CP+2015開催。「谷間の年」に何が起こるのか?

CP+は、年に1度パシフィコ横浜で開催される写真の祭典だ。昨年の開催は大雪で開催が中断されるという非常事態に陥ったが、今年は無事開催されることが出来た。映像とスチル写真の融合が大きく進んだ昨今だが、果たして今年はどんな展示があったのだろうか?

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今年もパシフィコ横浜で「CP+」が開催された。天候にも恵まれ、大変な人出であった

スチルカメラ系の展示会には「当たりの年」と「谷間の年」がある、といわれる。これは、カメラの世界最大の祭典であるPhotokinaが2年ごとの開催であるためで、Photokina開催直後には新製品が出尽くして、その後しばらくの間の展示会には新型カメラがほとんど出品されない状態となるのだ。2014年秋にPhotokinaが開催された直後の今回のCP+2015は、まさにその「谷間の年」に当たる。では、谷間の年の展示会は「外れ」なのかというと、実はそうでは無い。谷間の年は新型カメラがあまり見られないというだけであり、周辺機器や基礎技術が一気に伸びるので、プロには本当に役に立つ展示が多い年なのだ。

今回のCP+も谷間の年の例に漏れず、業務に直結するような非常に役立つ展示が多かった。読者諸賢もCP+のカメラ本体の記事には見飽きている頃だろうし、今回は周辺機器を中心に、オタク視点でお送りしたいと思う。

独特の地位を築いたプロ向け動画エリア

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プロ向け動画エリアは定番化しつつある。ただ、スチルカメラへの動画機能搭載が当たり前になった近年は隔離されている感が強まっているので、もう少しスチル写真との融和の工夫が欲しいところ

まずは、PRONEWS読者諸賢が一番興味があるであろう「プロ向け動画エリア」からご紹介したい。このコーナーでのポイントは「プロ」というのが動画のプロだけではなく、スチルのプロを主な対象としている点だ。その為、他の展示会では見られない様な製品も多く、小さなコーナーながら、毎年必見となっている。

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BMPCC用Retroflexは、今回一番の拾い物だ。BMPCCで8mmスタイルでの撮影が出来る

プロ動画コーナーでのオタク社長的、一番の拾い物はライトアップブースに展示されていた、Blackmagic Pocket Cinema Camera(BMPCC)用RIG「Retroflex」だ。

これは、BMPCCを昔の8mm風に仕上げるRIGで、フルHD連番、マイクロフォーサーズマウントながらもスモールセンサーという同カメラの特性を考えると(つまり、4Kに比べて多少の手ぶれは容認出来るし、ピントもそこまでシビアでは無い)、同カメラの特性を最大限に伸ばす最適なRIGであると言える。このRIGは早速購入の手配をしているので、入手し次第どこかでご紹介したいと考えている。

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自立可能なビデオ一脚mp-90Vは、4K簡易撮影の期待の星だ。大判素子RAW映像などは無理だろうが、小~中型素子の圧縮映像なら何とかなるかも知れない

続いて、同じくプロ動画コーナーで見つけて購入したものをご紹介したい。台湾の三脚メーカーエースビルブースの一脚「mp-90V」は、ビデオ雲台対応で自立出来るという優れもので、これは早速購入の手配をした。

筆者は今まで自作のスチール製の重たいビデオ用一脚を使っていたので、それがカーボン製になるだけで大変ありがたい。4K動画は手持ちでは不可能なので、手ぶれを殺すためにはどうしても三脚がいる。しかし、三脚が使えない場所も多いため、撮影者は色々と工夫をしている。安定強化型の一脚はそうした工夫の代表例だと言えるだろう。ただし、この一脚の自立パーツははめ込み式の試作品で、実用はこれからだという。これも早速試してみたい。

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SKYWAVE Transmitterは、低価格ながら実用レベルの4K伝送装置であり、これで一気に4Kの普及が考えられる逸品

周辺機器の充実といえば、欠かせないのが伝送装置だ。ランサーリンクブースでは、同社の得意な無線では無く、有線の「SKYWAVE Transmitter」で4K伝送を成功させていた。何と、その距離、300m!スポーツ中継すら可能な伝送距離だ。無線装置と違って格安なのも特徴だそうで、実売が大変に楽しみである。

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LibecブースではALLEX Sの参考出品である400mmバージョンが大変な注目を集めていた

「プロ動画コーナー」最後の目玉は、Libecブースの参考出品スライダー「ALLEX S」の400mmバージョンと1200mmバージョンだ。従来の映画的な制作手法を意識した800mmバージョンと異なり、400mmバージョンは狭いエリアでの短時間スライドを想定していて、例えばブライダル撮影などでの用途が考えられるという。反対に、1200mmバージョンは完全に映画向けで、2台のALLEX三脚を使って一般スライダーのようにきちんと安定させてからの使用を想定しているという。

特に400mmバージョンは、日本のテレビ系撮影における平均3.5秒というカット時間を考えると必要十分な長さであり、ブライダルビデオカメラマンのみならず、スチルカメラマンの注目も集めており、こちらも実売が大変に楽しみであると言える。

オリンパスブースはユーザー協力開発の新境地に

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オリンパスブースはユーザーで大いに盛り上がっていた

今回は周辺機器を中心に、と書いたが、厳密には一つだけその範囲を超えている機材がある。それがオリンパスブースの新型カメラ「OLYMPUS AIR」だ。とはいえ、わざわざこのカメラを紹介するのには訳がある。実はこのカメラ、センサーとマイクロフォーサーズマウントだけのカメラであり、その操作はiPhoneなどのスマートフォンアプリで行うというもの。ただ、そこまでは既存のカメラでも存在している。動画機能もフルHD30pまでであり、機能単体では物珍しいものでは無い。

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OLYMPUS AIRは開発環境をハードウェア面までオープンにしたとんでもないカメラだ。ブース天井のレールを這っている監視カメラ風のカメラも、実はユーザーが開発したもの

OLYMPUS AIRがとんでもないのはその先で、実はこのカメラ、アプリデータや開発SDK、ボディの3Dデータまでもが公表されていて、ユーザー側でその対応ソフトのみならず、3Dプリンタなどを使ってボディに付け加えるハードウェアまで自由に行うことが出来るという仕様になっているのだ。

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OLYMPUS AIRの単体では、最近流行りのレンズ装着式のマウントカメラに見えるが、その本質は開発環境をオープンにしたことにある

同社では、これを「OPC Hack & Make Project」と呼び、ネット上で早速ユーザー向けにデータを公表し始めている。早速様々なパイロットユーザーがその応用方法を公表しており、さらにはサードパーティ系等他メーカータイアップの新機材の噂も聞く。SDKや3Dデータまで公表したことで従来のサードパーティの枠組みを遥かに超えた展開が予想され、今後の展開が大いに楽しみなカメラだと言える。

KOWAブースはついにPROMINARの3焦点が出揃う

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KOWAのPROMINARレンズはついに3焦点が揃った!レンズ同士の色の差も無く、セットレンズとして活躍しそうだ

昨年のCine Gearで衝撃的な復活発表を行ってから注目を集めている「KOWA」の「PROMINARレンズ」だが、このCP+でついに、12mmと25mmの2つの焦点距離のレンズが市販バージョンで展示されていた。これで、既存の8.5mmを合わせれば3焦点が整ったことになり、マイクロフォーサーズマウントで換算すればそれぞれ、17mm、24mm、50mmと、映像撮影に必要な基本3焦点が揃ったことになる。

まだスチル写真用のボディのみの発売ではあるが、同レンズ独特の絞り構造でクリックを外した絞り操作が可能になるため、映像業務にも大いに役立つだろう。何より、今旬のマイクロフォーサーズマウントだというのがいい。それぞれ緑、銀、黒の3色が揃っているため、カメラや撮影環境に合わせてカラーを選べるのも優れたところだ。

気になる撮影画質は「PROMINARレンズ」の名に恥じない暖色を意識した色鮮やかなもので、ビデオ系の撮影のみならず、小規模映画撮影にも十分に耐えられるクオリティを出している。昨今流行りのRAWやLogなどの広域ダイナミックレンジ保存系の技術との相性も良いため、大威に活躍が期待出来るレンズだろう。

Panasonicブースはプロ志向に

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Panasonicブースは、GH4の新機能「4K PHOTO」に力を入れていた。これぞ、映像とスチルの融合の姿だ

Panasonicブースは、同社製4Kカメラ「DMC(AG)-GH4」の新ファームにある動画切り出し撮影機能「4K PHOTO」の展示に力を入れていた。この機能を使うことで、UHD30pの映像の中から常にExif情報を伴ったフォトクオリティの切り出しを出来るようになり、シャッターチャンスのシビアな、例えばファッション関係の撮影や、自然環境の撮影にも活躍が期待出来る、という。

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ついにPanasonicにも点検サービスコーナーが!各種イベントやプロスポーツ大会で定番化して欲しい!

それとは別にPanasonicブースが注目を集めていたのは、「LUMIX無料点検クリーニングサービスコーナー」の設置だ。Panasonicスチルカメラの弱点として、他のプロ向けカメラメーカーとは異なり、プロ向けサービスがあまり充実していないことが挙げられていた。カメラは汚れ、壊れるものであり、イベント現場などでのこうしたオンサイトサービスの有無は非常に大きな差となっていたのだ。同コーナーの設置は、先行他社のプロサービスを彷彿させるものであり、もし、仮にこうしたサービスが定番化すれば同社製カメラでも十分にプロユースに耐える展開が予想出来る。今後に期待してエールを贈りたいコーナーであった。

TOAST TECHNOLOGY社ではついにモーションスライダーシステムを展示!

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すっかり映像屋にもおなじみになりつつあるTOAST TECHNOLOGYブース

赤道儀メーカーTOAST TECHNOLOGYブースでは、以前から赤道儀技術を生かしたタイムラプス装置「TOAST Proシリーズ」を展開してきた。中でも昨年のコンセプトモデル「TOAST Pro Delicious」はその画期的なセンサー数と自動化技術で映像への応用の可能性を示し、発売こそされなかったものの、大きな話題をさらった。毎年意外な視点から素晴らしいコンセプトモデルを出してくる同社。今年はどんな製品を出すのだろうと思ったら、すごい製品を出してきた。

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「TP-7」モーションスライダーシステムは、もし市販化されればこれほど期待出来るものは無い

その名も「TP-7」モーションスライダーシステムだ。この「TP-7」は、ベルトとアーム付きのネジ、そして本体だけという非常にシンプルなもので、スライダーは付属していない。ブースではLibecのALLEX Sに設置されていたが、適合するねじ穴さえあいていれば(そしてもちろん精度とスライダー自身の適正な粘りさえあれば)多くのスライダーに設置することが可能だという。

展示品は赤道儀メーカーの同社製品らしく、タイムラプスを意識した非常にスローな設定だったが、まだコンセプトモデルということで、もし市販されるとすればある程度の速度の製品も考えられるのでは無いだろうか。

確かに赤道儀技術があれば、モーションスライダーは類似の技術で制作が可能だ。しかもその精度は既存のモーションスライダーメーカーがどんなに頑張っても届くところではないだろう。実製品の発売があるとすれば、これほど楽しみなシステムはない。

総括

以上、駆け足で周辺機器をご紹介してきたが、いかがだろうか?谷間の年といいつつも、本当に素晴らしい周辺機器が出そろいつつあるのがわかるのでは無いだろうか?こうしたカメラ以外の機能の進化こそが、スチルカメラ機材との境目を無くし、映像撮影の進化を一気に推し進めることになるだろう。もはや、映像屋にとってもCP+は欠かせないイベントなのだ。

さて、今回の記事の末尾で恐縮だが、私事ながら、昨年7月に起きた突然の息子の急性骨髄性白血病のため、この連載にも半年強のブランクがあいてしまった事を心よりお詫びしたい。おかげさまで息子も先日、治療を終えて無事に退院することが出来た。この間辛抱強く待って下さった編集部の方々、特に編集長、そして何よりも読者の方々には心より感謝をしたい。これからはこの感謝の気持ちを込め、息子の入院前よりももっともっと濃密なオタク度の濃い記事を出して行こうと思う。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。