txt:ふるいちやすし 構成:編集部

沖縄国際映画祭に参加

昨年夏、アメリカ・ワイオミング州で撮影監督を務めたドキュメンタリー作品「TETON~山の声」(浜野安宏監督・出演)が、沖縄国際映画祭に特別参加作品として選ばれ、上映と舞台挨拶に行ってきた。沖縄国際映画祭は昨年の「歴史の時間」(ふるいちやすし:作・監督、遠藤かおる、二宮芽生:主演)に続き、二年連続の参加となるが、今年は撮影監督という立場なので派手なセレモニーなどは遠慮させていただいた。

今年も沖縄の各所で大きな盛り上がりを見せているようで、つくづくいい映画祭だと思う。那覇市の隣の、浦添市てだこホールで行われた「TETON~山の声」の上映で、私も舞台挨拶に立たせていただいたが、興味深かったのは、上映後に行われた座談会。国立公園であり、世界遺産への登録も近いとされている沖縄本島北部のやんばるの森の今後をテーマに、地元の専門家がパネリストとして参加していた。

それぞれの立場から問題提起をしていたが、自然愛好家や学者筋の方々からは保護、観光による地域活性を目指す方々は開発と、それぞれ真逆とも思われる意見が出た。この「TETON~山の声」という作品の中で浜野安宏氏が訴えているのは、保護された自然の中へ、人がドンドン入っていこうというなかなか難しいラインだが、時間と人数の関係もあり、議論というところまではいかなかったのが少し残念だった。

もう一つ残念だったのは、地元での人材育成という観点が語られなかったことだ。確かに観光が栄えればそれなりに産業も雇用も生まれるに違いない。だがやはり映画人としては、これだけの素晴らしいロケーションに恵まれた沖縄から、沖縄のクリエイターが育ってほしいし、作品もドンドン産んでほしいのだ。

ちょうど「TETON~山の声」を撮影していた時に出会い、作品にも少し出演してもらった写真家のDavid Brookover氏を思い出した。彼はワイオミングの大自然にほど近い町にギャラリーを構え、素晴らしい作品を産み出している。彼の撮る野生動物も風景も、やはりそこに住み続けていなければ決して撮ることのできないものばかりだ。

それらは決して観光写真というレベルのものではなく、アーティストとして撮影はもちろんのこと、和紙を使った独特のプリントまで、彼独自の世界観を持ち、特にカメラも4″x5″の大判フィルムカメラを多用し、よそ者には到底真似できない活動を続けている。彼の環境と活動スタイルを見ていると、東京にいて、短い旅でしか美しいものを撮ることができない自分に嫌気がさしてしまう。美しい環境の中に身を置き、そこでなくては撮れないような作品作り。そういうハイレベルな「沖縄映画」というものを見てみたいものだ。

人材は必ずいる。沖縄出身の俳優たちが東京でトップクラスの活躍をしているのは周知の事実だし、ミュージシャンを中心に、沖縄に戻り、そこで活動していこうという気運も高まっている。素晴らしいロケーションと人材が揃っているなら、あとは彼らの意識と製作環境とそれを後押しする行政や地元の人々の意識だけだ。これはほかの地方都市にも言えることかもしれないが、今回のような機会にそれがテーマに上がらないのは映画人としてとても残念だ。ただ、こういう映画をきっかけに人が集まり、身近なテーマについて話し合うことは素晴らしいことで、今後も映画の一つの役割として意識したい。

JVC GY-LS300CHがファームウェアアップデートでまた進化する!

さて、この作品は以前にも書いたようにJVC GY-LS300CH(以下:LS300)で撮影したが、そのLS300がまたまた大盤振る舞いなファームウェアの無料アップデートをしてくれる。正式リリースは5月後半だが、一足先にパイロット版のファームウェアを搭載したLS300が届いたので沖縄にも持参することにした。前回のアップデートでは外部レコーダーを利用して4K/120pというハイスピード撮影が可能になるものだったが、今回は本体のみで150Mbps/4:2:2の4K収録が可能になる。前回も驚いたのだが、これを無料のアップデートでやってしまうのだからLS300の潜在能力は素晴らしいの一言に尽きる。

私個人としては、ハイスピード撮影などのカメラの表現力と編集環境の投資を理由に、HD撮影に留まっていたのだが、そろそろ4Kでの作品製作も視野に入れておかなくてはならない。まだ再生環境として4Kを求められることは多くはないが、もちろんアーカイブとしてはできるだけ高画質で残しておきたい気持ちはある。

だからと言って、表現力とお金を犠牲にしてまでは…。というのが本心なのだが、いずれそのタイミングは訪れるだろう。今回の4K 4:2:2がそのきっかけになるのかは、もう少しテストをしてみないと分からないが、いずれにしても次々に進化する映像の世界の中で、クリエイターそれぞれが自分に必要な「高画質」を見極めなければならないだろう。

4Kがどこでどうして必要なのか?その先の8Kとは?HDR、Log、10bit?そもそも4:2:0と4:2:2の違いってどこで出るのか?合成やエフェクト、カラーグレーティングの時なのか?その編集環境はどのくらいのスペックを要求するのか?などなど。ことごとくお金と時間に関わってくる。無用の高画質化で製作機会や表現力が減ってしまうようなことがあってはならない。そんな疑問を解消すべく、今回の沖縄ではいろいろなテスト撮影も行った。これからじっくり検証して、年貢の納め時を見計らっていこうと思っている。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。