txt・構成:編集部
コロナ禍で番組制作のスタイルに変化あり
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、テレビ番組の制作現場に変化が起きている。出演者やスタッフが1か所に集まる集団制作から、密接を回避した環境改善やリモート出演へ、制作スタイルは一気に大きく変わった。
そんなコロナ禍で、映像伝送機器を取り扱うスターコミュニケーションズでは現場に人が出向かず、機材を必要としないリモートとクラウドの技術を使った新スタイルの配信サービスを開始した。同社代表取締役の岩下聖司氏にビデオ会議システムを通じて話を伺った。
※同インタビューは9月末に実施しました
――新しい映像ソリューションとはどのようなサービスですか?
スターコミュニケーションズは、映像機器・通信機器を取り扱う専門商社です。主にIP映像伝送システム「TVU Networks(以下:TVU)」や、AIカメラ「Pixellot」などを取り扱っており、高い反響を頂いております。
主に映像伝送機器がメインの弊社ですが、移動が制限されるとTVU製品をリモートプロダクションとしてご活用いただく機会が増えました。そこで弊社でも、移動やリソースの制限されているコロナ時代のニーズに対応できる3種類のソリューションを新しくご用意しました。
1つ目は現場スタッフ数・コストを抑えられる「リモートプロダクション」です。これまで中継車で行っていた作業を、IP(インターネット)でつないで遠隔で行えるサービスになります。2つ目はクラウドを活用し、テレワーク(在宅)で映像配信を可能にする「クラウドプロダクション」、3つ目は人手不足を補うハイレベルな撮影が可能な「AIカメラ」です。
その中でも特にイチオシなのは、スポーツ向けの配信サービス「クラウドプロダクションソリューション」です。現地で撮影された映像をクラウドにアップして頂き、配信に必要な全てのオペレーションをクラウド上で行う配信ソリューションです。クラウドを使うことでコストの削減が可能で、日本全国どこからでも1試合10万円から配信可能です。競技の制限もなくあらゆるスポーツ配信に対応します。
主に、すでにチームスタッフがハンディカムを回して他の業務と兼任しながら配信を行っている学生リーグやアマチュアスポーツ向けのサービスとなります。または、配信を手掛けるプロダクションというよりは、配信をしたいがどうしていいのかわからない、現在のライブ配信のクオリティーを上げたい競技の統括団体が対象と考えています。
ビデオ会議システムを通じて話を伺ったスターコミュニケーションズの代表取締役の岩下聖司氏
――クラウドを活用することの利点を教えてください。
これまでのスポーツ中継では、試合会場にカメラマン、音声、スイッチャー、配信管理などのスタッフが集まって作業をするのが当たり前でした。一方、クラウドプロダクションソリューションは、カメラマンは現場にいますが、それ以外のスイッチャーや配信管理スタッフは現場に集まりません。それぞれ遠隔地からテレワークで作業を行いますので、密閉、密集、密接の問題を回避することができます。
現在、スタジアムの中継制作・送信のスタッフは、2週間前から毎日検温して健康チェックが必要なほどの徹底的な対策が求められています。こうした現場で、体調不良でほかのスタッフに交代したくても、検温をしていないことを理由に断られる場合があります。クラウドによるリモートプロダクションは、立ち入りが制限されている現場作業を減らすことができる利点もあると考えています。
料金面でも魅力はあります。例えば、大分の配信現場にスタッフ2名が出張した場合、往復の交通費と宿泊代で合計約15万円ほどかかります。本サービスはクラウドによるテレワークにより、スタッフの出張費は発生しません。その分、コストを考慮した料金のご提案を可能にしています。
また、テロップ編集作業も特徴です。例えば、サッカー中継の場合、点数や経過時間がわからないと試合を楽しむことはできません。これまでのアマチュアスポーツ配信は、テロップなしの配信も多く行われていました。本サービスの場合、得点や時間表示など、普通のスポーツ中継によくあるテロップが入りますので、視聴者はスポーツの展開をより楽しむことができます。
これらの編集機能はスポンサーバナーの表示、CM挿入など配信のマネタイズにもなります。既に導入いただいているチームでは新しいスポンサー獲得、広告メニューの開発に繋がっていて、配信を通じて収益化のアップができているという嬉しいフィードバックも頂いています。
テロップの例。中継映像にロゴ、テロップ、スコアなどの表示が可能
選手一覧などの情報表示にも対応する
――現地の現場では、どのような様子で撮影が行われていますか?
弊社からは、TVUの伝送器「TVU One」、モバイル回線×6、TVU Producer、スコア確認用のIPカメラを提供し、お客様自身で撮影いただきます。お客様はカメラを接続するだけでOKです。複雑な操作はありません。
TVUの伝送器「TVU One」
コロナの影響で、東京などの関東首都圏からカメラマンが現地に入ることは難しい時代です。であれば、お客様のチームマネージャーなどに撮影いただいたほうが安心だと考えております。
スタジアムでの撮影の様子。TVU Oneバックパックを使うと、クラウドベースのTVU Producerにライブで送信することが可能
――配信管理やテロップ出し側は、どのような作業が行われていますか?
スイッチングや配信管理、テロップ出しは東京にある弊社スタジオ、もしくはスタッフの自宅から行います。アプリケーションは、TVU Producerとサードパーティーのクラウドテロッパーを使います。パソコンのブラウザ上で作業するサービスで、4カメまでの取り込みとスイッチングが可能です。また、映像にCMを入れたり、テロップやグラフィカルなアニメーションを入れることも可能です。
TVU Producerの配信管理の様子
グラフィックの追加、オーディオのミックスがブラウザ上から可能
※画像をクリックすると拡大します
――過去、どのようなイベントで使用されましたか?
日本フットボールリーグ(JFL)に所属するサッカークラブ「ヴェルスパ大分」のライブ配信に採用されました。
ヴェルスパ大分のライブ配信はカメラ1台でしたが、複数カメラやスマートフォンを使ってマルチカメラ化や実況を入れることも可能です。配信先は、お客様ご指定のYouTubeやFacebookチャンネルを指定できます。
当配信サービスは始まったばかりでお客様からのフィードバックを集めながらという事もあり、まだ検討中になりますが3段階のプランを予定しています(ライトプランは10万円~)。また業務委託ではなく自分たちでテロップや配信管理を行いたい場合は、クラウドソリューションをパッケージ販売し、導入支援や運用のコンサルティングが可能です。
クラウドプロダクション・ソリューションを使ってライブ配信したヴェルスパ大分VSソニー仙台FCの様子
――そのほかにも新しく提供開始した、リモートソリューションとAIカメソリューションについても教えてください。
TVU社独自の伝送技術IS+を搭載した最新のリモートシステム「TVU RPS」
その他のリモートソリューションとして、弊社ではSDI×6入力の同期をとり、6出力が可能な「TVU RPS」を提供開始しました。実は数年前から展開していたソリューションになるのですが、日本ではあまり活用されておりませんでした。しかしこのコロナ禍で一気にニーズが高まり、現在多数のお問い合わせを頂戴しています。TVU RPSはすでにゴルフを始めとしたスポーツ中継の現場で導入の実績があります。
AIカメラ「Pixellot」
もう1つのリモートソリューションは、AIを使ってカメラマンが撮影しているかのような自然なカメラワークを提供するAIカメラ「Pixellot」を2018年から取り扱っております。Pixellotは、実業団スポーツや学生・アマチュアスポーツから、スポーツ中継に使いたいと非常に多くの反響を頂いております。
国内男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」(Bリーグ)や、ラグビーの実業団チームの一部チームに分析用として導入頂いております。これまでは、マネージャーや分析スタッフが撮影していましたが、AIカメラ導入により、リモートでタブレットを使って振り返ることが可能となります。またコロナ禍で直接練習を見ることが出来ない監督、コーチが遠隔地からチームの練習状況をリアルタイムで確認することが可能です。
映像プロダクションでは、AIカメラ導入でカメラマンなしで試合が配信できる、制作費が削減できる、みたいなイメージで多数のお問い合わせをいただいておりますが、実際にはAIカメラは常設しないといけない、キャリブレーションと呼ばれるコートの座標を設定する作業が必要、などの手間を考えると、スポットでの短期利用には向かないのが実情です。
――様々なスポーツで配信の機運が高まっていますが、クラウドプロダクションソリューションのこれからについて教えてください。
プロスポーツ中継は、プロダクションが決まっており、きちんと配信できる仕組みができていますが、アマチュアスポーツは様々な会社が取り組んでいる真っ最中です。
スポーツはライブで楽しめるのが一番だと思います。そのきっかけとなるソリューションとして、クラウドプロダクションソリューションをご提案できたらと思っております。