txt:ふるいちやすし 構成:編集部

千年の糸姫、世界配信へ

ついに、ついに始まった。映画「千年の糸姫(英題:1000 Year Princess)」(主演:二宮芽生、作・監督・音楽:ふるいちやすし)の世界配信。いきなりな感じもするが、実は着実に用意は進められていた。ただ、海外との初めてのやりとりでもあり、最後まで、この目で見られるまで信じられなかったというところもあり、前宣伝はひかえていたのだ。

◼︎千年の糸姫(英題:1000 Year Princess)予告編

※Amazonプライムの予告編、画質悪過ぎます

実は今も使用されるグラフィックの最終修正をするやりとりをしているところなのだが、出演者の一人から「監督!もう始まってますよ。」というメッセージをもらって慌てて確認をした次第で、とんだフライングの配信開始となった。まぁ、なにはともあれ、めでたい限りで、世界中の皆さんにぜひ見ていただきたいと心から願っている。

◼︎Amazonプライム

日本語ページ

インターナショナルページ

ちなみにAmazonプライム会員であれば無料で全編見られるし、そうでなくてもレンタルで200円、販売は1,000円(インターナショナルページではレンタル$2.99、販売$10.99とちょっと高め)で見ることができる。さらに付け加えると、これはインターナショナルバージョン(ディレクターズカット)で英語字幕が付いている。つまりロンドン・フィルムメーカー国際映画祭やアジア国際映画祭で上映したそのままの形での配信だ。画質はフルHDで、もちろんスマホやパソコンでも見られるが、願わくばせめて大きな画面で見ていただければと思う。

さて、私の疑心暗鬼から今までだんまりを決め込んでいたわけだが、この際、このコラムではどうやってここまで漕ぎ着けたのかを一つ一つ丁寧にお知らせしたいと思う。とかく出口の見えない映画製作、しいては日本の映画公開の閉鎖性なども分かってもらえると思うし、何かの参考になればと思う。

きっかけはやはりロンドン・フィルムメーカー国際映画祭だった。前にもお話ししたと思うが、この映画祭は派手なセレモニーよりも、人の交流やマッチングを計ることを主にした映画祭だった。パーティーやロビーでは各国のクリエイター達とゆっくり話し合ったり、ディストリビューターによる、公開に向けた実質的な売り込みワークショップなども開かれた。カンヌなどのメジャー映画祭と比べれば、華やかさでは足下にも及ばないが、その分気取ることなく堂々とプロモーションをできる素晴らしい環境だった。

「千年の糸姫」の上映が終わった次の日、ロビーでくつろいでいた私のところに一人のアメリカ人監督が友人のディストリビューターを連れて来て紹介してくれた。その時彼はディストリビューターにこう言ってくれたのだ。

“今回の出品作品の中では間違いなくこいつのがナンバーワンだ。”

その後30分以上、ディストリビューターは自分の会社の事や作品を探しにロンドンまで来たなど延々まくしたてた。

”おいおい、待ってくれ、君は僕の作品を見たのかい?”と問いかけると…

”いや、残念ながら今日着いたばかりで見られなかった。だけど僕はこいつの映画を見る目を信頼しているんだ。”

いかにもアメリカ人的な(失敬!)調子のいいこと言ってやがるな、と、その時は思った。そこで私は彼にDVDを渡し、とにかく一度見てくれとお願いした。正直なことを言うと、私は自分の作品がヨーロッパでは受け入れられることはあっても、アメリカ人には受けないだろうと思っていたし、その監督もディストリビューターもいかにもアメリカ人らしいアメリカ人だったので、あまり期待はなかったのだ。

帰国後一週間後の急展開

その後、最終日に最優秀監督賞を戴くという幸運に恵まれ、一度はその時のことを忘れて帰国したのだが、それから一週間ほどたったある日、ディストリビューターからメールを受け取った。その内容は、とにかく作品が素晴らしく、さっそく配給契約を結びたいというもので、なんと契約書まで送られてきてサインを求められた。

「本当かよ?」というのが正直な気持ち。だが同時に天にも昇るような気持ちでもあった。読者の皆さんならご存知であろう。私がどれほど公開に苦労をし、それが難しいことであるかを思い知り、ほとんど目の前真っ暗状態であったかを。それがたった30分話して、次のメールで世界配信の契約書!にわかに信じがたかった。とにかく一度心を落ち着かせ、その契約内容をしっかり確認することにした。

これほど真剣に英文を読んだのは高校生以来かもしれない。重ねてたまたま知人にロスアンゼルスに住む日本人弁護士がいたので、彼にも目を通してもらった。契約範囲は全世界。劇場、ホテルやイベント、飛行機の中、そしてインターネット配信。つまり全部のエクスクルーシブ(独占)契約である。契約金はなく、ロイヤリティーは50%。これは決して有利な契約とは言えず、弁護士もそこを気にしてくれた。だが、冷静に考えてみても私の目的はお金よりも全世界の人に見てもらえるチャンスを得ることだった。

仮に幾ばくかの契約金をもらえたとしても、それはほとんどの場合、ロイヤリティーの前払いに過ぎず、ロイヤリティーがその金額に達するまでは支払われない、ただの前払いだということだ。確かに前払いをすることによって、ディストリビューターもリスクを背負い、プロモーションに身が入るだろうという考えはあったが、それに対してディストリビューターは「俺たちのパフォーマンスを信じてくれ」としか言わない。

一度はお蔵入りをも覚悟したこの作品にとって、この契約を逃す選択肢はなかった。ここのところは人によって意見は分かれるところだろうし、私は大馬鹿野郎なのかもしれない。だが私はこの契約に賭けてみることにした。しかし、それにはもう一つ、クリアしなければならない問題があった。

実は今年の始めから、日本国内での劇場公開を目指し、動き始めてくれている人がいて、その時点ではまだ進展はないものの、とにかく一生懸命にやってくれていた。これもまた、どうなるか全く読めない状態なので今は詳しく言えないが、それにはお金がかかるし、劇場版として今の123分の作品を95分くらいまで短縮した再編集をしなきゃならないしで前途多難だ。今回の契約の話を真っ先に相談したのはもちろん彼だ。

かなりの時間を割いて話し合ったが、進展がない状態と前途多難なことを考えて、彼は世界配信を優先させることに快く賛成してくれた。ただ、私も彼も映画はやっぱり映画館で見て欲しい。特に日本の人には字幕に邪魔されない劇場日本語版で見てほしいという強い希望もある。そこで欲を張って、その両方を活かせるかどうかのトライをすることにした。

ここからアメリカの契約交渉が始まるわけだが、その交渉の内容に今の日本インディーズ映画の現実や世界の動向などが見えてくるので、次回細かくご紹介しようと思う。まぁ、とにかく見て下さい!「1000 Year Princess」!そしてできれば星多めに付けておいて下さい!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。