txt:ふるいちやすし 構成:編集部

技術は進化する果てしなく何処までも…

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各メーカーの低価格業務機にも、一部のデジタル一眼レフにまでも、Log収録を可能にする機能が搭載され、それを基本にしたグレーティング環境も普及し、セミナー等も盛んに行われていると聞く。そんな中、某メーカーからLogの魅力が発揮できる素材を撮って欲しいという仕事が舞い込んだ。私自身、Logがどういうものなのかは理論的には理解しているつもりだが、正直ほとんど使ったことがない。

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今から二年以上も前に、私が所有するカメラのファームウェアがバージョンアップし、それに伴いLog収録が可能になった。そこで私はそのメーカーの人に正直に聞いた。「Logって何?」そういうアホな質問にも、いつも決して面倒くさがらずに親切に教えてくれる人ではあったが、メーカーの人は即座に「ふるいちさんには必要ないです」と。「え?いや、まぁそう言わずに…」と食い下がると「ふるいちさんのように撮影時にピクチャープロファイルを細かくコントロールして、しっかり画作りできる人には必要ないです。言わばふるいちさんがやってる事はF−Log、フルイチログですから」そう言い切る彼の表情を慎重に見極めると、どうやら褒めてくれているようだ。悪い気もしないがスッキリしない。

結局押し切ってしっかり教えてもらう事に成功したが、うん、確かに私の撮影スタイルには必要ないものだ。それ以来、使う事も興味を持つ事もほとんどなかったが、仕事とあらば仕方がない。そのカメラで初めてガンマをLogに設定し、何にも触れなくなったピクチャープロファイルに後ろ髪を引かれながら撮影に出た。

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まずはダイナミックレンジがやたら広い、つまり一画面の中に明暗差が激しくある被写体を探し回り、やっとの思いでいくつかのシーンを撮影し、ふと思った。例えば映画を一つ撮影するにしても、照明が一切使えないといった縛りでもない限り、こんなシーンはそうちょくちょくあるもんじゃないな。ひょっとするとLogというものは、たまたまそういうシーンに出くわした時にだけ使うものなのか?後日、周りの人に聞いてみたがどうやらそうでもないらしい。やはりLogで撮ると決めたらずっと通して使う人がほとんど。

そうなると明暗差があまりないシーンでは普通に撮るよりも感度が上がる分、画質が落ちる筈だ。それを承知で使うとなると、例えば表現としてではなく、うっかり明部を飛ばしてしまった時のリカバーが目的なのか?しかしそれは文字通りミステイクであって、プロのカメラマンには無縁な事だろう。それにいくら後で便利だからと言ってもLUTをかける事によって見える凡庸な画には面白みがまったく無い。しかも私が特に気を使うシャープネスのコントロールはできない。

試しにLUTを外してみると酷く眠い画。しかし最近、テレビのドラマやCMで流行りの眠い画、ひょっとするとこの「素Log画像」から作られているのかと思って聞いてみると、確かにそういう目的で使っている人も結構いるみたいだ。ちょっと面白い事ではあるが恐らく本来の使い方ではないだろう。となると、やはり「画の色とトーンはポスプロで作る」という考えのプロジェクトでしか使わないのだろう。少なくとも現場で苦労してでも画を作り、その美しさに酔いながら撮影したい私は前述のデメリットを許容してまで使わないだろう。

と、まぁ、こういう結論に至りはしたがこの撮影と迷走は決して無駄な事ではない。知らないよりは知っていた方がずっといいし、どうしても収まりきらない明暗差に苦しめられる事もあるかもしれない。そういう時の選択肢としては覚えておいて損はないだろう。

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新技術は、ある特定分野のユーザーの希望から留まる事なく生み出される。これは素晴らしい事だ。ただそれを自分がどう使うか、あるいは本当に自分にも必要な物なのかを見極めるという事は、とても重要な判断だと思う。何も犠牲にならない事であれば取り敢えず使っておくという手もあるが、そんな事はあまりない。必ずと言っていい程、どこかにしわ寄せがくるはずだ。

もはや珍しくもなくなった感がある4Kですら、カメラ、パソコン、モニター、ストレージをグレードアップし、その上ハイフレームレートでの撮影を諦めなければならないというリスクが伴う。このリスクを許容してでも今使わなければならないケースはまだ多いとは言えず、数少ない4Kプロジェクト、拡大やトリミングを多用するHDプロジェクト、せっかく買った4Kテレビにカメラを直挿しして高精細画質を楽しみたい場合、そして防犯分野等といった限られた場合であって、それもあっという間に8Kになったりハイフレームレートが可能になったりと、進化していくだろう。

そんな最新テクノロジーが自分にとって必要なのは今なのかという事は、充分考える必要がある。それを考える上で、無関心は良くない事だし、かえってリスクを負う事にもなりかねない。新技術、トップテクノロジー、トレンドだからと言って安易に飛びつかない判断力を身につける為にも映像業界全体の流れをよく見ておかないと、とんだ散財をしてしまうケースも多々あるのだ。VR、HDR、各種コーデック…。「自分にとって今」なのか?「今!」であればすぐにでも手に入れてほしいが、まずは知る事から始めて、しっかり判断してほしい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。