txt:ふるいちやすし 構成:編集部
今後のプチシネ業界の行く末を思う
第100回!ご愛読ありがとうございます!ずっとずっとプチシネ、自主製作とかショートムービーとかに拘らず、小さな規模で製作される映画の世界が向上する為の提言を続けてきた。作品の品質が向上するように、製作環境や上映環境がより整うように、だがそれはどれか一つだけでは意味がない。全てが向上して初めて意味のある世界になる。で、今どうなのかというと、満足には程遠く、向上の方向へも向いていないのではないかと、つい悲観的になってしまう。
前回書いたように、テクノロジーだけは飛躍的に向上しており、その分、製作現場が楽にはなっている筈だ。だがその分作品は向上しているのか?ギャラは上がっているのか?このアンバランスが気に喰わない。残念ながら向上どころか後退しているように思う事すらある。中には低予算をまるで自慢するかのように言いふらしている奴らもいる。それは粗悪なクオリティに対する言い訳なのか、単なる清貧自慢なのか、いずれにしてもそれがニュースになれば、また環境は後退してしまう。
自分達だけはそれで名前を売って次の仕事にありつけるかもしれないが、それで映画を作るという事がどれだけ安く見られ、全体の予算が削られる事になるのか考えられないのか?例え本当にその低予算で作ったのだとしても、役者やスタッフにちゃんと満足のいくギャラを支払っているのか?監督や脚本家も自分のギャラを確保できたのか?そういうものをちゃんと計上したものが発表すべき本当の制作費、映画の価値だと言えるのではないのか?心配しなくても、例えその全部を計上したところで、映画祭で言われる低予算映画というカテゴリーのレベルを超える事はないだろう。
実際はノーギャラや交通費だけでもやる人はいるだろうし、それは悪い事だとは思わないし、自分にとってそれだけの価値があるならむしろやるべきだと思う。だが、それを世間に自慢してそういう人達や作品の価値を貶める事だけは止めてもらいたいものだ。実際に使ったお金に本来支払わなければならないものも加算して公表すべきだと思う。それが実質的なその映画の価値だし、税務申告だけ正直にやっていれば罪にはならないだろう。
私は今も諦めずにプチシネのクオリティーと環境を高める為のレーベル作りを続けているが、スポンサーとなり得る人と話をする度に、意識のギャップに苦しんでいる。笑ってしまうが300万円で作った映画で数十億の収益があると本気で考えている人もいる。それには本当に困ってしまうが、仮にスポンサーが見つかったとして、果たして世界基準のプチシネができる人材がいるのだろうか?レーベルというからには一人や二人ではどうしようもない。正直言うと私自身、他の人の作品にはあまり興味がない。だが、ここ数年は本気で才能と美意識のある映画作家を探しているし、その可能性のある人には惜しみなく自分の知り得るノウハウを伝えるようにしている。まだまだ時間がかかりそうだが決して諦めないつもりだ。
映画にまつわる様々な情報や交流を支援するサイト「シネマプランナーズ」がよい!
草の根活動というか、畑を耕すような活動を別の角度から行っている人や団体もある。その一つがWeb上で映画にまつわる様々な情報や交流を支援するサイトを運営するシネマプランナーズ(代表:寺井隆敏氏)という会社だ。正確を期すためにサイトから転載させてもらうが、
シネマプランナーズはプロ・アマ問わず、一歩上をゆく映画制作・製作を目指す人たちのための、映画制作・製作支援サイトです。 役者(キャスト)・出演者、スタッフ・メンバー募集やオーディション情報、作品募集・公募やコンペティション情報、映画祭や上映会などのイベント、ワークショップの告知など自由に投稿していただくことができます。 また資金調達のためのクラウドファンディングや アルバイト・インターンシップ・求人情報も掲載していきます。
という事だ。素晴らしい!実際、オーディションをやろうとしても発信力が乏しければ人は集まらないし、その分、優秀な才能に巡り会えるチャンスも少ない。その情報を求める側の役者やスタッフにとっても、フリーランスや所属事務所の力不足で圧倒的にチャンスに恵まれない人達がいる。その間を取り持つパイプ役になってくれている。
このようなサイトやフォーラムは他にもあるようだが、シネマプランナーズはWeb上の掲示板だけには留まらず、代々木にスタジオを持ち、オーディションやワークショップ、リハーサルなどの会場として、安価で貸し出していくという。これは是非私も利用したいし、こういう有り難いシチュエーションを盛り上げていきたいと心から思う。
先日、このスタジオのお披露目も兼ねたサロンパーティーが催され、私も参加させてもらったのだが、会場に入りきれないほどの映画関係者が集まり、熱気に包まれていた。役者、監督、プロデューサー、カメラマン等、あらゆる映画関係者がそれぞれ活発にアピールし合っているのを見て、以前書いた事もある海外映画祭でのパーティーの事を思い出した。総じて自己アピールが弱い日本人はどうしても部屋の隅っこに固まってしまう事が多い中、このアピール合戦はとても心強い状況だし、そういう事が堂々とできる雰囲気作りはシネマプランナーズのお陰だと思う。そんな中から名作名演が生まれれば、彼らがやっている事の意義が一気に高まる事だろう。
私に対しても何人もの役者がアピールに来たが、一つ残念に感じたのは、せっかく積極的にアピールをするのなら、プロフィールや写真などの手渡せる資料を用意しておくべきだっただろう。特にフリーランスで連絡先もわからないようでは折角のチャンスを棒に振る可能性もある。かと言ってこちらから電話番号やLINEを尋ねるのもちょっと気がひける。そこを押して繋がったとしても、キャスティングの会議などではやはり資料は必要なのだ。欲を言えば出演シーンを集めたデモリールを配って欲しいと思う。私達はルックスだけではなく、当然芝居を見たいのだ。
これは海外の役者は必ずといってもいいほどやっている事で、Vimeoにパスワードを付けてアップしておくのも便利だ。名刺の裏にアクセスQRコードとパスワードを書いて渡せば簡単な事だ。まだ満足できる出演作がなかったとしても、まず作ってみる事だ。それを毎年より良いものにアップデートしていけば活動の励みにもなるだろう。それが出来るまではとにかく作品に出ること。但しエキストラみたいな役では意味がない。ちゃんと芝居ができる役なら自主映画であろうが手弁当であろうがまずは芝居を残す事。芝居をしない役者は試合に出ないアスリートと同じだ。もちろん私達製作側も同じだ。そろそろ次の作品を作らなきゃな。そういう思いがどこかで噛み合えば良いのだが。