爺の嫌がらせメイン画像

txt:荒木泰晴 構成:編集部

機材が増えて、収集つかない状態に

はじめに

さてお立合い、諸先輩、ご同輩の皆様。映像業界にいれば、齢を重ねるに従って、カメラ、レンズ、付属機材、フィルム、デジタルデータが嫌でも増えていきます。

機材の量が少ない若いカメラマンは切実ではないかもしれませんが、明日は我が身。

自宅1階の機材室。もはや収拾がつかず

新型カメラが発売されるたびに思い悩み、懐具合と相談しつつ、奥様の眼をかいくぐり、なんとか購入するものの、旧機材も捨てられずに、どんどん部屋が狭くなって行きます。

「アナタ、何だかカメラが増えたみたいね」

「いやいや、気のせいだろ」と、はぐらかしても奥様の眼はごまかせません。

爺の機材は多過ぎて、何が増えたか判らないくらいありますが、常々、家内からは「アンタが死んだらこの機材どうするの」と詰問され、「こんなマックロな汚い物、早く捨てなさい」と非難されます。「新品で買えば数億円」と言えば、目を輝かせて「早く売りなさい」

千葉県印西市の倉庫

「余命を宣告されたら、値札を付けておくから、オークションにでも出せ」と息子に言ってありますが、機材のコンディションが良くなければ、売れませんし、全部売れる保証はありません。廃棄するにしても「処分代をください」と業者に言われるのがオチです。

せめて、その日が来るまで、カビやサビ、フィルムの劣化を防がなければなりません。

爺が実行している保存方法が最適とは思いませんが、カビやサビが防げているのは事実なので、ご参考までお読みください。

日本の保存環境

金属やガラスで構成されたカメラ機材にとって、高温多湿化が進んだ日本の夏は厳しい環境であることは間違いありません。温度が高いだけで湿度が無ければカビにとっても快適な環境ではありませんが、多湿になると始末に負えません。

また、台風によって塩分が運ばれてくると、更に環境が悪化します。サハラ砂漠で細かい砂がカメラやレンズの隙間に入り込むのも困った経験でした。日本の海岸のロケでも塩分と砂には苦労します。

スーダン、サハラ砂漠。海岸の砂と違って非常に粒子が細かく、風が吹くとどこにでも入り込む

石垣島、マンタ。海の水中撮影は塩分と湿気との闘い

高温、多湿、塩分、砂、これらの要素が絡み合って、機材の寿命に影響してきますから、清掃、整備と湿度を下げる対策が不可欠です。

夏が過ぎ、気温が下がって爽やかな風が吹き始めると、「今年もやっと夏を乗り切ったな」と毎年感じています。

カメラマンの性格

カメラマンには2種類の性格があります。

  • (01)自分で使う機材は自分で所有したい。基本的にカメラやレンズが好き
  • (02)整備が面倒なのでレンタルショップから借りる。機材に触るのも嫌いで、助手任せ

さてアナタはどちら?

この分類に当てはまらないのが、

  • (03)撮影はしないが、機材をやたらに集めるコレクター

機材、特に中古レンズの価格が吊り上がります。爺はどれでもありません。

  • (04)日本はおろか世界でもレンタルして使える機材が無かったので、仕方なくオリジナルを作り、他社には無い機材を持っているために仕事の依頼が連続したので、結果的に増えた

ビスタビジョン、35mm3面マルチカメラ、35mm 9面360°サークルビジョンカメラなど、クライアントの注文に従って作りましたが、極めて特殊な例でしょう。

機材の量

フィルムからデジタルへ切り替えた会社が、不要になったフィルムカメラやその専用レンズ、編集機材を捨て始め、「捨てるならください」と、現在でも引き受け続けているので、やたらに増えてしまいました。

爺の機材リストには、フィルム映画カメラ67台、映画用レンズ278本、スチルカメラ53台、スチル用レンズ226本が記載されていて、出入りはありますが、こんな数で推移しています。

千葉県印西市の友人の倉庫を間借りして、カメラ本体の大部分を置いています。搬入の時は2トン車2台分の量になりました。

倉庫の棚

三脚だけでこのありさま

16mmスティーンベック、2台

アリフレックス35III。ロッカーが大きくなると、湿気取りを頻繁に交換する

アリフレックス16STを収納するプラスチックケース。なるべく高い場所に置いて、湿気を避ける

自宅には、主要なフィルム映画カメラボディ、スチルカメラ、レンズの全てを保管しています。

動画フィルムやビデオは、九州大学芸術工学部にアーカイブとして寄贈しましたので、DVDにコピーして残してあります。スチルフィルムは、キャビネット3台分と、モノクロのネガファイルがケース1個分。デジタルデータはほとんどHDDに保存しています。

スライドを収納するキャビネット3台

ムシューダ(左上)、フィルム劣化対策剤(左下)、ムシューダ(中)、湿気取り(右)

18歳から71歳の現在まで、廃棄、下取り交換した機材を含めると膨大な量になりますが、受注して、制作費をいただくためには必要な投資でした。

売るのか、保存するのか、使うのか

市場に戻せるものは、譲渡や販売もしています。最近では65mm15P(アイマックスサイズ)のMSM9801カメラ本体一式を、IMAX社の要請により販売しました。

アイマックス社へ販売(里帰り)したMSM9801

9801の内部

9801用1000フィートマガジン

このように実用に供されるカメラは「保存するより使ってもらった方が良い」のは当然ですが、1995年の購入以来、20年以上コンディションを維持する費用と手間を考えると、とても引き合う価格では売れません。

爺は、カメラとレンズは不可分だと思っていますから、オークションに出す場合も、セットで出店します。ところが落札者の要望は「ボディはいらないから、レンズだけ送ってくれ」という場合がほとんどです。これでは、レンズ無しのボディが増えてしまいますから、売買不成立になってしまい、結局、「保存せざるを得ない」ことになります。

使って動かしている方が良いコンディションを保てるので、初心者が無料で16mm機材を自由に試せるように「16mmフィルムトライアルルーム」を開設して、現在に至っています。

「博物館を作れ」と言う声もありますが、「カメラは見るもんじゃない。触って使うもの」で、動態保存でなければカメラではありません。

とは言え、爺に限らず、お宝だと思って機材を集めるご本人はいいですが、アナタがいなくなったら「ただのゴミ」になるのは明白です。皆様の場合はいかがでしょうか。

爺の保存方法

では本題。

■(01)防湿庫

アナタの頭に最初に浮かぶのは防湿庫に入れることですね。

爺も、5台の大型電気防湿庫と何台かの湿度計付きの防湿箱を使っていて、全てのレンズとスチルカメラを入れています。フィルム映画カメラは大き過ぎて、収納しきれません。

1階の3台の防湿庫

3階の2台の防湿庫

湿度計付きプラスチックの収納箱

一番困ったのは、アナログ湿度計とデジタル湿度計の表示が違うことで、どちらを信用していいか判断できませんでした。そこで、デジタル防湿庫にアナログ湿度計を入れて、他と比べたところ、アナログ湿度計の表示は平均して揃っていますので、アナログを基準に湿度調整しています。

デジタル33%、アナログ約45%

アナログ約40%

デジタル48%、アナログ約35%

アナログ約50%

実際は、写真のように全て表示が違っていますので、判断に迷います。また、乾き過ぎると、グリスや布幕フォーカルプレーシャッターには悪影響がありますので、適正な湿度に保つ必要があります。

それでも夏場は不安なので、湿気取りを入れ、なるべくカビを繁殖させないよう、防カビ剤も併用しています。

■(02)密閉できるプラスチック容器とカメラ専用アルミボックス

データを保存するHDDはプラスチック箱へ入れ、部屋のなるべく高い所へ置き、倉庫のフィルム映画カメラを収納したアルミボックスと同様、湿気取りと防カビ剤を併用するのは防湿庫と同じですが、完全に密閉することはできませんから、入れ替えが頻繁になり、費用と手間と根気が必要です。

HDDは湿気取り、ムシューダを入れて高い所に置く

スチルカメラの対策も同じ

■(03)部屋に放置する

最も簡単で有効な保存方法です。人間にとって快適な環境は、カメラにとっても望ましい環境です。ケースから出して転がしておくか、吊るしておきましょう。目につけば埃を掃除したくなります。ただし、奥様からは目の敵にされることは覚悟してください。

手前から、アリフレックス35II B HS、ペンタックス67レンズ群、iXL870(65mm8P)、ミッチェル35 MK II

(04)使え

太陽光の下で使っている機材にはカビは生えません。「日光消毒」が有効です。

防湿庫に入れておくと安心かというと、グリスも水分を含んでいますから、長い間には乾いて来ます。「使っていても、放置しても、保管しても、年月が経過すれば性能は落ちるので、整備が必要」ですから、多くの機材を持てば、多額の費用が掛かります。

「何のために稼いでいるの」と、家内に言われなくとも「わかっちゃいるけど、やめられない」のが現実。

防湿剤と防カビ剤

写真用となると、どちらも高価ですね。

爺は、1個57円程度の「湿気取り」と洋服ダンス用の防カビ剤「ムシューダ」1枚31円程度を、20年以上使っています。これを約半年ごとに、30個ほど入れ替えます。今のところ、機材に悪影響は見られません。

湿気取り。メーカーは問わず

ムシューダ

安価な「ナフタリン」はグリスを固化させますから、使えません。

最新の薬剤

2018年のInter BEEで「フィルム劣化対策剤兼カメラ・レンズ保管剤」がフィルム缶メーカーの株式会社足柄製作所から紹介されていました。

フィルム劣化対策剤のチラシ

爺は試しに、「1万円で買えるだけ送ってください」と注文したところ、8枚入りのアルミパック、9袋が郵送されて来ました。1枚138円ほどです。この価格が高いか安いかは効果次第ですが、写真のネガを入れたケースに使って、長期テストしています。

フィルム劣化対策剤

何でカビが生えるのか

カビが目立つのはレンズの表面と内部です。カビが育つ栄養があるとは思えませんが、しぶとく根性で生えてきます。ビニール袋で厳重に密封すればするほど逆効果で、乾燥剤と防カビ剤を併用しない限り安全ではありません。カビの生えないレンズコートができないもんでしょうか。

アルミダイキャストのボディも手入れを怠ると、白く粉が噴いて来ます。どちらも「赤ちゃんのような繊細な世話」が必要です。

結局、これがベストか

結論

「使う以外の機材は持たない」のが爺の結論です。

機材収集マニアのアナタに言っても「聞く耳を持たない」のは承知ですが、爺の経験と自戒を込めて、「機材はペットと同じ、寿命が尽きるまで養うべし」と書けば、家内は「何を偉そうに、まず妻を養いなさい」と、文句を言うでしょう。

お互いに苦労しますなァ。

御退屈様。

WRITER PROFILE

荒木泰晴

荒木泰晴

東京綜合写真専門学校報道写真科卒業後、日本シネセル株式会社撮影部に入社。1983年につくば国際科学技術博覧会のためにプロデューサー就任。以来、大型特殊映像の制作に従事。現在、バンリ映像代表、16mmフィルムトライアルルーム代表。フィルム映画撮影機材を動態保存し、アマチュアに16mmフィルム撮影を無償で教えている。