txt:奥本 宏幸 構成:編集部
Design Week Kyoto2018コラボ企画
どうも、のびしろラボの奥本と申します。今回もマッチポンプ的に自分の作った映像作品をレポートする。まずはこちらをご覧ください!
Design Week Kyotoというイベントで職人×DJ×映像作家のコラボ作品を作ることになった。Design Week Kyotoでは毎年、世界的クリエイターと京都の職人のコラボをしている。今回はDJの世界大会のDMCで5連覇の偉業を成し遂げているKIREEKに白羽の矢が立った。筆者はKIREEKのLIVEでVJをやったり映像作品を一緒に作ったりしている関係もありお呼ばれした。
ジェイアール京都伊勢丹に設置されたDesign Week Kyotoの特設ブース
Design Week Kyotoとは「京都をよりクリエイティブな街に」をテーマに、京都各所にある工芸などの工房や工場が期間限定でオープンし、交流を促進するイベント。
KIREEK 左DJ YASA、右DJ Hi-C
作曲のための映像素材を撮影する
KIREEKと音が鳴るものを取材しながら撮影
まずは曲の元となる音を収録しに京都へ向かった。Design Week Kyoto代表の北林氏が作業中に音が鳴りそうな職人さんをブッキングしてくれた。Design Week Kyoto本来のイベントのように工房をどんどん回っていく。スケジュールの都合上1日で5軒を回らなければならず、一軒当たりの撮影時間が短かった。照明を立てる時間もないので高感度で撮影できるSony a7Sで撮影を行なった。職人さんの工房は基本的に撮影するには明るさが足りないところが多い。ISOを3000ぐらいまであげてもノイズが感じられないSony a7Sはこういう撮影にはとても助かる。また小さい筐体なので様々なアングルから撮影することもできる。機織り機の糸の隙間などにカメラを入れるなど面白い映像が撮れた。
Eレンズの光学手ぶれ補正と気合いでスタビライズ
音収録はRODEの音カメラマイクVideoMic Goを使用。本来であれば指向性の高いガンマイクなどを使い高音質で収録するべきなのだが、機動性を優先しこのマイクの選択に至った。幸い、職人さんの工房は静かで作業を近くで撮影できたのでそこそこ綺麗に音は収録できた。
1万円以内のカメラマイクの中ではかなり音質は優秀(※個人の感想です)
作曲に必要な音を探しながらの撮影はいつもと違う目線で面白かった。普段の撮影は映像メインだが耳を澄ましながら撮影していると「あ!この音はここでなっていたのか!」「この作業でこんな音が鳴るのか!」など新しい発見があった。
中でも三浦仏像彫刻所の仏師・三浦氏の工房で「他に音がなるものはないか?」と探していると三浦氏が仏像の頭を前後に開け「ポン!」という音を奏でてくれた。実は大きめの仏像は大きな木一本から彫って作るのではなくプラモデルのように木でパーツを作り組み立てているのだ。仏像の顔も前後で分かれており中は空洞。木と木がきっちり密着しているので開けると異常にいい音がする。さすが職人技。新しい音との出会いにKIREEKの二人も興奮していた。
仏像の頭は組み立て式
映像から音をサンプリングして作曲する
作曲に使えそうなシーンを荒く素材編集し、KIREEKに映像素材を渡す。それを作曲ソフトウエアAbleton Live9に取り込み、使えそうな音やセリフを抽出して作曲していく。
Ableton Live9の作業画面
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KIREEK氏:今回はベースに和の雰囲気の曲を作ってその上に職人さんの音を載せていきました。職人さんの作業音は元々リズムがあるので作曲に使いやすかったです。木の切断の機械音は長く発音しているのでスクラッチがしやすく動きもスクラッチ感がわかりやすい素材でした。伝統的な技と僕らの現代の技が交わるとどうなるかなど楽しみながら作曲できました。
曲が出来上がったところで各チャンネルごとに音と映像を書き出してもらう。Ableton Live9は映像も書き出すことができる。書き出したチャンネルごとの映像素材をAdobe Premiere proのタイムラインに並べる。こうすることで音と同期した映像がどこにあるかわかりやすい。Ableton Live9での映像書き出し時に劣化があるので今回は素材を渡す際にTCを焼き付けて、Adobe Premiere proで素材と差し替えるようにした。そして音以外の部分を荒く編集した後、KIREEKと相談しながらスクラッチを入れる部分などを決めて行った。
Adobe Premiere proの作業画面。Ableton Live9のタイムラインを力技で再現
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映像をスクラッチ!
仮編集の曲に合わせてさらに映像スクラッチを足していく。デジタルDJのソフトウエアSerato Videoを活用。映像ファイルを読み込むことができ、DJが音を扱うように映像を操作できる。音のエフェクトに合わせて映像のエフェクトをかけることも可能なのだ。スクラッチした映像とスクラッチしている手元を同時に収録していく。Macの外部出力で映像を全画面出力しBlackmagic DesignのUltraStudio Mni Recorderでキャプチャする。スクラッチの手の動きはカメラで収録する。Mac上ではQTプレイヤーで録画。この時音声はPCマイクに設定した。カメラの音声とほぼ同じものが入るのでAdobe Premierep Pro上で同期が取りやすい。音はDJソフト側で収録しそれをKIREEKが曲として完成させる。その音源をもらいスクラッチ部分を足してさらに編集を仕上げていった。
Serato Video の操作画面
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映像スクラッチの収録システム図
低照度の白ホリで演奏シーンを撮影!
曲が出来上がったところで白ホリのスタジオを借りてDJ演奏シーンを収録。「職人の音をサンプリングしている」ということをわかりやすくするためそれぞれの職人の家紋風グラフィックをあしらったジャケットとレコードを製作した(デザインはH2Kgraphics松下氏)。
機材はSony a7SとDJI OSMOを使用。照明が少なかったのでa7SのISOをあげて白を飛ばす。OSMOは移動ショットを撮るのに使用した。専用の延長ロッドを取り付けクレーンのカメラワークに似せて撮影。しかし、a7Sほど高感度ではないのでノイズがかなり出る。そこでノイズは編集段階でデノイズすると割り切って撮影を行なった。
仕上げ編集。意外と綺麗に抜ける白ホリ合成
職人シーンと演奏シーンを組み合わせて編集し、カラコレで色を整える。予定ではなかったのだが少し白バックの部分が寂しかったので演奏するKIREEKの後ろにグラフィックを入れることにした。マスクを切ろうと思ったがそんな時間もないので「なんちゃってマスク合成作戦」を実行してみた。Adobe After Effectsのエフェクト「白黒」でモノクロ映像にし「レベル」でコントラストを最大限まで濃くして白黒のマスクを作る。それを元に合成するという簡単なものだ。撮影素材によるが、グリーンバックよりも照り返しがなくて綺麗だ。エッジは多少白が残ったりするが元の白に合成するなら気にならない。撮影時に被写体の白の部分が白ホリよりも明るすぎないように取っておくと綺麗に合成できる。
合成後の映像
エフェクト「白黒」と「レベル」で作ったマスク。かなり雑だが合成後は違和感なし(※時間がある時はちゃんとマスクを切ることをお勧めします)
工芸とデジタルクリエイティブのコラボを終えて
スクラッチ素材用にインタビューも行なった。それぞれのものづくりに対する思いを伺えた。一見、工芸とDJや映像製作はかけ離れているように見えるが、本質的なものづくりという部分では多く共通点もあり、信念や考え方を聞くことができとても勉強になった。職種の垣根を超えて意見を交わすということは新しい何かが生まれるきっかけになるというのを肌で感じられた。Design Week Kyotoでは各所でそんな何かが生まれたに違いない。
ワンマンオペレーション制作の是非
結局、演出・撮影・編集・モーショングラフィック・合成を一人で行った。今回は作曲をするKIREEKと撮影段階から意見を交わしながらの制作だったのでワンマンオペレーションスタイルがスムーズにやり取りができて理にかなっていた。
前提として筆者は映像制作において分業の良さを重々承知している。やはりカメラマン・照明マンが丁寧に作った映像は繊細で素晴らしい。美しさではワンオペではかなわない。そして分業でやっていた方がいろんな意見が入ってより良くなることも知っている。またその逆も然りだが…。限られた枠の中で最大のパフォーマンスを出すにはどこを削ってどこを増やすか?というやりくりの選択肢が多い方がいいと思う。そうやって知恵を出すことで新しい表現も生まれるのではないでしょうか?
何が正解かわからないなーとモヤモヤしながら今日も編集しています。