txt:石多未知行 構成:編集部
世界最大級の光の祭典
毎年12月8日を中心にフランスのリヨンで3~4日間にわたって開催される、世界最大級の光の祭典へ、二度目の訪問をしてきた。
リヨンはフランスの東部やや南に位置し、ローヌ川とソーヌ川という2つの大きな川が流れる美しい世界遺産の街である。以外に知られていないが、フランス第二の規模の都市で、スマートシティにも力を入れ経済活動も盛んだ。そして名だたるシェフたちのレストランが出店される、美食の街としても知られている。
そんなリヨンでは、2002年から現在の形で光の祭典が開かれ(光の祈りとしては17世紀からとも)、開催期間中に世界中から400万人もの人が訪れると言われている。この光の祭典の前身は、フルヴィエール丘の上に佇むマリア像に由来している。古くからマリアへの祈りで疫病の流行を退けた逸話があるなど、ここではマリア信仰が強い。そんなリヨンの人々の信仰の象徴として1852年にマリア像を設置することとなったのだが、建立公開時に川の氾濫などで二度の延期が余儀なくされ、待ちきれない市民が12月8日のマリア像建立予定日に誰とはなく蝋燭を窓辺に置き始め、その光が町中へと広がり、毎年の光(祈り)の祭典が始まったと言われている。
そんなバックボーンがある光の祭典だが、日本のようなLEDを大量に使ういわゆる「イルミネーション」ではなく、ユニークでアート性もある多様な光のインスタレーション、そしてプロジェクションマッピングをはじめとした映像などの演出が、中心市街地のさまざまな所で約50余り設置されている。
展示、演出されている作品は実に多種多様で幅が広い。この幅の広さはこの規模の祭典では重要な要素と思われ、特にアート志向の強いヨーロッパの中心にあっては、そのバランスが問われてきてしまうのだろう。アート性や現代性が強すぎてはそこに興味のない世代や観光客を取り込むことは難しく、見た目に分かりやすく写真映えするモノ、スケール感のあるモノ、楽しい作品なども必ずなくてはならない。
そしてアートな方向性として、先進性や時代性といったモノが求められ、芸術や新しもの好きな人々を擽ることも必要になる。さらにこの場所ならではといった文脈があるかどうかもひとつのポイントとなる。
フェスティバルはリヨン中心部の広いゾーンを使い、夕方からあらゆる交通が乗り放題のフェスティバルチケットが割安または無料で発行され、行政も市民も全てが一体となってこの祭典と訪れる人々を受け入れている。この数日にヨーロッパだけではなく世界中から何百万人もの人が訪れるため、市内中心部のホテルは早くから空きがなくなる状況となり、宿泊代も高騰する。祭典は夜20時から始まり24時に終了で、開催期間中は町中に人がごった返し、夜間の屋外にもかかわらず12月とは思えない熱気と賑わいを帯びる。
さて、今年の祭典の具体的な作品の一部を紹介するにあたり、光の作品と映像作品とを分けてお見せしたい。両者とも前述の様に一般の観光客向きの分かりやすいものと、アート志向なモノが混在している。
照明演出やインスタレーションについて
■PROMENONS-NOUS
光の作品ではベルクール広場での様々な花をデザインした大きな光のモニュメント群が挙げられる。この広場は人々が最も多く行き交う広場で、毎年注目度も高いのだが、今年はここに光の祭典らしいストレートな攻め方をしていた。
■LES PIKOOKS
巨大な凧の鳥が噴水広場の水上をゆったり漂う姿が強いインパクトを残す作品。池には巨大な卵、そして大きな羽がそこかしこに浮いているなど、街の交差点をファンタジーな空間にしていた。特に巨大な鳥は下で人が操作しながら、本当に生きているかの様な、不思議な光景を生み出していた。
■TIME FOR LIGHT
スケールの大きな光の作品として、毎年ソーヌ川に面した教会や大聖堂、裁判所などの巨大な建築、そしてフルヴィエールの丘全体を使った照明パフォーマンスがある。幾つもの建築と、丘の様々な場所に設置されたムービングライトなどが音楽と共に全てが連動して演出され、この規模での整った光の動きをみられるというのはなかなかできない体験である。
■ABSTRACT
メディアアート性の高いものとして、最近流行りでもあるキネティック(物理的に物が動く)な作品が今回も取り入れられ、屋外に設置されていた。この作品は三角形のプレートが昇降する作品で、LEDが埋め込まれた無数の三角形がダイナミックに連動し、音、光、物理的な動きが三位一体になっている。とても洗練されており、シンプルで見飽きることがない。
■STRATUM
旧市街の狭い広場に長さ1mほどの無数のLEDバーが垂直に置かれ、人の手の動きと連動して、音と光を奏でる作品。白い点や線が人の動きで気持ち良くコントロールされ、時折混じる赤い点の連なりが広い面として感じさせる演出で、シンプルなこの作品に奥行きを与えていた。
■LES LUMIGNONS DU COEUR
蝋燭を使ったこちらの演出は、光の祭典の原点の流れを汲んだ企画。古代劇場内で顔や祭典のロゴをかたどったものと、扇型の階段に無数の蝋燭がレイアウトされている。蝋燭の火の光に、ゆっくりと色が移り変わる照明も加えられ、とても豊かな色彩を放っていた。
■RUGBY PASS PATH
今回10名程度のメンバーと訪問したのだが、そこで好評だったのがこちらの作品。人の動きをモーションキャプチャーで捉え、それをチューブライトの中のLEDが再現している。昨年はサッカーのシュートをキーパーがキャッチするものだったが、今年はラクビーのパスが使われていた。光の点が人の動きを室間に出現させ、目が慣れるとその動きにしか見えなくなってきて面白い。
■GOLDEN HOURS
噴水広場を直径20mは超えるであろう透明な巨大ドームが覆っている作品。クリストの作品を想起させたが、巨大なものが空間を覆ってしまう力強さと違和感はとても印象に残る。夜間には時報と共に光の演出も施されるようになっていて、多くの人を魅きつけていた。
プロジェクションマッピング、プロジェクション作品について
この祭典では多くのプロジェクション演出、プロジェクションマッピング作品が街の様々なところを彩り、多くの人を集める人気の企画になっている。
■UNISSON
光の祭典のプロジェクションマッピング企画で最もアート性や先進性が求められる会場のサンジャン大聖堂。前回最もインパクトを受けた作品が上映されていたので、期待値を高く持って鑑賞した。
今年の作品は色彩と光のパーツが巨大な教会のファサードを彩ったり、立体的に再構築したりするのだが、ムービングライトの光や音楽と合わさってとても生き生きとした表情を見せていた。プロジェクターの明るさや解像感の助けもあるが、照明に負けない色と光の発色で、本当に一つ一つの映像のピースが発光している様に感じられた。過剰なストーリーや演出はないのだが、光と色彩のデザインに絞り込み、シンプルでとても美しく強い作品だった。
■BALĀHA
フルヴィエールの丘の中腹にある古代ローマ劇場はフェスティバルの定番となっているマッピング会場のひとつ。
今回は「馬」をテーマにした作品で、ショーの中では、なんと様々な光をまとった本物の馬と、背中に炎の羽を生やした人が乗って登場するなど、とてもインパクトがあった。古代劇場の客席の石段に投影されている映像も、繊細で美しく、物語のファンタジー性をとても良く演出していた。
■INSERT COIN
ベルクール広場から見える位置の郵便局とベルタワーを用いたプロジェクションマッピングで、二人の子供がゲームの世界に入り込むといったもの。Mr.Beamという古くからマッピングに携わっているチームが手がけ、二つの建物をうまく連動させながら、解りやすいゲームと現実が混ざった世界を作っていた。
■GUIGNOL SUR LA COLLINE
古い建物(4階建)を使ったプロジェクションマッピングの作品で、子供達が製作に携わっているという異色の試み。リヨンの伝統的な人形劇の手法を用い、そこにやはり地域の童話を題材にした紙芝居の様な作品に仕上げている。祭典に地元の文化や子供達を取り込んだ試みがあるというのは、祭典の地域性と幅を広げる意味でもとても意義がある。
■ENOHA FAIT SON CINÉMA
毎年この祭典で行われる最も大きなプロジェクションマッピング。会場エリアへは、決められた動線で初詣の様な行列に並ぶこと1時間弱でやっと入れる。数万人の人が常に集まっている場所で、プロジェクションマッピング企画として最も存在感がある。
作品の内容としては、毎年子供でもわかる様な内容になっているのだが、今回は一人の少女が様々な映画の主人公になり、いろんな映画の名シーンへ旅をするといったごっこ話となっていた。
カンファレンス、ネットワーキングパーティ
この祭典は市をあげて取り組みを行いながら、そこに世界中の光の祭典をネットワークしている組織の「LUCI(LIGHTING URBAN COMMUNITY INTERNATIONAL)」が大きく寄与している。海外の様々な祭典に参加していると、必ずその中でのコミュニティやネットワーク活性を睨んだカンファレンスやパーティが用意されている。今回の祭典でもそうした会に参加させてもらったが、欧米ではこうしたネットワーキングの場がとても重要な機会となっている。事実こうした場所から別の祭典へ繋がったり、ビジネス機会創出の場ともなっている。私自身もこの会を通じて多くのフェスティバル主催者やクリエイター、プロデューサーと交友させてもらったが、幾つかは今後の具体的なプロジェクトへと進み始めている。
まとめ
まだ2回しかこの祭典を体験していないのだが、2016年と比べると、若干アート性や先進性が弱くなっている様に感じたものの、フェスティバル全体の幅という意味では充実していた。世界中から人が集まる背景には、日本ではあまりお目にかからないような、都市部での大きなスケールの祭典であること、世界遺産の町で観光地としてのポテンシャルが高く宿泊施設も整っていること、老若男女が楽しめる幅広いコンテンツ、時代の先端アートを体験できること、ここで祭典を行う歴史的な文脈があり、そして世界中の光の祭典関係者や知見が集まる場所となっている点などがあるのだろう。
映像や光を扱う人は是非一度訪れてみてもらいたいと思うと同時に、日本のクリエイターや作品、そして技術が、こうした国際祭典のフィールドで活躍してもらいたいと切に希望したい。