txt:ふるいちやすし 構成:編集部

行き渡るエンターテインメント魂、沖縄国際映画祭

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去年、吉本興業と埼玉県飯能市のプロデュースで作らせてもらった短編「歴史の時間」という地域発信映画で沖縄国際映画祭に参加してきた。出来レース?いいや、そうではない。少なくとも地域発信映画というカテゴリーはコンペティションではなく、賞もない。つまりレースではないのだ。単純に映画を集め開かれたお祭り、本当の意味での映画祭だった。

それも半端な規模ではない。いろんなカテゴリーで集められた映画を数多くの映画館で上映し、大きな公園には大きなステージと野外スクリーン、そしてレッドカーペット。そこには沖縄の各市町村からの応援隊が集まり、各首長も来ていてイベントを盛り上げる。もちろん音楽やダンスのパフォーマンスもある。

それはもう驚きを通り越して、「なんでこんな事ができるんだ?」というレベル。そこにはもちろんテレビでお馴染みの有名人達もいるが、私達に対しても変わりなく監督と主演は飛行機代から宿泊費、更には送り迎えから会場移動まで完璧にアテンドしてくれ、同じテントで待機して同じレッドカーペットを歩く。こんな映画祭は日本国内はもちろん、世界中でもそうそうないのではないだろうか?こんな事ができるのは沖縄だからなのか?吉本興業だからなのか?

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規模と体裁だけなら巨大スポンサーと広告代理店の力でなんとかなるのかもしれないが、実は期間中私がずっと感じてのいた一つの感覚があった。それは普段私達が目にするテレビの世界だけではない、演芸に根差した吉本興業のエンターテインメント魂だ。絶対に観客を置き去りにしない。絶対楽しませる。という執念に近いものだ。全てを見た訳ではないが、少なくとも私達の作品を上映させてもらった映画館では3つのスクリーンにいつも行列ができ、作品を紹介してくれているパンフレットやポップの作り方も丁寧で、見ていてワクワクしてしまう。

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同じ地域発信のカテゴリーの中にはガレッジセールのゴリさんが監督・主演を務めた素晴らしい映画もあった。別会場では桃井かおりさんが監督・主演を務めた「火~Hee」という超マニアック(桃井さん本人も「こういう作品を日本で上映するのはとんでもなく難しい」とおっしゃっていた)な作品もあった。だが有名人が出ていようがいまいが、純粋に作品の内容を告知していて、それに興味を持ってくれた人が行列を作ってくれる。これは文化意識が高い沖縄だからなのかもしれない。

いずれにしても私達は待遇にも観客にも恵まれ、終始温かい雰囲気に包まれながら映画人としてとても幸せな時間を過ごした。

映画人としてとても幸せな時間を過ごせた映画祭

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振り返ってみて気づいたのだが、その温かさは製作当初からずっとあったように思う。決して楽な条件ではなかったが、作家としての自由を尊重していただきながら、かと言って決して丸投げではなく、吉本興業の社員さん一人一人が献身的に支えてくれていた。その時はまさかこんなに素晴らしい舞台に繋がるとは思ってもみなかったが、本当に0から10までを完成させるプロデュースは見事としか言いようがなく、そこには一貫してマイナーな演芸を尊重し、最後に観客にちゃんと届けるというエンターテインメントの真髄があったように思う。

この巨大な演芸に初めから終わりまで携われた事は本当に幸せだった。沖縄での打ち上げに顔を出して下さった、というか最初から最後まで一緒にいて下さった吉本興業の大幹部の方にご挨拶させてもらった時に勇気を出して言ってみた。さすが吉本さん、演芸屋ですね!と。するとその大幹部の方は目を輝かせ、「そうなんですよ!そこなんですよ!」と笑顔で応えて下さったのがとても印象的だった。こんな泥臭いポリシーをこんな大きな規模で具現化できる組織はそうそうないとは思う。

ただ、私は今回味わった温かさをずっと忘れずにいたい。どこかで立派な賞でも取って、階段を駆け上がって、雲の上へ上がって行くのもいいだろう。だけどやっぱり最初から真摯に映画に向き合い、作り、伝え、見てもらい、そしてみんなで喜ぶ。たとえどんなに小さな規模であったとしても、それがエンターテインメントだと思う。芸術でなくてもいい。演芸でいい。それを忘れずに、具現化できる人、チームでいたいと思う。

この映画祭が終わった後、例年吉本からDVDとなって発売される。だがそれ以外は上映も他の映画祭への出品も許されている(素晴らしい!)この「歴史の時間」という作品も、これまでは情報規制の為にあまり多くを語ってこなかったが、かなりの意欲作だ。きっとどこかで見てもらえるように機会を作っていきたいと思っているので、ぜひ楽しみにしていただきたい。

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「歴史の時間」(33min. HD Color)

埼玉県飯能市の小さな高校に、歴史好きが高じて歴史の教師になった岡田が赴任して来る。クラスでは、岡田と正反対のリアリストである奈緒が歴史研究部の部長を務めていた。ある時、突拍子もない考えから事件を起こしてしまう奈緒。しかし、そのパワーに岡田も徐々に引き込まれ、ついにはリアリズムに目覚める。葛藤や対立をしながらも、歴史を学ぶ意味、今を生きることを見つけていく物語。

主演:遠藤かおる・二宮芽生

作・監督・音楽:ふるいちやすし

製作:吉本興業・飯能市


WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。