海外の仕事をすると言うこと

初めて英国から報酬を受け取った。はるか昔、まだギタリストとして英国にいた頃には報酬をポンドで受け取った事はあるが、それは英国国内での事だ。今回は交渉もユーロ建てで進め、私の日本の銀行口座番号を伝え、送金してもらったのだが、正直すんなりいくのかどうかとても心配だった。

税金の事、手数料はどれくらいなのか?そもそも普通に送れるものなのか?銀行の説明では受け取りに何かの確認作業が必要になる事もあるとの事だったが、そりゃそうだろう。マネーロンダリングだとかいろいろと…。

結果的にはあっけないくらい普通に振り込まれていた。大して問題にならないくらい、小額だったという事もあるのだろうが、相手はいたって冷静で、妙に緊張していた自分がなんだか恥ずかしい気分だ。結局普通の報酬として確定申告の時に所得税を支払うだけの事になりそうだ。これが島国根性ということなのか。いや待て、英国も島国だぞ。でも海外進出とか国際ビジネスという事に必要以上に隔たりを感じてしまうのは私だけではなかろう。そういう意味では日本は相当な後進国なのかもしれない。

一般的に後進国というのは自国での経済だけでは成り立たないということもあってか、他国とビジネスをするとか他国のプロジェクトに参加するとかいう形に何の抵抗もなく、当たり前のようにこなしている。韓国のエンターテインメント、中国の映画でさえ、日本やアメリカへの進出は「進出」という言葉が大袈裟すぎるほど普通に行われている。不景気だと言われていても、それでも日本は裕福な国だ。その分、外国への意識が低いと言わざるを得ず、取り残されている感さえあるのだろう。

それでも世界は回り続ける

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きっかけはやはりモナコ国際映画祭での受賞だった。そこで私たちの作品を観た一人の英国人プロデューサーが日本で映画を撮りたいと言い出したのだ。正確に言えば彼が考えている次回作に、日本人俳優と日本で撮影するシーンがあるという事だ。断っておくが、彼はそんなに大きなプロダクションのプロデューサーではない。それでも平気でそういう事を言い出す。もちろん私は半信半疑。というよりほとんど信じてもいなかった。

今回はまだ、メイキング映像ではあるが、撮影・編集を依頼され、「あ、本当にやるんだ」と驚いてしまっている。外国で認められるとか海外進出と言う物を、マスコミが話題にするような大袈裟な事、大きな企業やプロジェクトが絡まないとできない難しい事だという考えに縛られていた自分がとても情けない。英国の小さなプロダクションの一プロデューサーが気に入ったというだけで、日本の無名個人映像作家に仕事を依頼する。こんな事、向こうから見れば普通にある事なのだろう。言うなればあっちのプチシネとこっちのプチシネがポンと結びついたって事だ。

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いや、プチシネだからこそ、こうして簡単に結びつけることができるのかもしれない。その英国人プロデューサーは特別潤沢な自己資金を持っている訳ではなく、普通に企画書を持って出資者を募っているという。今回撮影したメイキング映像も、そのためのプロモーションに利用するということだが、彼が日本での撮影や私や日本人俳優を使う事をどういう風に言っているのか、また、出資者がそれにどう反応してお金を出す事になるのか、知りたいところだ。

こういう事があると、やはり私が言い続けているダウンサイジングのメリットというのは間違いなくあるように思う。最近、地方の撮影や映画祭上映などで、地方の方々とお話できる機会に恵まれているが、そこではやはり東京への意識、あるいは東京との格差、しいては「田舎だから」という諦めともとれる考え方がとても強くあるように感じている。

自分の作品をどう世に送り出すのか?

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私が映画を作り、国際映画祭に出品し、外国人から仕事を依頼され、報酬を受け取るという流れの中に、東京や大手広告代理店、映画制作会社や配給会社、テレビ局等は一切関係していない。地方からダイレクトに他国へ進出するのに東京へ出て来る必要もなければ、広告代理店やマスコミに認められる必要も無い。ましてや自治体や政治家を動かす必要なんてどこにもない。そして、撮影に関しては東京ほど美しい場所を見つけにくく、やりにくくてお金がかかる場所はない。

私が受賞した二つの作品はともにわざわざ地方まで出かけて行って撮った作品だ。問題があるとすればここだろう。私はチームを小さくする事でなんとか地方に行ける。単純な話、交通・宿泊費の問題だったりする。つまり人材が東京に集中しているからわざわざ彼らを地方へ運ばなくてはいけない。それが有名スターならそれは仕方ないかもしれないが、私レベルのクリエイターや俳優なら、地方でも充分に存在しうる筈だ。それを育てる環境と意識が地方には足りていない。だからみんなが東京にそれを求めて集まってしまう。

もちろん私もその内の一人だが、今すぐには無理でもその流れを断ち切る事は可能だと思う。その為には今すぐ始めなければならない事があると思う。ある意味、後進国の姿勢を学ぶべきだと思う。東京や裕福な国からの観光誘致を考えるのもいいが、もっと独立心を持って、地元と人材を磨き、大袈裟な物でなくてもいいから、いい物ができたら東京やテレビ局なんかすっとばして、世界に送ればいい。人材とセンスさえ磨けば、東京なんかよりずっといい作品を作れる環境がある。

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少なくとも文化、映像なら簡単にそれができる筈だ。プチシネというダウンサイジングがもたらす可能性は大きいのではないだろうか。私を含めて東京にいる者が、東京が日本の中心という事をいうのであれば、そういう活動に力を貸す事が責任としてあるのではないだろうか。内閣改造で地方創生・国家戦略特別区域担当大臣なるものができた。いや、それはそれで大きい事をやってくれればいいのだが、この際、それとは無関係にやっていくべき事が大事だ。

なぜなら大きいプロジェクトには大きい結果を短期間で出す事が求められる。それを考えなければ道は他にもあると思うし、それは意外に大きい道よりも通りやすい道なのかもしれない。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。