラシステムを展示
ジャストコーズによるバーチャルカメラ体験コーナーも見逃せない展示だった
バーチャルカメラ体験コーナーというのも興味を引く展示だった。映像制作会社のジャストコーズが行っていたブースで、映画「アバター」で使われたバーチャルカメラシステムが体験できるようになっていた。展示されていたバーチャルカメラシステムは、実際にアバターの現場で使われていたもので、ジェームズ・キャメロン自身が使ったものとのこと。制作期間を終えたあとにジャストコーズのほうで購入して、現物がこうして展示されているとのことだ。
こちらはバーチャルリアリティヘッドセットのオキュラスを装着した様子
オキュラスのヘッドセットを内側から見た様子
こちらは映画「アバター」の制作にジェームズ・キャメロンが実際に使ったバーチャルカメラシステム。世界で有名なバーチャルカメラの1つだ。トリガーボタンがついていたりして、クイックズームとかもいろいろ可能になっている
■立体物を高速に読み取るSteinbichler社のT-SCAN
大きな物体でもレーザーセンサー本体を測定物の形状に沿って移動させることにより複雑な形状でもスピーディーに測定できるというのが特徴だ
展示会場で目立っていたのは3Dスキャナー類の展示だ。例えば大塚商会のブースには、Steinbichler社のT-SCANが展示されていた。トラッカーで見えている範囲内をハンディスキャナでデータを取り込むことができるというものだ。他社のスキャナに比べて倍以上の速度でデータを取ることができるというのも特徴とのことだ。
レーザーセンサー本体を測定物にかざすと、すぐにPC側に点群として表示される。高速で撮れるというのが特徴だとアピールをしていた
右側にある三脚を使って設置されているのがトラッキング装置だ。レーザーセンサー本体から照らされているLEDの跳ね返りをトラッキング装置で読み込んでデータ化するという仕組みだ
■安価で導入しやすい3Dスキャナー「Sense」
Tooのブースに展示されていた3DスキャナーのSense
TooのブースはAutodesk Entertaiment Creation Suiteの紹介をメインに行っていたが、サポートツールとして安価で導入しやすい3Dスキャナーの展示も行われていた。その中でも目を引いたのは、3Dスキャナーの「Sense」だ。
価格は6万円ぐらいのホビーユース向けとのことで、「この会場の中で一番安い3Dスキャナーだと思う」とアピールをしていた。何か形状を撮って3DCGの中で動かしたいとか、立体物を最終的には3Dプリンタに出力して造形したいというような用途使われるものとのことだ。
その場で手前のPCに向けてシャッターを切ってもらった。PCにはこのように3Dのデータとして撮影された
3Dなので横から見ることも可能だ。視点を移動するとこのようになる