txt:ふるいちやすし 構成:編集部

映画配給会社を作ってはどうかと考えた幾つかのきっかけ

映画配給会社を作ってはどうかと考えている。おいおい、自分の映画一つもしっかり劇場公開できない奴が何を言い出すのか!と言われそうだが、うまくいかないことから私は多くを学び、その反面、世界配信を成功させたことなどから、一つの新しい道が見えてきた気がしている。

まず言っておかなくてはならないのは、それが大小含めて既存の配給会社とは全く違うスタンスで、下手をすると喧嘩を売ることになってしまいそうな、そういう意味では配給会社などと名乗ってはいけないようなものかもしれない。そして、そしてまた、あくまでメジャーの作品などを扱えるようなものではなく、強いて言うならプチシネ専用の配給システム。そもそもそれがメジャー映画と同じシステムに喰い込もうとすること自体に無理があると考えているのだ。

もちろん会社というからには収益性がなくてはならないし、製作者、クリエイターへの収益も無視するわけにはいかない。それをクリアしつつも文化面でのグレードアップも実現できるようなものを考えると、既存の映画産業のシステムにはどうしても希望が持てないのだ。システムそのものを全く別物にしなくてはならない。そう考えることになるには幾つかのきっかけがあった。

SHAMI MEDIA GROUP

その一つが、前回お話した「千年の糸姫」を世界配信に導いてくれたSHAMI MEDIA GROUPとの契約時に投げかけられた一言だ。

「劇場公開というのは、製作者や出演者が達成感を感じるための贅沢なイベントだ」

その通りなのかもしれない。だからこそそれにこだわっているわけだし、せっかく作った作品を劇場のあの環境で皆さんに観てもらいたいという思いは捨てきれないし、今もそのために改めてクラウドファンディングをやらせてもらっているくらいだ。

全然諦めきれてないが、“贅沢なイベント”という指摘には首を横に振ることができない。ならば配信などで話題になり、成功した時点で贅沢なイベントとしてやらせてもらえばいいんじゃないか?その劇場公開ファーストの考えを変えれば、今までとは全く違うシステムが浮かんでくる。

そもそも劇場公開ファーストの考え方の根底にあるのはレイトショーではなく、一日2~3回の一般上映を最低2週間やらないと映画として認められないというもの。ん?映画じゃないって?これは幾つかの国内主要映画賞にノミネートされるための最低基準だったりする。そんなのどうせ関係ないと諦めてしまえば随分楽になる。贅沢イベントならば一日でも充分価値はある。

ただし、例えそうなったとしても映画は映画だ!これだけは譲れない。実際世界的には、よっぽどメジャーな作品を除いて配信ファーストという考え方が主流になりつつあるし、確かに今も映画館に観客が溢れているインドや中国のような国もあるが、それ以上に映画館のある町まで100キロ以上もある町に暮らす人は世界規模で見ると遥かに多い。収益性の観点からも配信ファーストという考えは理に適っている。まぁ、配信においてもメジャーなプラットホームには何らかの作品規定やレギュレーションはあるのだろう。

だが私の「千年の糸姫」はすでにAmazonでは配信済だし、近くiTunesやGoogle Playでも配信が予定されているくらいなので、少なくともを日本の劇場や映画賞のような、それこそ既存の配給会社が持つノウハウや付き合いが必要なものよりずっと楽なものであることは間違いない。

実際、今回私と契約を結んでくれたSMGもアメリカの会社ではあるが、さほど大きな会社ではないし、何か特別な力を持っているようには思えない。ならば日本でもできる筈だと思うのだ。

もう一つ大きなきっかけになったのは、去年のちょうど今頃、たまたまアメリカで撮影をしていた時に出会った投資家の言葉だった。「千年の糸姫」を見た後、それが10万ドル以下で作られた作品だと知った彼は大変驚き、「もしそれが本当なら、投資家を集めて会社を作ってもいい。ただし、お前の作品だけが年に一本できるというのではダメだ。日本にはそういう人材がたくさんいるのか?」と聞いてきた。私が知らないだけかも知れないが、残念ながらその問にYES!と答えることはできなかった。

とても悔しかったが、逆に言えばそれが10本できればビジネスとして成り立つということだろう。そうなると、人材を集めるか育てるかだ。そこでこのコラムでも度々話している地方創生の考え方とも重なり、自分の中で一本の筋道が見えてきた。今までの大ヒットしたから世界進出というものではなく、初めから世界というかたち。そのほか、細かいことにも様々なアイデアが浮かび、大手代理店や放送局の力を一切借りなくてもそれは可能で、そういう時代だということだ。

もちろんプラットホームとの契約のこと、法務、会計等々。知らなくてはいけないことがたくさんある。ただ、私の実体験から見えてきたものはきっと事業の基軸になる。そういう思いで、最近はベンチャーネタを探している人や文化意識の高い事業家の人に会ってこの話を聞いてもらうようにしている。彼らの中から賛同してくれる人が現れ、本当に事業化することにでもなれば、今現在、国内のみで成立しているメジャー映画のシステムとどちらが本当のメジャーなのか分からなくなってしまうかもしれない。

そして映画に携わるクリエイター達にとっても、飛躍的な環境改善になるだろう。そしてその環境から新たな人材が生まれ、その人材が高い水準の作品を産む。そういうシステムを創生しなければならない。私が一つの作品を抱えて、ブチ当たった壁やそれを乗り越える時に感じたことを、そのために使うことができれば幸せだと思う。映画「千年の糸姫」劇場公開実現プロジェクト・クラウドファンディング実施中!ぜひご協力お願いしま す!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。