映像制作にクラウドファンディングは必要なのか?

長編映画「千年の糸姫」への協賛金が少しずつではあるが集まりだした。企画書の在り方や書き方も従来とは違う物になっていて、今はそれを持って一人一人に会い、思いを伝え、協賛、協力のお願いをしている段階だ。それとは別にイベント等に参加してプレゼンテーションを行ったり、この連載同様、活動の初期段階からできるだけオープンにしていこうと努力している。

そんな中で「一番最後の手段」だと思っていたのがクラウドファンディングだ。なぜ最後かというと、それには二つの理由があった。一つは現在行っているような、不特定ではない人と直接会い、この映画とそれを作る思いをしっかり伝えた上で、製作仲間として協力を戴きたいという考えだ。もう一つはクラウドファンディングの持つ「目標額に到達しなければゼロ」というシステムがどうも何かのゲームのように思えて、正直良い印象を持つ事が出来なかったからだ。

PTC63_13

MotionGallery

ところがそんな私の勝手な思い込みを吹き飛ばしてくれるような素晴らしいクラウドファンディングを見つけた。それがMotionGallery(モーションギャラリー)だ。これは日本映画に特化しているとも思えるファンドシステムで、既に数々の映画の資金調達を成功させている。このサイトを運営する株式会社MotionGalleryの代表取締役、大高健志(おおたかたけし)氏に早速お話を伺った。

PTC63_01

株式会社MotionGallery代表取締役 大高健志氏

大高氏:元々私は東京芸大で映画の製作/プロデュース、つまりデベロップメントや資金調達等を学んでいました。そんな中で僕が好きなインディペンデントやミドルバジェットの映画が日本の業界的には減ってしまっていると感じ、特にそれにお金を出す企業が減って来ている状態で、何か新しい方法で(映画の)資金調達をしなければいけないという思いからこのシステムを始めました。

それが2011年の7月です。震災直後ということもあり、一般的にクラウドファンディングという言葉の印象はチャリティーとかNPOの資金集めというイメージが強かったのですが、私は始めから、映画を始め、音楽やアニメーション、アート等のクリエイティブを生み出す為のクラウドファンディングだという目的がありました。

うん、やっぱりそうだったか。私もクラウドファンディングという物は「ITビジネス」というイメージを持っていたが、大高さんのきっかけとバックグラウンドはやはり映画にあった。このコラムでも度々言っているが、プチシネの世界を作ろうと思えば制作もプロデュースもデベロッパーもオーディエンスも全部が変わらなければいけないと思う。そういう意味では製作の分野でこういう新しい事を始めている人がいるというのがなんとも嬉しい。また、実際私も様々な人に映画の資金を出して頂けるようにお願いしているところだが、それはチャリティーとか寄付とかいうものとはなんとなく違うという気がしていた。大高さんはそこの考え方もはっきりしている。

大高氏:クリエイティブを生み出す活動には文化的チャレンジや新しい視点といったものが必要で、それに対して投資って相性が悪いはずなんです。その相性の悪いクリエイティブとお金を結びつける方法として、「共感」でお金を集めて、「制作した作品」で返していく循環を作っていこうと。それがMotionGalleryなんです。

基本的に、出資、投資というのはお金を集めてお金で返さなきゃいけないので、作品が売れるという前提が必要なんですが、その優先順位が高くなりすぎると確実に動員が計算出来そうな安牌な作品が増えてしまい、それではクリエイティビティは存在し辛くなってしまう。お金をお金で返すという事はそういう事で、だからクリエイティブと投資は相反する局面も多々あると思います。別の考え方と循環が必要というのがMotionGalleryのスタートなんです。

PTC63_11

とても文化的、というか、文化の「根」になるところから考えていらっしゃるところに感銘を受ける。つまりクリエイターが好き勝手やる事がクリエイティブだというのとは違い、文化という形で存在するには循環という形に根ざしていなけらばならないという所がとても素晴らしい。

また、私がこのMotionGalleryに惹かれた理由の一つに、他のクラウドファンディングにはない二種類の資金調達方法があるという点があった。一つは従来の方法と同じ、目標金額と募集期間を決めて、それに達しなかった時にはゼロになるという「コンセプト・ファンディング」。冒頭でも言ったが私はこのゲーム性みたいなものが好きになれない。

MotionGalleryにはもう一つ「プロダクション・ファンディング」という、目標額に達しなくてもそれまでに集まったお金は支払われるというシステムも用意されていて目的に合わせて自由に選ぶことができる。サイトにはそれぞれの特徴や注意点が丁寧に説明されているが、「プロダクション・ファンディング」の方は期間終了後、集まった資金がすぐに支払われるため、例え思うように集まらなかったとしてもそのプロジェクトを取りやめる事はできない。だから確実性のあるプロジェクトに向いているという。

大高氏:うちもスタートして三ヶ月くらいはAll or Nothingのコンセプト・ファンディングしかなかったんですよ。それはゲームというよりは「目標額が集まればそれだけのニーズがあるという事が確認できるので実行する」という論理なんです。でもとあるプロジェクトで目標額へ到達するのが危うい状態になった時、平行して行っていたスポンサー集めでクラウドファンディングという新しい手法でも資金を集めているって事も話題になり、そこそこの資金が集まり、実行がほぼ確定になったんです。

でも、MotionGalleryの方では目標額に到達しなければ原則的にはお返しするルールになっているので、それまでお金を出していた人の方から「キャンセルされても困る」「せっかく支持したのに、それがキャンセルされた上で制作・上映されたのではやるせない」等のご意見を頂きました。まぁそれはルールだったので変えられなかったんですが、幸いそのプロジェクトは目標額に到達したので事なきを得ました。

その後、確かに制作が決まってるのにキャンセルというのはおかしいなと思ったのと、今の日本の状況でクラウドファンディングで全額制作費を集めようというのはまだ無理があるので、その一部をクラウドファンディングでというのなら集まった分だけというのも理にかなってると思い、二つの方法を選べるようにしたんです。

日本のクラウドファンディングの手数料が20%というのが常識のようだが、このMotionGalleryは10%というのも大きな魅力だ。

大高氏:クラウドファンディングが海外で始まった時は10%だったんです。だからそこは国際基準に合わせないと日本で広がっていかないなと思いました。結局クリエイターの為にと言っておきながら20%取ってたんじゃ嘘になるじゃないですか。だからうちは最初から10%なんです。それは哲学の違いですね。

大変心強い。やっぱりこの人は文化人なんだと思った。実際サイトの成果を見てみると、私の予想以上に資金が集まっている。金額もさることながら、その人数だ。こんなにもクリエイティブに対して応援してくれる人がいるんだと嬉しくなった。このシステムは確実に我々制作者と支援者の間に新しい橋をかけてくれている。これからはきっと作品のテーマ性やそのプレゼン能力が問われる事になっていくだろうが、望む所である。

例えば特典の工夫や動画の利用、パイロット版の制作など、できる事はたくさんあるはずだ。少なくともここで支援に手を上げてくれる人は興行収益による金銭的見返りや、出演者の人気や知名度にはさほど拘っているようには思えない。作品の内容、チャレンジとイノベーション、つまりはクリエイティビティそのもので勝負できる土俵なんだと思う。クリエイターも切磋琢磨し、その中から上質な作品がたくさん生まれてくればオーディエンスも目を向けてくれるだろう。ひょっとしたら興行収益も見込めるような時代がやってくるかもしれないし、そうなって初めて文化と呼べるのだろうと思っているし、それを目指してやっていきたいのだが、大高さんはどう見ているのだろう。

PTC63_03

大高氏:簡単には出ない答えですね…。答えが見えていれば誰かがとっくにやってると思いますが、(「作る」はできたとしても)「売る」という事はそうとう難しいと思っています。短期的な視点で考えると、「Web公開を主流にし、初めの公開を劇場ではなくて、Webで当たれば劇場で」って事になってくるんだと思うんですけど、リスクは減るものの売り上げも当然減ると思うんです。今の音楽業界の変遷をみると単純なデジタルシフトが必ずしもユートピアではないなとも感じます。

悲観的にはなりたくないんですが、単純に分からないというのが正直なところです。もしあるとすれば、音楽業界がサブスクリプション型配信モデルの売上的な行き詰まりを見据えてライブに回帰している様に、映画上映もイベント化するというのはあるかもしれませんし、すでに始めているひともいますね。実際インディームービーで人を集めているのは監督が舞台挨拶に来るとか、イベント化してますよね。

MotionGalleryのプロジェクトでもドライブインシアター復活プロジェクトが大変盛り上がりました。そのような体感型で鑑賞体験を楽しめる様な上映形態等に取り組んでいく事で映画から離れていた人が懐かしんで来てくれたり、そういうイベントとして人を惹き付けるというのはアリかなと思います。もし本当にそうなるとすれば、仕組みやシステム以上に、劇場・配給・製作者それぞれの立場にいる方々の情熱やアイデアが非常に重要になってくるのかもしれません。

制作者の思いとサポーターの満足は一致しているのだろうか?

最後に聞きたかったのはサポーター達の声だ。なんでこんなに多くの人がお金を出してくれるのか、上映会に惨敗した私にとってはにわかに信じられないことなのだが。その理由とは?この新しい架け橋の上で制作者の思いとサポーターの満足は一致しているのだろうか?

大高氏:理由は作品によって様々ですね。テーマに共感するとか前作のファンだとか、ただもう一つ、MotionGalleryという場で作品を掲げていくことがある種の祭みたいなムードになっている場合もあります。また、作品・製作者の思い・支援者の思いが一致しているかどうかというのは非常に重要になってきます。クリエイター側が単にお金を集める目的にやっちゃうと一致しませんね。

例えば必要のないアイドルを出して握手券を特典にするとか、確かに売れるかもしれませんが(作品の)ファンにはならないでしょうし、へたしたらトラブルにもなるし公開しても観に来ないかもしれない。やっぱり本当にやりたい事をきっちり提示する正直さ、真摯な態度が大事なんだと思います。そうすれば正しい形でお金と人が繋がっていくし、その方が完成、公開後も広がりが大きいと感じています。

PTC63_09

実はこのインタビューの席に「千年の糸姫」のプロデューサーも同席していて、我々もこのシステムを利用させていただく事に決めた。期間は6~9月の予定だが、それまでにできるだけの準備を整えていきたい。大事なのはその期間中もプロジェクトが確実に進行している事を証明、報告していく事だとのアドバイスを戴いた。これは我々のような小さなチームの得意とするところだ。何よりも人と繋がり、作品ができる過程からファンを増やすことができるというのは大きな魅力だ。正直に、真摯な態度で挑戦していきたいと思う。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。