産学連携「ファッション×4K高精細映像表現FIT INNOVATION LAB JAPANプロジェクト」とは?
2014年9月23日~10月1日にかけて開催されたパリコレクション(以下、パリコレ)において、デジタルハリウッド×パナソニックの産学連携「ファッション×4K高精細映像表現実証実験FIT INNOVATION LAB JAPANプロジェクト」として日本発ファッションブランドをLUMIX DMC-GH4(以下、GH4)で収録し、現地で編集 / YouTubeを通じて即時4Kクオリティでグローバルに「見える化」をする取組みを実施した。
筆者は、海外で活躍する日本発のブランド / 人 / カルチャーを、より高品質にライブ感を持った形で共有し、出来るだけコンシューマーに近い機材やネットインフラを活用した形で、グローバルにユーザーに届くようなフローを確立したいという想いから、2014年3月の東京ファッションウィーク、6月のPITTI(フィレンツェ)に引き続き、パリコレでの取組みを進める事にした。事前にリサーチした所、パリコレクラスのイベントでも4Kの高精細映像を活用したりインターネットやソーシャルメディアと連動した拡散は、まだ一部のラグジュアリーブランドしか本格的に活用しきれておらず、実際YouTubeに公開されている日本ブランドのオフィシャル動画も480Pサイズというもったいない状況だったので、春先からブランドとの交渉を進め実証プロジェクト実現に至った。
6月に行われたPITTI
具体的には
- ファッションショーの最前線で空気感や素材感をも捉える4K映像の表現力を実証する
- 収録からなるべく時間を置かずに現地で編集した映像を4Kクオリティでインターネット公開し世界に拡散する
- 様々な制約のある海外においてコンパクトなGH4の機動力を活かした4K収録のワークフローを確立。課題も同時に洗い出す
- 産学連携プロジェクトとして収録や編集は学生を中心としたメンバー構成で臨む
という点を目標とした。
4Kで収録されたブランド
(YouTube画面右下のボタンから4K / 2160pが選択可能)
■ISSEY MIYAKE
■ANREALAGE
ANREALAGEメイキングはTOKYO FASHION FILM中心に収録・編集実施
■TSUMORI CHISATO
パリでの4K収録とワークフロー
1ショーにつき4~6台のGH4でQFHD 4Kデータマルチカム収録を行った。レンズはPanasonic製の35-100mm F2.8、12-35mm F2.8をメインショットとして、広角側で7-14mm F4.0、望遠側で100-300mm F4.0-5.6、状況によって25mm F1.4、14-140mm F3.5-5.6、42.5mm F1.2あたりを活用した。今回海外環境でなるべく機材をコンパクトにしたいという事もあり、外付けIFユニットと外部レコーダーを使った4:2:2 10bitでの収録は行わず、GH4本体に格納したUHS-I対応パナソニック社製SDカードに4:2:0 8bit MOV QFHD 4K 29.97p 100Mbps収録を行った。
GH4の特筆すべき点として4Kデータの圧縮率が挙げられる。記録部分だけでもモジュール化し、SDカードに4K記録が出来る外部レコーダーとして売り出して欲しい位である。データサイズはおよそ20分のショーで1CAMあたり15GB程度。64GB 1枚でも余裕がある圧縮率はGH3から引き継いだバッテリー持続性と併せて現場でとても有難い。プロジェクト全体としてもパリコレデータ総量は2TBのHDD1つに収まった。
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収録したデータはMacBook Pro(Mid 2014)に取り込み、カラーグレーディングにはMagic Bullet Looksを活用。編集ソフトはFinal Cut Pro XとLooksとの相性に不安定性があったのでAdobe Premiere Pro CCを選択。MacBook Proの6ライン4K編集はプレビューがカクついたり快適とまでは言えないが、使えるレベルで動作し、宿泊先のネット回線も安定していたのでショー終了の翌日位にはYouTubeで4K公開が実現できた。
4K収録時の課題
パリコレのショーカメラブースでは、最前列のグラウンドに配置できない事が多く、カメラマンで埋め尽くされた台上からの撮影になった場合は、振動により映像にブレが生じてしまう事も多かった。ソフト側の補正は、4K解像度という事もあるかもしれないが違和感が出てしまったので、収録時に本体側でもう少し吸収できるようになってくれると有難い。
4K収録時の課題として挙がる事の多いフォーカスについても、オートでは対応できない場面が多いのですべてマニュアル操作で臨んだ。GH4から実装されたピーキング機能は4K収録の強い味方になったが、パン・チルト・ズーム・光量が極端に変わる場面の絞り調整と並行操作する場合等に画が甘くなってしまう場面が発生してしまった。熟練度の問題もあるが、固定パンフォーカス以外の構図では、従来のビデオカメラのように長尺でも滑らかなズームや動きのある安定した画を収録するのはまだ難しいと感じた。今後の機能の進歩にもよるが、ショーの一眼4K収録ではなるべく振り回さず済むようにカメラ台数を増やしFIXにして操作も最低限にするなど、収録方法の工夫が必要であるように思う。
バーチカル4Kの可能性
筆者は、ファッションのコレクションフォトは殆ど縦位置なのにムービーは横位置収録である事への疑問を持っていた。現地Yohji Yamamotoアトリエでの打合せでこの疑問を投げかけた事から、急遽コレクションショーとルックブックのバーチカル4K動画収録実験が実現する事になった。最近ではブランドショップ店頭でも縦位置に配置されたデジタルサイネージも頻繁に見かけるようになり、ユーザー側もスマートフォンの普及で縦動画に慣れてきたが、ショー等の実写投影に関してはおそらく横位置で収録した素材のサイドをトリミングして縦位置で表現していると思われるので、縦型4Kディスプレイの性能をフルに活かした映像を見たことがなかった。
ショーの直前にヨウジさんご本人とも4Kの可能性について話をする事ができ、パリコレの最前線で活躍するデザイナー側でも高精細映像の可能性には非常に高い興味を持っておられ、光栄な事に今回の縦4K映像は、 Yohji Yamamotoオフィシャル映像として採用していただく事になった。パナソニックが提唱している4K映像素材から写真を切り出す「4Kフォト」という分野もアスペクト比の自由度が増すなど対応幅も広がり普及してきそうなので、ショーやイベント等の収録ワークフローは今後大きく変わる可能性がある。
■Yohji Yamamoto(Vertical4K収録。縦収録した映像をあえてその向きのまま公開)
■Y’s(Vertical4K Video LookBook実験 2スタイル)
総括〜4K高解像度映像の可能性
筆者は、このプロジェクトに携わる以前、4K動画は4Kモニターで見ないとあまり意味がないと思っていた。ところが4K動画は解像度が4K以下のMacBook ProやAirで見ても明らかにキレイだった。GH4のようにコンパクトかつこなれた価格帯でありながら、設定次第で驚くほどの画が収録出来てしまうカメラの登場で、手軽に4Kコンテンツを創るユーザーの裾野が広がり、YouTube等のネットを通じて4K普及は思ったよりも早く到来するかもしれない。
人間の感覚は贅沢なもので、一度高精細な映像を観てしまうと以前の画質が荒く感じてしまい、感覚の後戻りができない。特に素材や色の鮮やかさ、ディテールが重要なファッション等の特定分野のコンテンツでは更に高精細映像の需要は広まっていくだろう。海外のイベント会場や宿泊施設はここ数年でネットインフラ整備が大分進んできた印象があるので、今後はネット経由で映像やテクノロジーを駆使した表現幅も広がってくるだろう。課題や超えるべきハードルもまだまだ残っているが、今回パリコレの最前線に携わる事ができ、4K高解像度映像の可能性をさらに感じたので、最新の機材を活用し、引き続き未来への様々な可能性を追求していくつもりである。