txt:ふるいちやすし 構成:編集部

今の映画配給システムと対峙する

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「千年の糸姫」がクランクアップし、編集に入ったばかりだが、もうその後の配給・上映の事が気になり始めている。残念な事に、まだそこが決まらないまま作ってしまったからだ。以前、このコラムでインタビューをした上映側の人に、「配給が決まらないまま作られる映画は、選挙で言うなら当選の見込みもないのに立候補する泡沫候補みたいなものだ」と指摘された事を思い出す。そっくりそのまま同意できるものではないが、その言葉を忘れていたわけでもない。

今の映画配給システムに疑問を持っている私の意思を汲んで、プロデューサーも色々努力はしてくれていたようだが、結果としてまだ何も決まっていない。プロデューサーがとある配給会社に相談したところ、企画書もろくに読まず、600万円の見積りを提示されたという。資金集めに失敗し、ロケで全てを使い果たしてしまった今、そんなお金が出せる訳も無く、仮に予算があったとしても、その手の業者にその金額を支払って丸投げしようなどとは考えた事もない。かと言って、この作品をお蔵入りさせるわけにもいかず、編集~完成~映画祭という流れの中で平行して何らかの方法を考えていかなければならない。

Ustreamの日本法人が撤退をするというニュースが飛び込んできた。様々な考え方や分析がなされる中、ITジャーナリスト三上洋氏が非常に興味深い分析をしてくれている。長編映画の配信メディアとしてはあまり関係のない話に聞こえるかもしれないが、その中で語られているメディア自体の考え方が的を得ているように思えてならない。

配信者側からお金を取るビジネスは、メディアとしては無理がある。それは流すコンテンツの制作に大きなコストがかかるためだ。配信側=コンテンツ提供側は、コンテンツ自体の制作にコストをかけた上で、さらに配信するプラットフォーム=Ustreamにもお金を払わなければならない。コンテンツの出し手に課金するという手法は、顧客をプロモーションや有料コンテンツだけに絞ることになり、魅力的な配信が少なくなる原因となった。

(三上洋氏:記事より抜粋)

特にマイナーな映画に対する映画館の配給・上映システムはこれで、古典的システムだから仕方がないとも言えるが、最先端のITの世界でもこのやり方は通用しないという事が証明された形だ。中には有料配信で視聴者からお金を取っておきながら、コンテンツメーカーからもお金を取るといったメディアも存在する。これはメディア本体ではなく、間に入った別業者が代理店の如く振るまい、配信枠を売るという場合もあるが、いずれにしても我々コンテンツメーカーがお金を支払って見ていただくという事になってしまう。そしてメディアにとってはコンテンツの内容はどうでもよくなってしまう。

これでは良質な文化が生まれる訳も無く、お金だけが物を言う世界になってしまう。我々クリエイターに優しくしてくれという話ではない。我々は視聴者にとってより魅力のある作品を産み出す闘いをしなければならない。視聴者の支持によって利益を得、それがメディアに対する利益にも繋がってほしいと思う。いわばメディアは仲間であるはずだ。そういう考え方で、時にメディアがコンテンツメーカーを支援したり、メディア自体が魅力あるコンテンツを製作したりしている所だけが成功していると三上氏も指摘している。

むしろこれからが本番だ

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新しい業態と昔からある業態、ネット上と実店舗とは同じではない。新しい形を求めるなら我々もネット配信へ移行すべきなのかもしれないし、それは自然な流れだろうとも考えている。通勤通学の電車の中でスマホとイヤホンで楽しんでもらう事が悪い事だとは思っていないが、小さくてもいいから劇場に集まって一つの作品を観るというあの空間と時間がどうしても諦めきれない。劇場関係者や新しい形の上映館を作ろうとしている方々には、これからも積極的に働きかけていこうと思うし、一緒に闘ってくれる仲間がほしい。

今回のプロジェクトは終わってはいない。むしろこれからが本番だ。少ない資金でどのレベルの作品が産み出せる時代なのかを見せ付けなければいけない。編集も音楽もこれから頑張るが、それをどんな人に見せて、どんな話し合いをしていくかで、このプロジェクトの意味が大きく変わっていくだろう。

少なくとも独りの編集室に閉じこもってはいられない。本当にコミュニケーションが必要なのはこれからだ。普通のレールに乗って、映画祭に出し、その後、自主上映をするといった事は考えていない。きっと何かを変える。少なくとも変えるきっかけにはしたいと思っている。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。