Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

役者のプロモーション

海外で活動経験のある役者や監督なら、"セルフテープ"とか"デモリール"という言葉を耳にした事があるだろう。これは役者がオーディションや自分を売り込むために作る物だが、セルフテープは台詞を喋っている自分を撮ったもので、デモリールは実際に芝居をしているところを撮った物だ。私も海外の映画祭などに行くと、そこにいる役者たちからよくもらう。

ちょっと前まではDVDを手渡される事がほとんどだったが、最近は名刺やプロフィールなどにQRコードやURLなどがあり、そこからVimeoやYouTubeにアップされているデモリールにアクセスして見ることが主流になっているし、中にはその場でスマートフォンやタブレットで見せられる事もある。

考えてみれば役者のプロモーションとして、モデルのような写真やプロフィールの文字情報だけでは不十分だ。芝居をしている所が見たいわけで、少なくとも台詞を喋っている声は聞きたい。日本でもたまにある海外作品のオーディションやキャスティングでは必ず要求され、応募する役者が慌てて作るケースもよくある。

先日、流行りの音声会話アプリClubhouseでそんな話題を出した所、ほとんどの役者が持っておらず、「なんですか?それ?」なんて声もたくさん出た。日本国内では全く浸透していないようだ。コロナ禍において、オンラインのオーディションが多くなっているが、Zoomの映像や音声よりもずっと有用だろうし、むしろ「なんで用意してないの?」「なんで要求しないの?」と不思議に思うくらいだ。

おそらく近いうちにこれは常識になってくるだろう。Clubhouseでも質問攻めに合い、海外で活動する役者が作り方をレクチャーするルームができていたりと、ちょっとしたブームが起こったし、この意識改革は当然の成り行きだと思う。

セルフテープはできれば無地バックで何かの台詞を喋っているのをスマホで撮る程度の物で、すぐにでもできると思うが、デモリールの基本は今までの出演作品の中から自分が出ているシーンだけを抜き出して繋げた物だ。オーディションの時などに出演作品の中から自分が出ているシーンを探して見てくれる人はまずいないと考えた方がいい。

ただ、ここで問題になってくるのが、一部とはいえ、作品をそういう使い方をしてもいいのか?許可は取れているのか?という点だ。映画は権利の塊みたいなものだから、主な権利者や監督、場合によっては一緒に映っている役者にも許可をお願いしなければならない。

それは大変なことだし、許可が取れない事も多いと思う。そのシーンだけ抜き取ったり、他の登場人物をカットするために拡大して使うといった行為は作品の改編に当たり、法的にも無許可では行えない。またそこにBGMでも入っていようものなら許可は更に難しくなり、音楽だけを取り除く事は不可能だ。

私がお勧めするのは出演交渉の時に事前に許可を取っておく事だ。その交渉を容易にするためにはポイントがある。使用範囲を自己のプロモーションに限る事。一般の人には見られないようなプロテクトをする事だ。それを約束すれば、作品を一緒に作る仲間のためなら!と許可が取れる場合が多い。できれば契約書の中にそれを加えておくべきだろう。

時々デモリールをYouTubeやインスタグラムに無防備に公開している人を見かけるが、大丈夫か?と心配になる。私が受け取るデモリールのほとんどが、Vimeoにパスワード付きでアップされており、URLとパスワードが送られてくる。

そういう問題を一気に解決し、また、まだ出演作が充分に無い駆け出しの役者が作っているのがオリジナルのデモリールだ。あたかも映画の1シーンであるかのように撮ったり、著作権の無いエチュードとかを利用して撮るわけだが、それでも普通に発注すると費用が馬鹿にならない場合もある。

参考にして欲しいのは、モデル達がオーディションに行く時に持参しているブックと呼ばれる自分の写真集のような物。この中にある写真のほとんどが、カメラマン、ヘアメイク、モデルの3者がそれぞれのプロモーションのためにお互いノーギャラで撮られているケースが多く、作品撮りと呼ばれている。こういう活動に関してはほとんどのモデルプロダクションも認めており、企画さえ合えば自由に行われているようだ。

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ただ映画作家やカメラマンにとってこのようなデモリールが必要になる事はほとんどなく、メリットも少ない。本当にたまたまの事だが、私はこのコロナ自粛期間を利用して、大幅な機材の強化を行っている。新しい機材のテストやトレーニングが必要で、できれば人を撮りたいのだが、そのためだけにモデルを雇うのも贅沢だと思って我慢していた。そんなタイミングでデモリールを作りたいという役者がいる事を知り、シネマプランナーズを利用して募集をかけてみた。

「機材のテストにご協力頂ければモデル料はお支払いできないが、デモリールをお作りします。」といったもの。反応は良く、すぐに何人かの役者達が応募してくれた。その内、2名×2の2チームで2回のテストを行う事になって、ビデオ通話で読み合わせなどをして本番に臨んだ。

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名村 藍
東京Petit-Cine協会
長町 夏希

私としては機材のトレーニングができるだけで良かったので、内容や芝居のクオリティーに関しては口を出さず、あくまで役者達のやりたい事をやってもらうつもりでいたのだが、結局、台本は私が提供し、ついには演技指導までやる事になった。

ほんの1分前後の芝居だが、二人の会話を撮り、編集でそれぞれのみが映っているクリップを作る。なかなかの大仕事だ。だがこういう活動はアリだと思う。願わくば、役者達にもう少し主体性を持って欲しい所だが、今回は役者達もいい経験ができたと喜んでいた。

マンフロットの645 FASTツインビデオ三脚

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さて、今回のテストの主役はマンフロットから発売された645 FASTツインビデオ三脚。一つのロックで三段の脚が一度に固定できる物で、他メーカーからは同様の機能を持った物がすでに発売されていて、喉から手が出るほど欲しかったのだが、デザインと質感がいまいち気に入らなかったので我慢をしていた。今回、使い慣れたマンフロットから発売されたので、もう一気に飛び付いた。

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ついでにヘッドもすでに使い慣れているナイトロテックを新型に替え、こちらも前モデルでの不満が一気に解消された。とは言え、三脚は私の手足。無意識のうちに操作できるレベルまで慣れなくてはいけない。

そこで撮影場所をわざと山の斜面などにしてとにかく触りまくった。このFASTシステムは思った以上に良い!カメラや画角から意識を放さずに一瞬でセットができる。そうなるとわずか数センチの移動でも妥協せずに動かすようになる。

今回はツインタイプでのテストだったが、これが脚の角度が三段階、最高70°まで開くので、ローアングルでも斜面でもどこにでも置ける。充分な剛性があり、最後までスプレッダーを付ける必要は無かった。ナイトロテックのヘッドもノブを回す方向が逆になっていたりしたが、前モデルより感覚的に自然な方向になっていたため、慣れるのに時間はかからなかった。

私の三脚としては行き着いた感があり、もう死ぬまでこれでいいなと思えたほどだ。願わくば旅行用にこのまま小さくした軽量モデルが欲しいな、なんて贅沢な事を思ってしまうが、いえいえ、どこへでもこいつを担いで行きましょう!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。