上映会から見えてきた事
恥を忍んで報告しよう。いや、しなければならないだろう。このコラムを通じて訴えてきた今の日本の映画文化の問題点がここにあると思うから。そう言わざるを得ない結果の私の上映会だった。
まずは今回の上映に至る経緯をザクっとお話ししておくと、モナコ国際映画祭で二年連続、合計5つの賞を獲得した「彩~aja」「艶~The color of love」の2作品と毎回のトークショーをパッケージとして、まずは単館上映を目指した。規模としては50~100席の映画館に企画として持ち掛けたのだが、興味さえ示される事はなかった。中には持参したDVDを一度も見ることもなく、そのまま突き返す所さえあった。
その大きな理由の一つが配給会社がないという事だった。元々集客能力のない上映館は集客を作品に頼るしかなく、それもまだ誰も見ていない作品ではその内容による集客はあり得ない。結局、それは広告宣伝にかかっており、私にできる事はせいぜいフライヤーとポスターを用意する事くらいで、それらを置かせてもらう場所すら決まっていない。そこには予算と戦略を持った配給会社が不可欠で、それがない企画には聞く耳を持たないという事だ。
そこで幾つかの配給会社に話を持ち掛けてみたが、ほとんどとりあってもらえず、話ができた会社も100万円の宣伝広告費を要求してきた。それもまた、作品を一度も見ることもなく。嫌気がさした私は、赤字を覚悟で映画館の要求する最低保証金を支払って単館上映をしようと思ったが、それすら断られた。理由は作品がアート作品だからという事だ。結局、貸ホールという形で今回の二ヶ所を借りて、全くの自力で上映するしか道はなかった。この時点でもう黒字になる事は諦めていたが、出来るだけの集客をするつもりではいた。
二つの会場で上映を決めた
まず決めたのは東京での会場、原宿にある「CAPSULE(カプセル)」だ。30席の試写室のような所でBlu-ray Discでの上映が可能だが、残念ながらプロジェクターの解像度はフルHDではない。ここにATOMOS NINJA BLADEを持ち込み、ProRes422での再生を試みたが、何かの相性の問題で再生はできなかった。
しかし、スクリーンの規模から見ても充分な美しさで、何より特筆すべきは音響の良さだ。そして料金の安さもありがたかった。5日間の午後貸し切りで110,400円。合計2時間の今回のプログラムなら1日2回の、合計10回の上映が可能だ。事前の試写にも応じてくれて、スタッフもとても親切だった。ただ、完全な箱貸しなので上映の操作、受付等はこちらでやらなくてはならず、チケットの前売り販売等システムも無い。
レンタルされている時のみの営業でその他の時は閉館しているので、予告編の上映はできないが、その代わりホームページやTwitterでの告知は積極的に行ってくれる。
そしてもう一つ決めたのは京都の「立誠シネマプロジェクト」。こちらは廃校になった小学校の教室を利用した35席の小劇場のような会場だが、立地も京都の中心街にあり、今、文化的には関西のみならず、東京でも注目されている。実は京都は私の生まれ故郷で、とは言え、もう離れて40年以上も経っていて、交流のある友人もほとんどいないのだが、たまたま6月に行われた私が撮影監督を務めた「さかなかみ」の試写会イベントが500人近くの人を集め、そこにゲストで呼ばれた私も何人かの方と交流を持てた。
もちろんこの500人という集客は浜野安宏監督の人脈とカリスマ性、「さかなかみ」という作品の持つテーマ性があっての事で、それが私の上映会に直接影響するものではないとは思っていたが、何人かの方が協力を約束してくれた事もあって、このタイミングでやるしかないという思いで决めた。
「立誠シネマプロジェクト」は会場こそ小劇場を思わせる座席やどこか文化祭のような作りだが、前にも紹介したように、Ki ProによるProRes422による上映が可能で、常設なので予告編も事前に上映してくれる。しかし、音響はお世辞にも良いとはいえず、さらに時々外の騒音も聞こえてしまう。上映システムは一日に5~6本の個性的な作品を完全入れ替え制で上映しており、チケットも別々になっている。話題を呼んでいるのは独自のプロデュースによるラインアップのユニークさだが、今回の私の上映はその中の一つという訳ではなく、あくまで枠貸しという形で普段の上映の前の午前11時から一日一回という厳しいもの。それを4日間の合計4回だ。
こちらもホームページやtwitterでの告知は積極的に行ってくれるが、やはり独自のプロデュース作品とは大きく差別化されており、前売りチケットはなく、事前に送ったポスターも目立たない所に一枚貼られているだけで、フライヤーも場内には置かれているが、建物の入り口にあるフライヤースタンドには置かれず、通りに面した当日の上映作品のポスターにも貼られていなかった。
それは会場に来た方が「本当にここでやってるの?」と心配になるほどだった。これは当日に行ってから初めて知り、落胆したのだが、自分の詰めの甘さだとも思う。料金は合計4回で86,400円。こちらは受付も上映操作も専門のスタッフが行ってくれた。
驚愕の結果は…?
【収入】
※入場者収益
東京(10回):¥1,500×55人 ¥82,500
京都(4回):¥1,500×21人 ¥31,500
¥1,200×1人(立誠シネマ会員) ¥ 1,200
¥0×3人(読売新聞プレゼント分) ¥ 0
小計 ¥115,200
【支出】
フライヤー(両面フルカラーB4 5000部) ¥21,230
ポスター(片面フルカラーB2 50部) ¥14,760
会場費 東京 ¥110,400
京都 ¥86,400
会場スタッフ費(東京のみ)¥5,000×5 ¥25000
交通、宿泊費(京都のみ4泊) ¥42,000
諸経費(ゲスト交通費、謝礼など) ¥80,000
小計 ¥370,790
合計 -¥264,590
ひどいものだ。正直、多少の赤字は覚悟していたが、ここまでとは思わなかった。こうまでして上映する必要があったのかと聞かれれば、それでも私はYESと答える。「映画は観てもらって初めて映画だ」というのなら、途中で投げ出す訳にはいかない。ここまでやる義務があったと思う。この結果の全てが私の作った映画だという事だ。この悲惨な結果の原因を一言で片付けてしまうと私の知名度の無さと言えるのだが、一言で片付けてしまうとただのぼやきで終わってしまうではないか。
そんな物にこのスペースを割く訳にはいかない。この結果を招いた小さなミスや無知、人間関係や交流の仕方まで、次回から徹底的に洗い出し、今後の活動の糧に、そしてプチシネを作ろうとしている皆さんの為に役立てて頂きたいと思う。
そう思わせたのは他でもない、来場し、作品を観て下さった方々の熱い言葉、表情、時に涙まで見せて言って下さった数々の賛辞。美とテーマが人の心の奥深くまで届いた。決して無意味なゴミを作った訳ではないと実感できた。それだけにそれを最後まで仕上げられなかった自分の力の無さが悔しくて仕方が無い。その恥をあえてさらすのは、「映画文化を組み立て直そう。プチシネをどんどん作ろう。」と言い続けている私の義務だと思っているので、もうしばらくこの反面教師にお付き合い願いたい。