Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

プロのアーティストだという身分証明

続くコロナ禍の中、アーティスト支援も色々あってありがたい限りなのだが、なかなか簡単に申請が通らない状況のようだ。前回触れたアーティストの文化庁の持続化補助金でも苦戦している声をよく耳にする。そのためか、始まった当初は3次までの予定で、予算が無くなり次第3次募集もなくなる可能性があるとされていたのに、どうやら4次募集もあるとの噂が広まっている。

私自身は10月中に実行可能なものという点で諦めたが、みんなが苦戦している点はもう一つ、プロのアーティストだという身分証明だ。それも代表者だけではなく、参加者全員の個人証明が必要だというのだから、そりゃ通りづらいわ!常々私は“本物のアーティスト”と“プロのアーティースト”というのは別次元だと考えているので、お役所の求める身分証明というのにもいささか首を傾げている。

特にプチ・シネレベルで作品を作ろうとした時に、メンバーの中にはその道で生計を立てている人ばかりではないこともある。じゃあ支援しない!と、経済支援という意味では道理に合っていても、アート作品のためだというと、どうなんだろう?この文化庁の支援に限らず、私の知っている限りの支援プログラムでも参加者一人一人が個人登録をしないといけない物が見受けられるが、そうしないと代表者のところへお金が全部いってしまい、製作費として使っちゃって、結局個人への支援にならないという危険性もあるという。

個々人に行くお金の中から、製作費を徴収するのは心苦しいし、衣裳や美術、ロケ費用などは代表者としての自分の分から支払う事になり、私だけがすっからかんになってしまった事もあった。まぁ、どこかで線引きは必要なんだと思うが、もう少し現場を知って欲しいというのが正直な感想だ。

これからもまだ新しい支援プログラムがあるかもしれないから、自分だけではなく、メンバー構成自体も考えないとお役所との溝は埋まらないから注意して欲しい。身分証明という事に関しては、私個人が籍を置いている日本映画監督教会が身分保障ができる団体だったので簡単だったが、そういう団体は数多く存在するわけではないし、入会にも厳しく実績が問われたり推薦人が必要だったり、安いとは言えない会費も必要になる場合がある。

例えば芸能プロダクションではそういう証明書は発行できない。ただし、そう言った所でも継続的な雇用契約・所属契約みたいな物が書面で存在していれば一つの証明になるだろう。今、口約束だけで所属している人はこれを機会に契約書を交わしてもらった方がいいのではないかと考える。

あと、重要なのは確定申告だ。それも給料ではなく、はっきり出演や撮影の報酬としての収入があることが大事で、特にフリーランスの人はこれが鍵となる。謝礼や機材レンタル等の名目でもらっている人は、これもこの機会に改めた方がいいかもしれない。

そして最後に最も重要なのは活動実績だ。出演や製作の実績。特に今回の文化庁の助成は、その規模や回数も厳しく求められるし、多くの人がここでふるい落とされているようだ。少なくともせっかく関わった作品に対しては、その証を残しておく必要がある。フライヤーや新聞など各種メディアの記事、動員実績なども残しておこう。

こういう事を書いていると、私が考えるアーティスト像とはかけ離れて嫌になってしまうが、”プロ”である事を証明するということはそういう事なのだ。こういった一つ一つの事が、お役所と話をする時には大切だという事を私自身も思い知った。嘘はいけないが、せっかく参加した作品があるなら、それを実績としてマメに残しておくことは必要なのだ。そして何より、作品にはどんどん参加しよう!

ピンチをチャンスに変えて作品作りする

そんな中、三重県伊勢市が「クリエイターズ・ワーケーション」という興味深い支援プログラムを打ち出した。残念ながらすでに締め切られてしまい、私も応募しただけで、通るかどうかも分からないのだが、伊勢に滞在してアート作品を製作しようというもので、その間の全員の宿泊費と一人当たり5万円を助成するというもの。

これもまた、全員がプロで、それぞれ個人登録が必要とのこと。伊勢は個人的にも縁が深く、映画を作ろうと思えば、私の分の5万円ではとても無理なんだが、出演者の宿泊費が出るというので応募を決めた。一つの条件として、7日以上滞在する事というのがあるが、出演者やスタッフにしても日当計算すれば1万円に満たないし、儲かる話ではないのだが、とりあえず台本も何もないまま、プロの証明ができそうなメンバーに声をかけ、それぞれに個人登録をお願いした。

私のアイデアではロケ地にも制約があり、難しい企画ではあるので、実際に通るかどうかは五分五分といった所だろう。このように地方自治体やその他の団体からの助成プログラムは大きなニュースにもならないし、なんならこちらから「何かない?」と聞いてみた方がいいかもしれない。

儲け話はそうそうないが、それで作品を作る助けになるのなら迷わず応募した方がいい。それは何もアートに関する助成だけではなく、実は今原稿を北海道の網走のホテルで書いているのだが、これもアートとは関係なく、網走市が観光産業のためにやっている「さぁ、ホテルで暮らそうキャンペーン」というものを利用して来ている。

網走のいくつかのホテルに1週間で12000円で泊まれるというもの。こちらは今年いっぱいやっているし、もちろんプロでもアーティストでなくても構わない。Go Toキャンペーンとは違う独自の完全に旅行用のキャンペーンだが、私は短い作品を作るためにこれを利用した。

もちろん交通費やレンタカー代などはかかるが、Go Toキャンペーンも含めて、このようなキャンペーンをアート活動に役立ててはどうだろう?そういう目で見てみれば、利用できそうなものはまだまだありそうな気がするし、ピンチをチャンスに変えて作品作りをする事は悪いことではないと思う。

それにしても北海道はやっぱりデカい!カーナビで見る距離感は東京に住む私の5倍はある。そして人が少ないので観光地でもない限りとてつもない大自然のロケーションの中で自由にゆったり撮影できる。3密とは程遠い世界だ。これから寒い季節になるが、このチャンスを皆さんの作品作りにもぜひ役立ててみて欲しい。

今、手元に企画がなくても、私のようにそういうチャンスに合わせて、何かできないか?と考えてみるのもいいと思う。少なくとも家に閉じこもって生活支援を待っているよりはずっといい。アーティストは作品を作ってナンボ!なのだ。

この撮影もギター演奏も編集も北海道旅行中にやった2分程度の作品は、マイクメーカーとして有名なRODEが主催するショートフィルムコンペに応募した。是非見て頂きVOTE(投票)、シェアをお願いします。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。