Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

「フィルム・ジャパネスク」発足ときっかけ

ご報告!前々から提唱していた映画のインディペンデントレーベルを社団法人フィルム・ジャパネスク(Film Japanesque)として4月に発足することになった。

もうずっと温め続けてきた事で、途中、大手企業のスポンサード話も持ち上がったりしたのだが、そのトップレベルの人は文化的意義に大いに乗り気であっても、結局経営現場のサイドは事業計画の数字しか見ず、「で?来年どれくらい利益があがるの?」といったスタンスでお話にならない。まぁ、仕方ないといえば仕方ない事なんだが、こうなったらまずは自分一人でできる規模から形にしていこうと思い、発足を決めた。

フィルム・ジャパネスク第一の目的は、主に海外の日本ファンをターゲットとした、上質な日本映画を製作し、配信していくことだ。なので、富士山や芸者というわけではないが、例えば考え方や生き方に、どこか日本を感じさせる作品に限って制作していこうと思う。今のところ、手元にある資金では短編を2~3本作るのが精一杯だが、これは私の作品ではなく、新しい才能を持った監督・作家のものにする事に決めている。ただ、その才能には未だに巡り会っていない。

正直に言ってしまうと私自身、作家としては他人の作品にはあまり興味がなかったのだが、特にこの1年は積極的に上映会や映画祭などに足を運び、本気で才能を探してきた。しかしいつも「まだこんなことやってんのか?」と呟いてしまうほど、稚拙で古臭い作品にしか巡り会えない。

またそういう人に限って、ちゃんと映画学校を出ていたり、国内の映画祭で賞を取っていたりするからタチが悪い。ただ、そういうクリエイターや作品に対して上から目線でバッサリ切り捨てる自分もどうかと思うので、光るものが一つでもあるなら、レーベルとしてそれを一緒に昇華させなければならないと思っている。

例えば今話をもちかけているのは一人の女流写真家で、素晴らしい美意識とテーマを持っているが、映画は撮ったこともないし、ストーリーを意識したこともないという。映画作家には程遠いようにも思えるが、これまで観てきたインディペンデント映画で私をガッカリさせてきたポイントの最たるものが、映像に対する美意識の無さだ。彼女は少なくともそこをクリアしている。後は私がフォローできるかもしれないし、導き方次第で彼女自身でやれるようになるかもしれないし、できればそうなってほしいと思う。

そういう意味でフィルム・ジャパネスクでは育成、教育にも力を入れていくつもりだ。クリエイターだけではなく、演者に対しても、オーディションの一発勝負に賭けるのではなく、世界レベルの演技を身につける為に、一から導いていこうと思っているし、その準備も研究もできている。

具体的な内容に関しては来月発足後に順次発表していくつもりだが、我こそは!と思う人はすぐにでもコンタクトしてきてほしい。すぐに製作に取りかかることもあるかもしれないし、作品を一緒に練り上げたり、必要とあらばスキルを高めるワークショップに参加したりと、様々なレベルで直接話ができればと考えている。まだホームページも出来ていないのでfuluichiyas@gmail.comまで直接連絡して欲しい。

フィルム・ジャパネスクが目指すもの

フィルム・ジャパネスクが目指すクオリティーというのは、あくまで私が海外の映画祭での受賞やそこで耳にした各国の人々の言葉を通じて感じた個人的なものだが、この際、一般論はどうでもいい。レーベルごとにそれぞれの美意識があり、それに特化した作品が集まっていることが大切なのだ。

今はどんな映画もAmazonやNetflixの中に入ってしまえば、ジャンルの検索まではできても、それ以上の個性は検索できない状態だ。ある個性に特化したレーベルが色々あって、それぞれのレーベルにレーベルのファンがいる状態が映画の世界にも必要だろうし、実際、音楽の世界ではそうなっている。

私は作家であると同時にレーベルディレクターでもあるわけだが、その立場と感性ははっきり分けて考えていて、テーマ性や題材はあくまでそれぞれの監督・作家の個性を生かすことを考えている。それを高いレベルの作品に導いていくのが私の役目だと思っている。

このコラムでも何度か口にしたこともあるとは思うが、映画は文学であり、美術であり、役者の声やSEも含めた音楽であるべきだ。この内どれか一つでも特化した美意識を持っている作家や監督がいれば、その他の部分を一緒に昇華させ、クオリティーの高い作品に仕上げていきたいと考えている。もちろん全てにおいて素晴らしい美意識を持っている人なら、私は何も言わない。

ただし、一点、海外の方から見て、日本の素晴らしさが感じられるというのをフィルム・ジャパネスク作品の個性にしていきたいと思っている。それは日本人の我々にとっても、日本美を見つめ直すいい機会になると思うし、実際、そういう類のバラエティー番組も増えてきているように思う。世界のいろんなところでいろんな人に憧れられて、尊敬すらされている日本の美意識が、昔の時代劇やヤクザ映画ではなく、今の日本映画に現れていないのはなんとも残念だ。

今の日本の現実として、狭い都会の片隅で美しくもない暮らしを見せる為の映画があってもいいとは思うが、そればかりではたまらない。とはいえ、桜や着物だらけの観光案内では映画にならない。今の日本映画としての存在意義のあるテーマを、どう美しく描いていくかがフィルム・ジャパネスクのポリシーだ。

「そんなのつまらない!」と思う人がいるなら、ぜひ対極のレーベルを立ち上げて、新たな映画を見せてほしいものだ。そういうフラッグがいっぱい立てば、日本映画は盛り上がる。巨大な映画配給会社には決してできないような映画文化を作り上げていきたいものだ。

とは言え、音楽の世界ではあのVirgin Recordsも、スタートは町のレコード屋からだったという。今や航空会社まで持っているヴァージングループだが、フィルム・ジャパネスクもひょっとするとひょっとするかもよ!はじめは超低予算の短編映画から始めるが、いずれメジャー映画会社も真似できないような贅沢な映画作りができるようなレーベルを本気で目指している。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。