祝!60回!いつもご愛読ありがとうございます。単純に5年、途中何度か抜けてしまったので実際にはそれ以上。読んで下さった皆さんにも続けさせてくれたPRONEWS編集部にも感謝の気持ちで一杯です。その間、プチシネを取り巻く環境も機材もメディアも変わってきた事は間違いないが、その変化をうまく受け止めて作品は、作り手は、受け手は、そして映像文化は向上したのだろうか?まあいい、文化は流行とは違う次元の物だ。そう簡単に形になるものではない。次の5年、まだまだ種まきを続ける時なんだと思う。これからもよろしくお願いします。

上映会の総括をしよう

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予告通り上映会の総括をしよう。私自身の魅力も能力も、配給・上映の姿勢も、マスコミも、オーディエンスの興味の方向も…敗因をあげればきりがない。やはりすべてが「せーの!」で変わらなければいけない。自分の立場以外のせいにして愚痴るのは簡単だが、そこからは何も生まれない。まず自分が向上した上で、しかし周りの向上にも目を向けて、お互いに変わって行かなければならないと思う。ネガティブ要素を洗い出した前回までとは見方を変えて、一つの理想を元にして考えてみる。

例えば全国に50~100人規模のミニシアターがあって、そこでは短編、長編含めて様々な良質な作品が上映されていて、制作者、オーディエンスを問わず「映画好き」が集まり、一館1,000人、全国で10,000人の人が作品を観てくれたら大成功!シアターの経営も成り立ち、出演者も含めた制作者にもそこそこの収入がある。それを元にまた優れた作品を産みだしてゆく。その連鎖が続けば、「ミニシアターファン」も増え、特定の作品や監督、出演者を目的としない人が新たな映画に触れることにもなり、そんな中から数年に一度、評判になり、マスコミにも取り上げられ、スター監督や役者が生まれることもある。

理想というにはあまりに小さく、控えめなものだが、それには理由がある。既存の映画産業と一度切り離して映画文化という物を考えた時にそこには大きなチャンスがあると思っている。それがプチシネと名付けた小さなチームと予算で作り上げる小さな映画なのだが、それが大判センサーカメラの登場とそれに伴う様々な機器の発売によって映像表現力が格段に、それはもう飛躍と言っていいほど向上した。かといってそういう作品を今すぐ大規模な映画プロジェクトや配給システム、上映館に放り込める物ではないということは、私自身の作品の上映を通じて思い知った。

ただ、赤字、動員不足、作品クオリティ、何よりもオーディエンスの関心を引けていないという点では、規模は違っていても大規模上映館でも同じような事が起こっている。どんな上質なプチシネを作ったところですぐさまシネコンを一杯にし、既存の配給システムを潤わせるような事は現実的には考えられないし、それが時代に合った事だとも思えないのだ。もちろん将来的により多くの人が映画を楽しんでくれる事を夢見てはいるが、その為には産業の下支えになるような文化が必要で、それを時代に合った形でもう一度一から作り直さなければならない。

文化にとってその不可欠な熱量とは?

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文化にとって不可欠なのは「熱」だと思う。例え大きな映画館であっても10%しか席が埋まらないようでは熱は上がらない。座っていてもどこか冷めてしまう。100人という人数よりも、満員になる事の方が重要なのだ。だからまずは小さなシアターを満員にする事を考えなければいけない。そういう熱が人を呼び、クリエイター達のモチベーションも競争意識も向上させ、良い作品も生まれるはずだ。もちろん大きな商業的成功には直接はならないと思うが、メジャーな配給システムから切り離してしまえば、上映システムもまた、向上、低価格化している事からミニシアターが新たに生まれる可能性も高い。

映画館は次々に閉館に追い込まれていっているという現実がある事は承知しているが、そのほとんどが既存の配給システムとデジタル化→HD→4K→8Kという流れについて行けないという理由で、私が「プチシネ」と言っているような考え方で「プチシアター」を全く新しい発想で作る事は可能なのだ。そういった話を既存の映画館の方と話した事もあるが、今ある配給システムと発想を転換するのは思いのほか大変なようだ。

この際一からやり直す、或は新規で「ライブハウス」ならぬ「シネマハウス」を作る方が現実的だとも思える。そういう考え方をすでにお持ちの方もいらっしゃるのだが、あまりに機材の事に対して知識が足りなかったり、映像クリエイターとの繋がりが薄かったりして、なかなか成功には結びつかない。制作チームも上映館も小さく良質にできる時代だが、やはり映画文化という括りではチームでなければならない事を痛感している。そういう意味では機器メーカーや販売店ですらチームに加わってほしい思いだ。

今回の上映をめぐる活動の中で私が最も大きな失敗をしたと感じているのはマスコミ、つまりオーディエンスとどう繋がるか、どう伝えるかという事だと感じている。結局メジャーなシステムと同じやり方をしようとして見事に失敗している。サブカルチャー(私はこれこそがカルチャーだと思っているが)層をメインターゲットにしている活動はたくさんあるし、そこには人も集まっているように思う。例えば、

CINRA.NET

中身の濃い、独自の視点で音楽、アート、デザイン、映画等の情報を発信しているサイト。

Filmarks

映画情報サイトで、かなりマニアックな作品まで取り上げ、オーディエンスから投稿されたレビューは辛口な物も多いが、その分信頼性は高い。

プチシネはこのような素晴らしいサイトと共にあるべきだと思う。ネットという意味ではオンデマンド放映や出版。まだまだ残るDVDの出版という発展も考えなければならないのだが、今回上映会を行ってみて再認識したのはやはり「熱」がそこにはあった。だから諦めたくはない。メジャー作品の冷めた舞台挨拶なんかではなく、イベントとして、人が集まる場所として、上映会の内容も場所ももっと魅力的な物にならなくてはいけないと思うし、続けなければいけない。今回は私も出演者達も会場にいたが、そこで交わされる言葉や表情、空気感、やはり「熱」がある。我々も作りっぱなしではだめなんだ。ならばその場にいて、「会える映画人」(ん?これってAKB方式?)を目指して、なんとか一から映画文化の種まきをしたい。

それにしても私は映画を作って映画祭に出すくらいまでの事しか知らなかった。映画は観てもらって初めて映画。言うのは簡単だが、あまりに無知だったと思う。それぞれの分野の専門知識、常識、経営理念、何もかもが違う。それぞれの知識を一つにしてオーディエンスに映画を届けるようなシンプルで新しいシステムはできないものだろうか?お願いだ!チームに参加してくれ!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。