Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

伊勢志摩のフィルムコミッション

前回お知らせした伊勢市の芸術家のためのワーケーションキャンペーンは、残念ながら落選した。採用された人の顔ぶれを見てみると、どうやら映画を作るグループというのは見られないようだが、どういう基準だったのかは定かではない。

このように、補助金には基準が前もってはっきりしないものが多くあり、あまり気にしていても始まらない。とにかく応募してみるべきだと今も思う。とはいうものの、今回は正直少し自信はあったのだ。伊勢にゆかりのある者がそのゆかりを映画にしようという企画だったので、こりゃ絶対通るだろうとタカをくくっていた。

それもあって、脚本もすでに出来上がっており、出演者やスタッフも揃え、それぞれに渡してあった。もちろん、未確定であるということは正確に伝えた上でスケジュールも仮押さえしてもらってもいたので、素直に謝りバラしてもらった。

今回はそれぞれが登録する必要があり、みんなに手間を取らせてしまって心苦しかったが、怒る人は一人もおらず、それどころか、ほとんどの人がなんとかこの作品ができないものかと言ってくれて本当に嬉しかった。もちろん補助がないまま実行するには金銭的にも苦しい問題があるが、それよりも、物語の内容上、伊勢市の協力がなければとてもじゃないけど撮影できない(ひょっとしたらそれが落選の理由だったかもしれない)。

もちろん私自身も作りたい作品ではあったし、特に役者たちが脚本を読んだ上でぜひやりたいと言ってくれるのが嬉しかった。そこで伊勢志摩フィルムコミッションに相談を持ちかけた。

伊勢志摩フィルムコミッションというのは公益社団法人伊勢志摩観光コンベンション機構が実施する事業の一つとして運営しており、例えばテレビドラマやメジャーな映画のように、地域のPRになるものをお手伝いするというもので、私たちのようなマイナーな活動に対して協力してくれるのかどうか不安ではあったが、初めの一本の電話からとてもフレンドリーで協力的だった。

当初希望していた200年続く旅館にも交渉をしてくれたが、今回については対応できないとのことで、やっぱり無理かと諦めかけていたところ、間髪入れずに別の候補を提案してくださった。こちらは現在旅館の営業はやめてしまっているということで、撮影にはもってこいだ。気をとり直して早速ロケハンに行くことにした。

そのロケハンの日程も立ててくださり、ずっと付き添ってくれたので交渉もスムーズに進み現実味を帯びてきたのだが、今度は伊勢神宮での撮影が難しい可能性があるいう。仕方なく他の神社を、と思ったのだが伊勢市内のほとんどの神社が伊勢神宮系列だということで、同じく交渉は難しいとされている。

もしかしたら以前に何か失礼なことをしてしまったロケ隊がいたのではないだろうか?残念ながらそういう話は時々耳にする。私のチームでは、お借りした場所の持ち主の気持ちをよく考え、来た時よりも綺麗にして返すということをモットーにしている。

ただ、注意をしていても失敗したことはある。前もって撮影が”夜遅くまでかかる”ということを伝え、”大丈夫だから気がすむまでやってくれ”との答えをもらっていたのだが、夜20:00を過ぎた時に「いつまでやってるんだ!常識をわきまえろ!」と怒られてしまったことがある。

これは全く私の落ち度だ。”夜遅く”ではなく”〇〇時まで”とはっきりお願いするべきだったし、地域や人によってそれぞれ常識は違うものだということを失念していた。それだけに地元のフィルムコミッションの方が間に入ってくれてアドバイスをしてくれるのは大変心強い。中にはこのようなトラブルを交渉にあたってくれたフィルムコミッションの責任にしてしまうチームもあるということを聞くが、もってのほかだ。

実際、伊勢神宮の件にしても、中に入れなくても外観くらいは大丈夫だろうと思っていたが、それも申請が必要だと話してくれた。知らずに写してしまったら、出来上がった後に問題になり、大変なことになっていたかもしれない。自分の作品だけに留まらず、その後のチームの要請にも支障をきたすこともある。

地方ロケにおいては、とにかく地元の人とフィルムコミッションと正確なコミュニケーションをとり、慎重に進めていくことが重要だ。今現在、伊勢志摩のフィルムコミッションは引き続き情報と提案をくれて、本当に親身になって協力してくれているので私も諦めるわけにはいかない。

地方に人材を残すということ

さて、ずっと以前に映画による地方創生についてこのコラムでも語っていたことがあったが、今回、伊勢志摩フィルムコミッションの方とゆっくりお話しする時間があったので、私の考えを伝えることができた。比較的新しい読者の皆さんのために、その概要を改めて書かせてもらうが、今回のように東京から映画を作るために行く我々に力を貸してくれることはもちろん大変ありがたいのだが、こういう機会を通じて、その地域に人材を残すということ。

伊勢のように豊かな自然と文化財が溢れているような環境の中で、地元の人たちが映画を作れないはずはない。現にそれを求めて私たちもやって来るわけだし、私たちのプチ・シネ手法、小さなチームで小さな予算で丁寧に作る制作術を見ていただければ、その可能性を実感してもらえるはずだ。

同時に足りない部分は改めてワークショップを開催してもいい。感性と環境は同等、あるいはそれ以上のものが地方にはある。技術と手法を身につけた人材がそこに生まれれば、地元で素晴らしい映画が作れる時代だということを伝えたいのだ。そして出来上がった作品は東京でなくとも、ダイレクトに世界中の映画祭に出展したり配信することだって可能なのだ。

もちろんその技術と手法は、その地域での産業としても使える。それほど現在はいたるところで映像が必要とされている。映像を志す人が、必ず東京やハリウッドに引っ越さなければならないという時代ではないということを伝えたいのだ。以前、こういう話をした地方自治体の方々は、今いち反応も鈍く、アクションを起こすには至っていないが、伊勢志摩フィルムコミッションで私を案内してくれた方は個人的に大変興味を持ってくださった。

もちろん、そういった活動はフィルムコミッションの範疇を超えているかもしれないが、少なくとも伊勢志摩フィルムコミッションは東京から来た人のお世話以外にも、地元の映画祭や若者たちの活動に関わっていると聞く。

そんな中で、何か協力してアクションを起こせないかと話し合った。簡単なことではないとは思うが、自分の映画とともに、そういう活動にコミットできればとても嬉しい。今後も話を続けていきたいと考えている。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。