txt:ふるいちやすし 構成:編集部
もうひとつの短編作品〜地方発信からはじまる映画
「千年の糸姫」での群馬県下仁田町の皆さんの協力は更に心強いものになりつつあるが、実はそれとは別に8月の末に埼玉県飯能市で短編を撮るチャンスを頂いた。これは株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーが主催する沖縄国際映画祭の一部門で、地方発信の映画を集めて上映しようというもの。よしもとが制作にも積極的に関わり、飯能市が主体となって一本の映画を作るというプロジェクトの監督を引き受けた。
以前にも書いたと思うのだが、私自身、映画による地域活性という事には大変興味があり、意義を感じている。とは言っても、映画を作る事によって地域振興に繋げるにはただ地方でロケをすればいいというものではない。私なりの考えをこのプロジェクトの会議でも最初に提案してみた。
制作活動自体をこの地域の物にするべきだと言う考え方
まずはこういうプロジェクトにありがちな地域の観光案内的な内容に偏ることなく、映画として作品価値のある内容にしようという事。実際、飯能市の観光地というものはほとんどロケ地に選んでない。それよりも映画が作品としていい物であり、それが生まれた場所が飯能市であるという事の方が意味があるし、生まれたというからには、できるだけ地元の人材を活かして、制作活動自体をこの地域の物にするべきだと訴えた。
ただし、作品の質を落とすような事になれば本末転倒なので、主要な役にはプロの役者を使う。このバランスが大切だと。そうしてミックスする事によって、地域の方々にもプロの美意識や緊張感と技術、集中力に触れることができる。この私の提案に、よしもとはもちろん、飯能市側も二つ返事で賛成。地域の有名人を出演させるとか、名店を紹介するとか、そういう事は全く必要ないと言って下さった。
ただここで一つの提案があった。飯能市でなんと高校生が作った映像制作会社JME(日本メディアエンタープライズ)というのがあり、すでに各種イベントや講演会の記録、アーティストのPV等の仕事を行っており、飯能市としても応援したいとのこと。残念ながら映画はもちろん、大判センサーのカメラも扱った事がないというが、私の考える地域振興で私ができる事は種まきだ。彼らにこの経験を通じて映画を作るという事を植え付けていきたいと考えた。
それは将来、彼ら自身で映画を作ることになるかもしれないし、例えば私のような作家や監督が一人で来ても、優秀なスタッフがその地域にはいるということであればとても魅力的なことになるだろう。素晴らしいロケーションに溢れる地域だからこそ、その地を知り尽くした技術スタッフがいてくれればこれほど心強いことはない。そこで決して私たちの下働きをさせるのではなく、ロケハンから付き合わせ、その方法や着目点を教え込む。ミーティングのやり方、オーディションの開き方、リハーサル、必要な撮影許可申請、またその全てをメイキングとして作品にするようにしてもらった。完成後に行われる試写会イベントの時に、彼らの活動のプレゼンテーションとして上映されることだろう。
つまり作品だけを残すということよりも、活動自体が作品だという考えだ。東京やハリウッドから映画を誘致したところで撮影のケアやエキストラといった事ぐらいしかできないのが現状。私は実際に映画を作るということの種をまいていきたいのだ。
それが変わる時、全てが変わる
美意識、緊張感、技術、集中力。残念なことだが地方の人にこれらが欠けていることを認めざるを得ない(まぁ、東京にもそういう人は山ほどいるが)。ただスポーツではないので、逆に言えばこれさえ研ぎ澄ませれば、ロケーションが手近にある分、素晴らしい映画を作るチャンスは東京よりもある。それができてしまえば、もう直接海外の映画祭に応募すればいい。
だがどうしても「そんな大それた事!」「地方でこれくらいできれば大したもんだ」という意識が邪魔をしてしまっているのだろうか、制作者やスタッフもそうだが、役者たちにも研ぎ澄まそうという気運が薄いように感じる。そこだけは今のところ、誰かが見せる事で教えなければいけない。そうして人材をその地に残すことが、連鎖的に伝わることを望んでいる。
現に私と共に動いたスタッフは短い撮影期間の中で(ずいぶん怒られもしたが)確実に意識は変わり、動きも速くなってきた。地元の役者達にもプロの役者に求める事を同じように求めたし、一緒に演じているプロからも刺激を受けたようで、少なくとも数人はもっともっと自分を磨きたいという気持ちを持ち始めたようだ。こういう機会がもっともっと必要かもしれない。だが確実に効果はあるという事が分かった。これは全国いたるところでやってみたいと思う。
立場と思いは同じではないかもしれないが、よしもとクリエイティブ・エージェンシーも沖縄国際映画祭の地域発信映画という部門でかなり真剣に、そして地道に地方にアプローチしていると感じた。これはこのコラムで「全ての立場の人が全部変わらなければならない」と言い続けている私にとっては大変嬉しいことだ(上から目線で申し訳ない!)。担当者が直接自治体へ出向き、制作を細かくバックアップしている。名前のある自社タレントも出演させ、広報力を上げようともしている。そして沖縄で大きな出口も用意している。こんなことはそうそう出来ることではない。確実に映画と地方を盛り上げていこうという気概に溢れている。
実は「千年の糸姫」のロケ地、群馬県下仁田町でも同じような事をやろうとしている。下仁田町の隣の南牧村、またその奥の上野村の両方に役場が運営するケーブルテレビ局があり、そこにはカメラマンもディレクターもいる。もちろんその人たちも映画は未経験だが、できるだけ彼らと行動を共にすることによって、ここにも種を蒔いていきたいと心から思っている。
実際、これを機会にこの地域でのフィルムコミッション、それも技術スタッフ付きのものを作ろうという動きが始まっていて、私もそれには全面的に協力するつもりでいる。狙いは大きく、将来は観光ではなく、産業としてこの町村を活気づけてくれるような事を目指して、映画製作という活動を行っていきたい。そんな事を話し続ける私に、一人、一人と手を挙げる人が増えてきた。うまくいけばこの地に映画を作る為に残ろうという若者も出て来るかもしれない。飯能市よりも数段小さなこの町村にはとても大切な事だと思う。
第8回沖縄国際映画祭出展・飯能市地域発信型映画
「歴史の時間」作・演出・音楽:ふるいちやすし
出演:遠藤かおる、二宮芽生、西野友唯
飯能市、よしもとクリエイティブ・エージェンシー共同制作